捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
今、私達は秋葉原に来ています。学校内で、PVを撮ろうと思ったけれど、めぼしい場所は全て使ってしまっているので、目新しさを出すために学校の外へ出てみました。ただ、秋葉原は……
「A-RISEのお膝元なんやねえ……」
希ちゃんの事実確認に、皆一様に溜息をつく。さすがにここでやるのは色々とプレッシャーがある。でも、ここでライブを成功させたら、インパクトありそうだなぁ。
夕暮れの秋葉原の人波を眺めながら、そんな事を考えといると、残暑を吹き飛ばすような爽やかな風が通り過ぎた。
「穂乃果ちゃん!?」
「あれ、ツバサじゃない!?」
穂乃果ちゃんが誰かに手を引かれている。その手の先には、春に出会ったあの人がいた。
綺羅ツバサだ。その凛としたオーラを惜しみなく振りまきながら駆けていく彼女は、確かにこちらを見た。
久しぶり。
口元がそう動いたように見えた。
「行こう!」
何故か皆に告げて、私は2人を追いかけた。……この後、とんでもない事になるとは知らずに……。
*******
駆けだした2人に誘導されるように、私達はUTX学園の中へと入っていた。2度目になるけど、やっぱり圧倒されてしまう。
「突然ごめんね、μ,sの皆さん。初めまして……あ、小泉さんは会うのが2回目になるわね」
「え、そうなの!?」
「あ、はい……」
穂乃果ちゃんの顔がこちらに向く。そういえばツバサちゃんに会って、お茶を御馳走になった事は誰にも話していない。勢いに任せて来ちゃったけど……どうしましょう。
「比企谷君は、元気?仲良くしてる?」
あ。
「「「「「…………」」」」」
八幡さんを知らない5人のメンバーが固まっていた。
*******
再び部室に私達はいた。というか私が皆に連れて行かれた形になります。
「花陽ちゃん、本当なの?」
「いえ、彼氏ではなく……」
穂乃果ちゃんの質問に俯く。あの後、その場の空気を察したツバサちゃんが、その話題を断ち切り、次の撮影にUTX学園の屋上ステージ使用を提案してくれた。割と焦っていたのは内緒です。もちろん穂乃果ちゃんは快諾して、私達の歌う場所が無事に決まりました。
「それより、凛も真姫も……希も知ってたのね?」
「あはは……」
「まあ……私が知ったのは最近だけど」
「黙ってて、ごめんな。でも、花陽ちゃんが自分から言うのが1番やから」
「わ、私達はアイドルなのよ!れ、恋愛なんて……」
「だ、だから…………彼氏じゃ…………」
は、八幡さんは、か、彼氏じゃないですよ?……まだ。いや、でも……八幡さんがどう考えているのかは、まだわからないし……それでも私は……。
「花陽ちゃん、照れてる」
「そうよ!何?そのぽ~っとした表情」
「あ、いやこれは……」
「花陽、あなた、本当に……」
「え?いや、だから、その……」
「だから、花陽と比企谷さんはまだ付き合ってないわよ」
真姫ちゃんが割って入ってくれる。
「そうにゃ、比企谷先輩が中々、男を見せないにゃ!この前なんてプールで抱き合って……」
「り、凛ちゃん!!」
慌てて口を塞ぐ。さ、さすがにその出来事は今でも恥ずかしいです。
「ひ、人前で抱き合うなど……ハ、ハレンチすぎます!」
「ウ、ウチもそれは知らんやった」
「私も…………何でくっついてないのかしら」
「ア、ア、アンタ……そ、そんな事まで……」
「ハラショー……花陽って、意外と大胆なのね」
皆が頬を染めながら(1番真っ赤なのは私ですが)、それぞれにリアクションをとっていると、突然穂乃果ちゃんが意を決したように立ち上がった。
「皆、大事なこと忘れてるよ!!」
皆の視線を集めながら、穂乃果ちゃんが私に手を差し伸べながら告げる。
「どんな人なの!?写真ある!?」
穂乃果ちゃんの発言後、八幡さんを知らないメンバーの視線は、当たり前だけど、恋愛事に興味津々な、普通の女子高生らしいものだった。
「確かに。花陽の想い人ともなれば、さぞかし立派な方なんでしょう。是非見てみたいですね」
「私も興味あるなぁ~♪お願い♪」
「アイドル研究部部長としてチェックしなければいけないわね!」
「わ、わ、私も興味あるわね。生徒会長として」
「どっちも関係ないやん。まあ、ウチも遠目に見ただけやからな。もっとはっきり見たいなぁ♪」
ど、どうしよう。八幡さん……。
「花陽、見せてあげたら?皆なら大丈夫よ」
「比企谷先輩も写真見せたくらいで怒らないにゃ~」
「…………うん」
私はスマートフォンを操作して、八幡さんの写真を表示した。