捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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 響け!ユーフォニアム2が面白かったです!

 それでは今回もよろしくお願いします。


エンドロールには早すぎる

 カーテンの隙間から、うっすらと朝陽が漏れてくる。秋の目覚めは少しずつ、寒くなり始めていた。

 それでも、晴れた事に安堵を覚えながら、微睡みの中で、布団の温もりを感じる。

 すると、ノック音が聞こえてきた。

 あえて無視する。

 10秒ぐらい経って、こっそり誰かが入ってくる気配を感じた。はて、誰だろうか(棒読み)。忍び足で近寄ってくる気配に全神経を集中させ、その動きに期待……もとい、その動きを警戒する。

 やがて、その気配はベッド脇で動きを止め、こちらを窺っているように感じられた。

 

「ふふっ、可愛い♪」

 

 その謎の気配……というか花陽は、ものすごく機嫌よさそうに、こちらの頬をつついてくる。ええい、やめんか。

 しばらく頬をつついてから、今度は優しく頭を撫でてくる。

 

「よーしよし♪」

 

 はっきり言おう。恥ずかしい。だが気持ちいい。何ならこのままもう一眠りしてしまいそうだ。

 

「はっ!私ったら……小町ちゃんに八幡さんを起こしてって頼まれたのに……」

 

 急に一人で慌て出す。安定の花陽クオリティだった。

 

「は、八幡さ~ん。起きてくださ~い」

「…………」

 

 優しくゆすられる。ああ、人から起こされるってこんなに気持ちよかったっけ?

 

「朝ご飯できてますよ~。白米ですよ~」

 

 それが通じるのは小泉家だけのような……。

 まあ、花陽は早く帰らないといけないので、もう起きる事にするか。

 寝返りをうち、ゆっくりと体を起こす。

 

「……おは……」

 

 声が出せなかった。

 こちらが向き合った瞬間、花陽の顔がほぼゼロ距離にあり、唇が重なっていた……思考がまだ上手く働かない。夢の中にいるのだろうか。

 

「…………んん」

「…………っ」

 

 やがて花陽の方から離れていく。

 

「…………お、おはようございます」

「あ、ああ、おはよう」

 

 花陽は照れ笑いを浮かべながら、口元に手をやる。その仕草がやけに色っぽくて、とくんと胸が高鳴るのを感じた。

 

「い、いきなり、ごめんなさい。その……八幡さんを見てたら……つい……」

「いや、俺でよけりゃ…………」

 

 頭をがしがしとかきながら、照れ隠しをする。

 すると彼女は頬を膨らませた。

 

「八幡さんじゃなきゃ……だめなんですよ?」

 

 上目遣いで責められてしまった。こう言われては、何だか照れ隠しが馬鹿らしくなってきた。

 じゃあ遠慮なくと言わんばかりに、無言で花陽の頭を撫でる。気持ちよさそうに目を細める姿が、少しカマクラに似ている気がした。まあ、あいつは花陽ほど素直じゃないけど。

 そのまま腕を引き寄せ、花陽の艶やかな唇を見つめる。その柔らかさをまだまだ焼き付けたかった。

 お互いに気持ちを察して、目を閉じる。もう一度重ねた後、笑顔を交わした。

 

「…………」

「……おはようございます」

「ああ、おはよう。さっきも言ったけど」

「えっと……朝御飯ですよ」

「わかった」

 

 綻んだ笑顔に、今日も世界が色づいていくのを感じた。

 

 *******

 

 

 朝食をとり、支度を終え、花陽と駅まで歩く事にした。玄関先で、小町が「お兄ちゃん、お義姉ちゃん、いってらっしゃーい!」とお見送りしてくれたのは、何ともいえない気持ちにさせたが、花陽のほうは昨日と違い、満面に笑みが溢れている。

 

「元気だな。昨日は眠れたか?」

「はい、小町ちゃんと話してたらいつの間にか……」

 

 昨日、花陽は小町の部屋で寝た。高校生らしい節度を持ったお付き合いを目指す俺としては、当たり前の選択だ。そう、当たり前の……選択だ。な、泣いてなんかねーよ!

 ふと気づけば、どちらからともなく手が繋がれていた。

 

 *******

 

 取り留めのない話を重ねている内に、駅に着いてしまった。

 名残を惜しむように、するりと指がほどけ、手のひらには空白ができる。その空白を握りしめ、寂しい表情は打ち消した。

 

「帰り……気をつけてな」

「はい。八幡さんも、はやくケガ治してくださいね」

「ああ、そんでハロウィンイベント見に行く」

「……はい!絶対に来てくださいね!そ、それじゃあ、行ってきます!」

「……おう」

 

 彼女は寂しさを振り払うような笑顔を見せ、改札へ向かう。俺はその小さな背中を黙って見つめていた。

 そうしていると、いきなり花陽は俯いたまま振り返り、こちらへ駆けてきた。

 

「花陽?……っ」

「……ん」

 

 初めての時みたいに押しつけるような感情任せのキス。

 すぐに離れていったが、しっかりとその甘やかな感触は焼き付けられた。

 朝なので、皆自分の行き先で頭がいっぱいなのか、あまり見られてはいないが、それでも何人かは驚いた顔でこちらを見ていた。その視線に俺がしどろもどろしている間に、花陽はやわらかな微笑みを残し、改札を颯爽と通り抜けていった。その背中は昨日までのものとどこか違っていた。

 

「すげえな。あいつ……」

 

 甘い熱が冷めやらぬ内に帰路につこうと踵を返すと、見知った顔が少し離れた場所からこちらを見ていた。

 そいつはかなり驚いた顔で、こちらにおそるおそる手を振る。

 

「ち、ちぃーす、ヒキタニ君……」

「……戸部」

 

 戸部は何故か顔を赤らめていた……別に可愛くない。

 

 




 読んでくれた方々、ありがとうございます!

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