捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
秋の京都は修学旅行の学生だけではなく、普通の旅行客や外国人観光客で溢れていた。まあ、日本最高峰の観光都市・京都なので、年中こんなものかもしれない。要するに……人混みは嫌い!ってだけだ。
「八幡」
「どした?」
戸塚がちょんちょんと指で優しく背中をつついてくる。今日も絶好調の天使ぶりだ。守りたい、この笑顔。
「顔暗いよ。どうかしたの?」
「デフォだよ。生まれた時からこんなもんだ」
「そう?てっきり、小泉さんがいなくて寂しいのかと思ったけど……」
「…………」
案外当たっているから困る。さっきから、どんな名所を見ても、どんな道を歩いても、花陽と来た時の勝手なシミュレーションをしてしまう。うっかりニヤニヤしていたら、由比ヶ浜からドン引きされたくらいだ。
それともう一つ、この修学旅行をぼーっとやり過ごせないのは、奉仕部への依頼があるからだ。第一の依頼は戸部の海老名さんへの告白の手伝い、そして、雪ノ下も由比ヶ浜も気づいてない第二の依頼は、その告白の阻止。相反する依頼の解決の糸口はまだ掴めてはいない。関係を変えたい戸部、変えたくない海老名さん……どうしたものか。
「八幡?」
「いや、全く当たってないわけじゃないからな。でもお前も星空がいなくて寂しいんじゃないのか?」
「え、あ、う、うん……」
戸塚が顔を赤らめている。はあ…………何て可愛い。
*******
「八幡さん、こんばんは」
「おう、どうかしたか?」
夜の自由時間。部屋の隅でインテリアの一部になっていたら、メールで『電話大丈夫ですか?』なんて送られてきたので、すぐに部屋を出た。誰からも何も聞かれなかったので、こういう時にぼっちの動きやすさがありがたくなる。
「あの……京都はどうですか?」
「まあ、悪くない」
「あはは……八幡さんらしいです」
「そっちはどうだ?」
「はい、ラブライブの予選も近くなってきたので、絵里ちゃんのダンスレッスンがいつもより厳しかったです!」
厳しいと言ってる割には嬉しそうだ。充実している事が窺える。
「……絢瀬さんか。元気にしてるのか?」
「八幡さん……今変なこと考えてませんか?」
「な、何でだよ。特に意味はねーよ」
話が飛躍しすぎている。ワープ進化もびっくりだ。
「この前も絵里ちゃんの胸を変な目で見てたし……」
「み、見てないろ!」
はい、本当は東條さんの胸も見てました。ハチマン、ウソ、ツカナイ!
「あれ?花陽最近少し痩せたか?」
「そんなんじゃごまかされませんよ!」
「ま、あれだ。今度ハロウィンイベント出るんだろ?頑張ったら、おいしい白米奢ってやる」
「むう……ありがとうございます」
電話先で頬を膨らましながら、白米を思い浮かべる花陽の、微笑ましい姿が見えた気がした。
「じゃあ、そろそろ風呂の時間だから」
「あ、はい。じゃあ、気をつけて楽しんできてください!帰ったら沢山お話聞かせてくださいね」
「おう、ぼっちの修学旅行のやり過ごし方を教えてやる」
「そ、それはいいです。それでは、お休みなさい」
「おう、お休み」
ほっこりしたところで、部屋に戻ろうとすると、雪ノ下に遭遇した。
「あら、奇遇ね」
「おう」
「……あなたにも電話をかける相手くらいいるのね」
「聞いてたのか」
「いえ、声が少し聞こえただけよ」
「そうか」
すれ違いざまに、一応確認しておく。
「なあ、雪ノ下……今回の依頼、どう思う?」
彼女は口元に手をやり、首を傾げながら答えた。
「正直、難しいわね。戸部君がどうこうではなくて、海老名さんのタイプではなさそう。ただ奉仕部の理念から考えると、仕事はあくまで告白の舞台を整える事だから、私なりに場所を探してみるわ」
「わかった」
確認を終え、部屋に戻る。さて、戸塚と風呂に入って何か考えよう。やっとメインイベントか。
ちなみに雪ノ下はこのあと、平塚先生とラーメンを食べに行ったらしい。