捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
『悪い。奉仕部の活動が忙しかった。しばらくは忙しい日が続きそうだ』
スマートフォンの画面に表示された文章を見ながら溜息をつく。もちろん文字が変わったりはしない。
何がこんなに不安にさせるんだろう。
ただ私が声を聴きたいだけなのかもしれない。
もしそうだとしたら、八幡さんに迷惑だと思われないかな?
再び溜息を吐いたところでコール音が鳴り、その不意打ちに体が小さく跳ねた。
「誰だろう?……小町ちゃんだ!」
自分から小町ちゃんに電話して事情を聞くのは、さすがに図々しいと思い、気が引けていたのだけれど、この際だから、もう彼女に聞いてみよう。
「あ、花陽ちゃん。今、大丈夫?」
「もしもし、小町ちゃん?うん、大丈夫だよ」
「実はね……聞きたい事があるんだけど」
「うん、何かな?」
「お兄ちゃんと最近、何かあった?」
「え……?」
「花陽ちゃん?……大丈夫?」
「あ、うん、ごめん……でも、どうしかしたの?」
「いやー、最近お兄ちゃんがなんかおかしいというか、元気ないからさ。またバカやって、花陽ちゃんとケンカでもしたのかと思って」
小町ちゃんの言葉を聞いている内に、どうやら自分の直感が当たっていると確信した。
彼女は少し声のトーンを落とし、ぽつりと呟いた。
「それで、何かあったなら……小町に何かできればなって思って……」
八幡さんと小町ちゃんの繋がりの強さを改めて感じた私は、少しだけ安心して、ゆっくりと胸の内を明かす。
「実は、私も小町ちゃんに聞こうと思ってたんだ。私は小町ちゃんみたいに見たわけじゃないけど、少し……不安で……」
「どうしたの?お兄ちゃんなら花陽ちゃんにぞっこんのベタ惚れだから心配しなくていいよ」
「あうぅ……ベ、ベタ惚れって……」
そう……なのかなぁ?
いきなりからかわれて顔が熱くなり始めたけど、高鳴る感情を振りきって話しを続ける。
「あの……連絡は返してはくれるんだけど、よそよそしいというか、避けられてるというか」
「……はぁ~、全くあのゴミぃちゃんは……花陽ちゃんにまで心配かけて……」
「いや、それは全然いいんだよ。でも……何も言ってくれないのは……寂しいな」
「花陽ちゃん……ごめんね。それと、ありがとう。お兄ちゃんの心配してくれて」
自分の兄を心の底から気遣う小町ちゃんの声には、じんわりと胸に染みる温かさがあった。
「でも……私達が知らないって事は……」
また、文化祭の時みたいに学校で何かあったのかな?
「う~ん……」
小町ちゃんも同じ考えのようだ。お互いに、会話の空白を思考で埋めながら、一つの考えに辿り着く。
「「戸塚先輩」さん」
材木座先輩は違うクラスだから、戸塚先輩に聞くのが無難だろう。小町ちゃんとの通話を終え、急いで戸塚先輩の電話番号へと指を走らせた。一秒でも早く知りたかった。
八幡さん……何があったんですか?
はやる気持ちを抑えながら、コール音を黙って聞いていた。