捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
「おっはようにゃ~♪」
星空がいつも通りに見えるハイテンションで入ってきた。
「凛ちゃん、おっはよ~♪」
「うす」
「あ、小町ちゃん、先輩もきてくれたんだ!」
小町とハイタッチを交わしながら、荷物を置く。その際の表情の翳りを俺は見逃さなかった。
……やっぱり着てみたいんじゃねえか。
あとは作戦が上手くいけばいいんだが。
花陽に目で合図をして、作戦の開始を告げる……まあ、作戦って程のもんでもないが。
「凛ちゃん、私達も衣装に着替えよう」
「あ、うん、そうだね!」
花陽が例の衣装がある場所まで星空を誘導する。
その際、こちらをチラ見したので、頷いておいた。
「はい、凛ちゃんの衣装はこっちだよ!」
「うん!…………え、嘘……?」
カーテンを開けると、星空の目が驚きに見開かれた。
その目の前にある衣装は、先日花陽が来ていたドレスだったからだ。
「そんな……このドレスはかよちんが…………」
「違うよ。このドレスは1番似合う凛ちゃんが着るんだよ」
星空は綻んだような、躊躇うような何ともいえない表情になった。よく見ると、唇が微かに震えている。
花陽はそんな親友を包むような優しい眼差しで見つめていた。
「で、でも、凛が着るくらいなら、皆同じ衣装の方が……」
「悪い、星空。もう別の奴が余りの衣装を着てる。入って来てくれ」
ガチャッとドアを開け、タキシード風の衣装を着た戸塚が入ってくる。
「え!?と、戸塚先輩…………?」
「星空さん、久しぶり。実は八幡に頼まれて」
「主催者の人に戸塚君の写真を見せたら、ぜひモデルにってスカウトされたのよ」
絢瀬さんが補足する。ちなみに一瞬だけでも戸塚のウエディングドレス姿が見たいと思ったのは内緒だ。何なら今でも見たいけど。
「でも、凛なんて可愛くないし…………」
「そんなことない!!」
滅多に出さないであろう大声で、花陽が全力で星空の言葉を遮り、きっぱり 否定する。
目に涙を溜めた親友を前に、星空の目も潤んでいた。
「凛ちゃんは可愛いよ!私が抱きしめたいって思うくらいに!」
「かよちん……」
「凛、あなたは本当に魅力的な女の子よ」
「褒められて照れてる時とか、ウチも抱きしめたくなるよ」
「アンタの1番可愛い姿を見せつけてやりなさいよ」
「凛、もっと可愛いあなたを見せてちょうだい」
西木野が目でこちらを促してくる。
「凛ちゃんは可愛いよ!私、凛ちゃんみたいな女の子になりたいな~」
「まあ、なんつーか、その…………可愛いと思う。正直自分の妹みたいに思ってる」
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
俺の発言に、「うわぁ……」みたいな意味合いの視線が突き刺さる。
あれ?何?この沈黙。妹って千葉では女性に対する最高の称号なんだが。
「はあ、ゴミぃちゃんならこんなもんか。でも、この捻デレが可愛いって言ってるんだから可愛いのは間違いないよ!ね、戸塚さん♪」
戸塚は星空の正面に立ち、はっきりと告げる。
「星空さんは可愛いよ!だって僕…………μ,sのPVで踊ってる星空さんを見て、本当にこんな可愛い女の子がいるんだって思ったから!」
戸塚や皆の言葉に星空は涙を流していた。頬を静かに伝うその雫は、不思議と悲しい色合いは見せなかった。
「みんな…………ありがとう!」
花陽から衣装を受け取ると、星空はいつものように気合いを入れた。
「よ~し……それじゃあ、いっくにゃー!!」
普段の明るい光景が戻り、ほっとする。どうやら目的は達成したようだ。まあ、俺は特に何もしてないけど。
「八幡さん……ありがとうございます」
それでも、花陽のやわらかな笑顔には黙って頷いておいた。
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着替えの為、追い出された俺と戸塚は、並んでベンチに腰掛けた。
「さっきの……なんか男らしかったな」
「ありがとう。僕も……八幡みたいに変わらなきゃって思ったんだ……」
戸塚は微笑みながらこちらを見る。少し頼もしくなった天使が今日も変わらず輝いている。
その顔を見て、俺は溜め息を吐いた。はあ……戸塚のドレス姿見たかったなあ……。