捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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たまご

 普段から賑わっている秋葉原の街だが、今日はいつもと違う賑わい方を見せていた。

 秋晴れの空の下に、思い思いの格好に身を包んだコスプレイヤー達が秋葉原の街を占領している。俺は数少ないただの私服だ。マジかよ。まだぼっち力は健在なのか……長年の習性って怖い。

 ちなみに他の3人はというと、材木座は鎧を着て歩く度にガッチャガッチャとうるさく、戸部はサッカー選手のユニフォームで騒がしく、戸塚はいつか着ていた魔法使いのマントが可愛かった。まさか本当にコスプレするとは……べ、別に寂しくなんかないんだからね!

 

「ヒキガヤ君、私服とかマジうけるわー」

「あはは、まあ……さすが八幡だね」

 

 多分、いや間違いなく褒められてはいない気がする。二人のお言葉を頂戴し、人ごみを上手く躱しながら、俺は苦笑するしかなかった。

 

「その方、スクールアイドルのライブはいつから始まるのだ?」

「ああ、13時からだ。まだ、もう少し時間がある」

 

 材木座が武将気取りなのはウザいが、まあお祭りだし、極力シカトしておこう。害はない……はず。不快だけど。

 

「μ'sは最後の方だからね」

「あ、いたいた!こっちにゃー!」

 

 少し離れた所から、こっちを呼ぶ声がする。人ごみの中でもよく通り、なおかつその特徴的な語尾で、誰のものかは明らかだった。

 

「あ、星空さーん!」

 

 戸塚がいち早く反応する。その反応が嬉しかったのか、星空はこっちに向かって、器用に人ごみをかき分けながら、駆けよってきた。

 

「ひっさしぶりにゃー!!」

「うん、元気そうだね!」

「もっちろん!そして……」

 

 星空はこちらを見てニヤニヤしている。もちろん予想していた。

 

「比企谷先輩おめでとう!かよちんを泣かせたら許さないにゃ!」

「……ああ」

「それと材木座先輩と……」

「ちぃーす!俺、戸部翔っす。ヒキガヤ君達のマブダチだから!」

 

 いつの間にか俺達の関係は、マブダチにアップデートされていた。まあ、別にいいけど。

 

「あはは!なんか面白い人にゃ!μ'sの星空凛です!よろしくお願いしますにゃ!」

「うむ、では行こうか!」

「いや、何でお前が仕切ろうとしてんだよ」

 

 場所知らねーだろ。黙ってしんがりを務めてろよ。

 

 *******

 

「皆を連れて来たにゃー!」

 

 ノックもそこそこに扉を開けた星空に続き、控室に入ると、こちらは想像以上に騒がしく出迎えられる。

 

「わあー!花陽ちゃんの彼氏だ!やっと生で見れたよーーーー!!」

「本当だ~♪ねえ、花陽ちゃんとの事をじっくり聞かせて♪」

「こら、二人共!まだ挨拶をしていないでしょう!」

 

 すごい勢いで詰めよってきた高坂さんと南さんを、園田さんが制する。ちなみに俺は園田さんに軽くびびっていたので、初対面の空気感とかが余り感じられない。戸部のテンションが上がっているが、異性としてではなく、有名人を見かけた時のような感じに見える。何だかんだ一途ではあるのだろう。

 

「比企谷君!」

 

 園田さんの制止を振り切るように、いきなり絢瀬さんがずいっと詰めよってきた。その勢いに、俺は足が竦んで動けなくなる。

 彼女はどこか慌てたように口を開いた。

 

「は、花陽と付き合ってるの!?」

「……あ、はい」

「そう……そうなの。付き合ってるの……」

 

 何故かしょんぼりしてしまう。あれ、あまり歓迎されてない?

 

「はい、エリチそこまで。落ち着き」

 

 東條さんが間に割って入ってくれる。うん、相変わらずいいおっ……いい人だ。……だって仕方ねーじゃん!男の子なんだもん!材木座だって戸部だって、今見てたもん!

 

「比企谷君、はやく愛しの彼女に会わんでええの?」

 

 東條さんの言葉に合わせるように、その背後から、ひょこっと花陽が出てくる。

 その待ちに待った姿は、1週間前に見たばかりなのに、すごく久しぶりに思えた。

 

「八幡さん……」

「お、おう……」

 

 自然と手が花陽の髪に触れる。待ち望んだ感触を味わいながら、見つめ合う。それだけで胸が高鳴り、頬が緩んだ。

 

「……その、何だ。応援してる」

「はい、見ててくださいね」

 

 そう言ってにっこりと微笑む姿を見てると、引き寄せたくなってしまうが、ここは堪えなければならない。今は見守ることに専念しなければ。

 

『…………』

 

 周りの色んな感情が入り混じった生温かい視線に気づくのには、しばらく時間がかかった。

 

 

 




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