捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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黒い翼

「すまない……取り乱してしまった」

 

 ラーメン屋の店内に向けて並ぶ2、30人の行列。その真ん中ぐらいで、一人だけ場に不釣り合いなドレスを着た平塚先生が、申し訳なさそうに俯いていた。何故か自然な流れでついてきているのは、ツッコんではいけない。 

 

「まあ……気にせんでください」

「そ、そうですよ……周りの男性が平塚先生の魅力に気づいていないだけですよ」

「あ、あ、ありがどぉ~!!」

 

 平塚先生は花陽に抱きついて、その豊かな膨らみにぽふっと顔をうずめる。う、う、うらやましいなんて思ってないんだからね!つーか、これじゃあどっちが教師かわからんぞ。

 花陽は照れ笑いしながら、優しく平塚先生の頭を撫でていた。そこまで優しくしなくていいって。

 しばらくして、先生は顔を上げる。

 

「そういえば比企谷。この子は総武高校の生徒かね」

「違いますよ」

「ほう…………では、海浜高校かな」

「あ、申し遅れました。音ノ木坂1年の小泉花陽です!」

 

 自己紹介が遅れた事を謝りながら、頭を下げる花陽。いや、気にしなくていいぞ。自己紹介遅れたのその人のせいだから。

 

「いや、こちらこそすまない。私は平塚静。総武高校で教師をやっている。こいつの担任だ」

 

 そう言いながら、俺の頭をぽんぽんと叩く。だがどんなに格好つけても、もう色々と取り繕えない。

 

「は、八幡さんの担任の先生……」

 

 何故か驚いている。そりゃあ、担任もいないほど、干されてはいない。

 

「それで……えーと……き、君達は、つ、つ、付き合っているのかね?」

 

 顔を赤らめながら、普段とは全然違う声のトーンで聞いてくる平塚先生。一生徒としてはかなり恥ずかしいので、是非やめていただきたい。

 

「…………」

「…………」

 

 俺と花陽は黙り込む。今一番取り扱い注意な話題だ。

 何と表現したらいいか迷っていると、意外にも、真っ先に花陽が口を開いた。

 

「秘密です」

 

 たったの一言。そして、柔らかくその場を和ませるいつもの微笑みは、今日も効果は抜群のようだ。平塚先生はふっと小さく微笑む。

 

「そうか……なら、仕方ないな」

 

 次に、俺を見る。

 

「しかし、比企谷も最近どこか変わったと思ったら、そういう事か!」

 

 バシバシ背中を叩かれる。痛い痛い!

 話している内に、あっという間に時間と共に行列は進み、食欲を誘う香りが充満する店内へと案内される。

 

「デートを邪魔したお詫びだ。私が奢るよ」

「え?でも……」

「気にするな……君から見た比企谷の話も聞いてみたいしな。もちろん、学校での比企谷の話も聞かせよう」

「え!?いいんですか?聞きたいです!」

 

 いや、よくねーよ。しかし、もちろんこれまで通り、俺に拒否権などない。結局、このあと二人は、延々と俺の話で盛り上がっていた。ちなみに、花陽がμ,sのメンバーということは、伏せておいた。矢澤さんからこの前、別に付き合ってもいいが、節度ある交際を心掛ける事と、自分から言いふらしたりするな、と厳命されていたからだ。まあ、言いふらす相手もいないし、わざわざ自分から変な注目は浴びたくない。しかしもう、平塚先生には、どうせ言わなくても、この先の動向次第で、勝手にバレるんだが……まあ、先生なら心配ないか。

 隣で二人の会話を聞きながら、俺は運ばれてきたラーメンのスープを啜った。

 





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