捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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白い炎

「そんな事が……」

「うん……」

 

 戸塚先輩から修学旅行での八幡さんの話を聞いてしまった。

 何というか……八幡さんらしいな、と思う。

 高校の修学旅行という人生に一度の貴重なイベントの時間を、自分のためじゃなく、誰かのために使ってしまう。そんな優しさや不器用さ。それを文句を言いながらも、惜しみなく出してしまう八幡さんに対して、嬉しさや尊敬と同時に、切なさも感じてしまう。

 嘘告白については驚いたし、やっぱり複雑だけど、文化祭の時のように、八幡さんができるだけの事をやっただけだと思う。

 

「八幡って、誰にも相談とかしないし、弱音とかもそういう時には吐かないからさ」

「はい……わかります」

 

 そこはちょっと怒ってるかも。

 私は……全部受け止めるのに。

 戸塚先輩は話を続けた。

 

「今回も……八幡、気にしてるんだと思う。嘘告白しちゃった事を……」

「…………」

「八幡って、本当に小泉さんの事が……」

「……戸塚先輩?」

「いや、これは八幡から直接聴いた方がいいと思うから」

「……はい」

「小泉さん。僕ね、二人が一緒にいるところを初めて見たときに……お似合いだなぁって思ったんだよ」

「え?ど、どうしたんですか?急に……」

「……八幡の事……助けてあげて。八幡と一緒にいてあげて」

「……はい」

 

 通話を終えてからも、しばらく私は立ちすくんでいた。

 

「かよちーん!パフェ食べに行くにゃ~!」

「ごめんね、凛ちゃん。私……行くところが、行かなきゃいけないところがあるから」

 

 ****

 

「悪ぃ、帰るわ」

「ヒッキー……」

「…………」

 

 険悪な空気のカフェを出る。葉山は気を遣ってくれたのだろうが、今はそれをありがたいと思える程の余裕もなかった。何より今は花陽の事以外考えていられなかった。

 

「比企谷……」

 

 由比ヶ浜以外に折本の声も聞こえてきたが、振り返らずに、いつもより大きめの歩幅で歩いた。

 外はすっかり暗くなり、気温はすっかり冬が近い事を知らせていた。

 先日、戸塚に言われた事を反芻する。あんな戸塚は初めて見た。

『八幡は悪くない』

 だが今の俺では、やはり花陽を失望させてしまうのではないだろうか。花陽を傷つけてしまうんじゃないだろうか。そう考えるだけで、気持ちが沈んでしまう。

 同じ事を考えている内に、気がつけば駐輪場に辿り着く。かなり歩いたはずだが、全然疲れていない。最近のジョギングは無駄にはなっていないようだ。

 倒れていた自転車を乱暴に起こして、押しながらゆっくりと歩く。もう少し外にいたい気分だった。見上げた空には、月も星も見えない。確か今夜から雨のはずだ。

 のろのろと校門を出ると、聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「はあ……はあ……八幡さん……」

「……花陽?」

 

 そこには、少し汗ばみ、息をきらせた花陽が立っていた。

 

 


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