捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
それでは今回もよろしくお願いします。
人の少ない下駄箱で靴を履き替え、いつもの道をなぞるように教室へと向かう。
生徒会庶務に就任してから数日が経ったが、今のところ日常にさしたる変化はない。そりゃそうだ。学校内における所属団体が変わっただけだ。たったそれだけで何かは変わらない。今はじっくりとしっかりと足場を固めていけばいい。それを淡々と繰り返すだけだ。
「あ、ヒッキー。おはよう」
背後から、てててっと由比ヶ浜が駆けよってくるのが聞こえる。
「おう」
「あの……生徒会の方はどう?」
「……引き継ぎは済んだから、あとは定例会議の日時決めだな」
「そっか」
リュックを背負い直した由比ヶ浜は、やや下に視線を向けたまま、いつもよりボリュームを絞った声で聞いてくる。
「あのさ……何でヒッキーは変わろうと思ったの?」
「…………」
「その……だ、誰か……」
「さあな。それよか、そっちはどうなんだ?」
話題を無理矢理変える。由比ヶ浜は俺の気持ちを察したのか、それ以上は追求せずに、こちらの質問に答えてくれた。
「あー、ゆきのんはいつも通り……かな」
「そうか」
「うん。その……色々何か抱えてるんだと思う。でもね……あたし何があっても待つよ。そんで……たまに踏み込むの。……これまで、ヒッキーに甘えてばっかだったから」
「いや……俺は何もしてねーよ」
「はいはい」
そこでいつもの調子を取り戻したのか、からかうように返事しつつ、俺の数歩前を歩き出した由比ヶ浜は、どこか清々しかった。その背中がいつもより頼もしく見えたのは気のせいじゃないんだろう。
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「そういえば、今度の日曜日にハロウィンイベントがあるんだよね?」
「ああ……そういやそうか」
あれで盛り上がる奴らがハロウィンの本当の起源やらを知ってるとは思わんが。
「うむ……我々はそのようなリア充イベントなどし、し、知らん!」
おい。我々って……勝手にお前と同じグループに入れるな。
「ハロウィンとかマジやべーわ。最近盛り上がりまくりんぐでしょー」
たまにベストプレイスに顔を出す材木座と、日替わりでここと葉山グループに顔を出す戸部も、ハロウィンには興味があるようだ。
戸部の言う最近とは、ここ数年の事だろう。いつの間にか、リア充御用達の一大イベントになっている。普段なら鼻で笑うイベントだが、今年は秋葉原でスクールアイドルがハロウィンイベントをする事になった。
「俺は行く。コスプレはしないが」
むしろ花陽と戸塚と小町をコスプレさせたい。花陽は白米で手をうってくれるだろう。いや、無理か。
「あ、僕も行くよ」
戸塚はおそらく星空と約束でもしているのだろう。何故知っているかというと、小町が電話で大声で話しているからである。
「うむ。我も行ってやろう」
「何で上から目線なんだよ……」
お前は西木野のコスプレ姿が見たいだけだろ。やっぱり興味津々じゃねえか。
「俺も行っていい?」
「俺に決める権限なんてねーよ。でもイベントは人数多い方が盛り上がるだろ」
「そうだね。戸部君盛り上げ上手だし」
「そりゃあ、イベントは楽しまないと損でしょー!μ'sより目立つかもしれないわー」
「それは止めとけ」
石投げられても文句言えんぞ。
戸部にツッコミを入れていると、メールが来た。東條さんからだ。何やら添付されている。
開いてみると、動画のようだ。
そこには見慣れない恰好をした花陽がいた。
『にっこにっこに~!あなたのハートに、にこにこに~♪笑顔届ける矢澤にこにこ~♪青空も~、にこ♪』
……花陽さーん、何やってますかー?
いや、可愛いけどさ。うん、可愛い。てか、何でこんなに可愛いの?
「「「…………」」」
3人のニヤニヤした顔に苦笑で返し、お宝動画を保存した。東條さん……恩に着るぜ。
読んでくれた方々、ありがとうございます!