捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
とある祝日。
乾いた風が緩やかに街を吹き抜け、空も穏やかに見える1年で1番過ごしやすい季節。そして、ふとした寒い目覚めに間近な冬と、1年の終わりを感じる季節。
俺と花陽は千葉市の街をのんびり歩いていた。
「……また、いなくなったな」
「あはは……そうですね」
今日は、小町と戸塚と星空も含めた5人で、行列のできるラーメン屋に行く予定だったのだが、合流して約10分で撒かれてしまった。だからどういう事だよ。お前らボッチでもないのに、ステルス使ってんじゃねーよ。今さらになって、ステルスヒッキーの特許を取っておかなかった事が悔やまれる。別にいらんけど。
「まあいい、じゃあ行くか」
「はい、そうですね」
前より少しだけ自然に、俺達は並んで歩き出した。
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「そういえば八幡さん、最近料理はじめたんですか?」
「……小町か」
「はい♪小町ちゃん言ってましたよ。最近小町離れしようとしていて寂しいって」
「あいつは母ちゃんかよ……」
別に何の事はない。少しでも何かを変えてみたいだけだ。
「私も食べてみたいなぁ。八幡さんの手料理」
「まあ、そのうち……………………必ず」
期待に綻ぶ顔をちらりと見て、とりあえずの約束をしておく。まあ、こういう目的がある方がモチベーションも上がるだろうし。
「ふふ……その時は私も何か作っていきますね」
「え?花陽って、おにぎり以外何か作れんの?」
「つ、作れますよ!……卵焼きくらいは」
花陽は頬を膨らましながらも、目をそらした。あまりレパートリーは多くなさそうだ。
この前のステージを見て、花陽の新しい魅力を目の当たりにしてから、喜びと同時に、不安も覚えた。俺が……俺なんかが、このどこまでも輝いていける女の子の隣に……本当の意味で隣に立てる日が来るのだろうか、なんて考えてしまう。
「……どうかしましたか?」
「いや、何でも……」
やわらかく微笑みながら聞いてくるのを適当にはぐらかしていると、前方に何か、見つ、けた……?
あ、あ、あれは……ダークマターだ。
「わあ、結婚式だ♪花嫁さん綺麗ですね!」
どうやら花陽には見えていないようだ。心の綺麗な人間には見えないとか、さすがはダークマター。てか、あれ、絶対知ってる人じゃんか。とりあえず、逃げよう。
花陽の手を掴み、逃げる準備に入る。
「は、八幡さん?え?ど、どうしたんですか?」
「こっちから行くぞ」
「は、はい!」
何やら弾んだような花陽の声を合図に、駆け出そうとする。
「……あああ、ひ、き、が、や」
うわぁ、目合っちゃった。遅かったか。
ダークマターが霧散していき、中からドレスを着たアラサー女教師が現れる。無駄にエロいキャッチコピーだ。
そして、周りの人間に何やら言い訳をして、俺と花陽の方へ向かってきた。
「比企谷ぁーーーぁぁああああああああ!?」
こちらへ走りながら、アラサー独身女教師こと平塚静先生は、悲鳴をあげる。
その鋭い視線に射抜かれ、本能的にまずいと思った。
逃げようと思って繋いだ手をじっと見られている。
さらに視線は腕を辿り、花陽の顔にロックオンされた。
「う、う、裏切り者ーー!!」
誤解しか生まないような言葉と共に、先生は崩れ落ちた……もう、本当に誰かもらってやってくれよぉ……。