捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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ラクガキ王国

「……どうしたの?お前……」

 

 とりあえずもう一度席に着き、戸部に向き直る。予想外すぎる展開しか訪れなくて、割と困惑気味である。

 

「いや、あのさ……ヒキタニくんって、誰に対しても真面目っつーか……真剣に向き合うじゃん?ほら……林間学校の時も……」

「……まあ、お前らにヤな役押しつけたけどな」

「でも、最後は自分が泥かぶるつもりだったじゃんか。それに相模さんの件も……多分、ヒキタニくんがああするしかなかったんじゃね?なんつーか、準備の時も、相模さんが文実サボりすぎじゃん?って空気になってたし……途中からヒキタニくんがスローガン決めでなんかひでー事言ったとか言われてたけど……」

「…………」

「俺……あん時、ヒキタニくんの事を悪く言ったけど……本当はうらやましかったっつーか」

「いや、お前が俺に対して羨ましがる事なんか、何一つねーだろ」

 

 こいつはぼっちに憧れているのだろうか。いや、んなわけねーか。背後で自動ドアが開く音がして、誰かが入ってくるのを感じながら、俯いた戸部を見る。その目はどこかもどかしそうに伏せられ、両手は膝の上に置かれていた。

 

「あー、何て言うんだっけ、ああもうよくわかんねー!っべーわ」

「…………」

「あの、その時の事も含めてごめんっ!それと俺の友達になってくんねーかな」

「……お前がそうしたけりゃそれでいいんじゃねーの?」

「え……マジ?じゃあ連絡先交換すっべー!」

 

 はやいはやい。はえーよ。依頼に来た時もそうだが、こいつ変わり身はやい。まあ、良く言えば切り替えが上手いんだろう。

 今から友達なら、俺としてはまず言うべき事がある。

 

「その前に言っとく事がある」

「?」

「俺はヒキタニじゃなくてヒキガヤだ」

 

 *******

 

「いっちにー、さんしー♪」

「………」

「♪~」

 

 今日は天気がよくて風が気持ちいいな。八幡さん、何してるかな~。

 

「あの……花陽」

「はい♪」

 

 ストレッチをしていると、海未ちゃんが少し引き気味にこちらを見ている。どうかしたのかな?

 

「何かあったのですか?さっきから……というか、今日ずっと笑顔のままですが……」

「そ、そうですか♪」

「幸せそうだね!」

「なんか良いことあったん?比企谷君と♪」

「え♪そ、そんな♪えへへ♪」

 

 八幡さんと恋人同士になって……そして……。

 考えている内に、ことりちゃんと希ちゃんが顔を見合わせる。

 

「何か……」

「あったみたいやね……」

 

 二人の言葉に反応した凛ちゃんが大声で宣言する。

 

「かよちんは比企谷先輩と付き合い始めたにゃ~!」

「「「「「「「え?」」」」」」」

 

 その言葉に皆が一斉に、それぞれ反応をする。

 

「花陽ちゃん、本当に!?」

「は、は、花陽!あ、あなた……」

「花陽ちゃ~ん、詳しく聞かせて~♪」

「ち、ちょっと花陽、何で言ってくれないのよ!」

「なぁなぁ、どこまでいったん?」

「バ、バカ!希!私達はアイドルなのよ!?」

「は、は、は、花陽!ほ、ほ、ほ、ほ、本当なの!?ひ、比企谷君とキ、キスしたの!?」

「キス……えへへ♪」

 

 まだ唇に残る甘い熱を確かめると、思わずにやけてしまう。数時間前にしてばかりだから、まだしっかり覚えている。というか忘れられそうにない。

 唯一、絵里ちゃんは顔を伏せていた。

 

「そう……比企谷君は花陽を選んだのね……」

「いや、エリチはこの前会ったばっかやん」

 

 あれ?絵里ちゃん、どうしたのかな?何だか哀しそうだけど……。

 

「あ、いたいたお姉ちゃん。差し入れ~、って何してるの?」

 

 バスケットを手に、雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんがやってきた。二人共、最近スクールアイドルの活動に興味を持ってくれているから嬉しいなぁ。

 そこで穂乃果ちゃんが、珍しい生き物を見つけた子供のように二人に声をかけた。

 

「花陽ちゃんに彼氏が出来たんだよ!」

「ぴゃうっ!」

「か、彼氏!?いいの!?アイドルなのに!」

 

 穂乃果ちゃんの突然の暴露に慌ててしまう。雪穂ちゃんの反応ももっともだと思う。

 そこで真姫ちゃんが口を挟んだ。

 

「スクールアイドルだから、節度を持った付き合い方をしてれば問題ないわ」

「あ、なるほど」

 

 真姫ちゃんのフォローで、雪穂ちゃんもなるほどと納得してくれる。

 

「へえ~、どんな人なんですか?」

 

 興味津々といった感じの亜里沙ちゃんが、可愛らしく小首を傾げた。

 

「この人だよ」

 

 穂乃果ちゃんが、この前のイベントの後、皆で撮った写真を出し、八幡さんを指し示す。

 亜里沙ちゃんと雪穂ちゃんはぐっと顔を近づけた。

 

「わあ、目は怖いけど優しそうな人ですね~」

「こら、雪穂!そういう事言わないの!目が腐ってるとか関係ないんだから」

「いや、そこまで言ってないし……どうしたの、亜里沙?」

「ハラ……ショー……」

「え?」

 




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