捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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君だけを

 ラーメンを食べ、平塚先生と別れた後、俺と花陽は広い公園に来ていた。ジョギングしている人、犬の散歩をしているお年寄り、ベンチに座って話し込む女の子、シートを広げてお弁当を食べている家族連れ、様々な人々が思い思いの時間を過ごす場所に、何となく混ざってのんびりしていた。

 空いているベンチに腰掛け、そこそこ大きな池を見ながら、花陽が口を開く。

 

「平塚先生って格好いいですね。私もあんな風になりたいなぁ……」

「い、いや、大丈夫。大丈夫だから。ならなくていいから」

 

 突然の爆弾発言に体の芯から震えてしまった。これは全力で阻止しなければならない。

 

「八幡さん、学校でも面白いんですね」

「いや、別に面白くなんかねーよ。本当に面白かったら今頃人気者だっての」

「ふふっ、そうですね」

 

 ぼんやりと穏やかな景色を眺め、肩と肩が触れ合うか触れ合わないかの距離を意識しながら、取り留めのない会話をする。こんな時間がお互いにとって馴染みのあるものになっている事が、妙にくすぐったくて、嬉しかった。

 

「まだ……半年なんですよね」

 

 雑音の隙間を狙ったようなぽつりとした呟きに、辺りが静まった気がした。だがそれも一瞬で終わり、すぐにはしゃぐ子供の声が聞こえてくる。

 沈黙で続きを促した。

 

「八幡さんと出会ってから……μ,sに入ってから色々とあったけど……まだ、半年ぐらいしか経ってないんだなって思って……」

 

 花陽の視線は、静かに揺れる湖に注がれていた。だが、見ているものが水面なのか何なのかはわからない。

 確かに、この半年は自分のこれまでの人生の中でも、かなり濃い時間を過ごした。俺の場合は、それまでが空っぽだったから、特にそう感じてしまう。

 

「何だか、楽しすぎて……幸せで……」

 

 ふわっと左肩に重みを感じる。そして、その重みからはいい香りがして、いつかのように気持ちを和ませる。

 

「それでも……まだ欲張りで……」

 

 その言葉にはっとさせられた。

 改めて、自分が花陽の優しさに甘えて、彼女を待たせているのだと知った。

 だが俺は……

 

「す、す、すいません!わ、私ったらいきなり!」

 

 急に花陽がわたわたと慌てだす。自分の言葉を悔いてしまっているようだ。

 だが違う。そんな必要はない。

 本当に謝るべきは俺だ。

 自分が成長したら、などと理由をつけて先延ばしにしてた愚図な俺だ。

 俺は花陽のことが……

 その衝動は不意に訪れた。

 

「花陽」

「は、はい?」

「ら、来月……遊園地行かないか?」

「え……」

「ついでに……修学旅行先で買ったお土産も渡したいし……」

「は……はい」

「…………伝えたい事がある」

「…………」

「聞いてほしい事が……あるから」

「…………はい!」

 

 最高のタイミングとは思わない……半ば強引に、勢いに任せて言った。だが後悔とかそういうのはない。

 

「……私、待ってます」

 

 隣にいる少女は確かに笑っていたから。

 広い公園の中は、今日もそれぞれの時間が流れていた。


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