捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
まだまだ暑い日が続きそうだが、朝や夜にふと感じる涼しさが、秋の訪れを感じさせる9月。俺は新学期早々鬱な気分になっていた。
文化祭実行委員。
今の俺にはそんなふざけた肩書きが与えられている。ぶっちゃけやりたくない。いや、これについてはもう流れに身を任せるしかない。はあ……。
「八幡」
天使のような柔らかい声音が、鬱で固まった思考回路をほぐしていく。声の主は言うまでもなく戸塚だ。
「本当によく寝てたね。夜眠れなかったの?」
「ん?ああ、そういうんじゃなくてだな……」
「もしかして小泉さんと遅くまで電話してたとか?」
耳元で可愛らしく囁いてくる。そして、その言葉にも必要以上にドキリとしてしまう。
「い、いや違くてな。ほら、花陽もラブライブ決まって忙しくなったし……」
「ああ、そうだ!僕のところにも星空さんからメールがきたよ。すごく嬉しそうだった!」
「わ、我のところには何も……」
「いきなり出てくんな。つーか、お前いつからいたんだよ。さっさと自分のクラスに帰れ」
この前の誕生日パーティーの時、ちゃっかり西木野と連絡先を交換していたのが解せない。このまま材木座と西木野の青春ラブコメが始まってしまうのだろうか。いや、考えるのはよそう。人間知らない方が幸せな事がある。沢山ある。
ひとまず材木座をスルーし、話を続ける。
「まあ、お前も知ってるかもしれんが、高坂さんが最初は渋ったそうだが、最終的には一致団結してラブライブを目指す事にしたそうだ」
ちなみに今日眠いのは、その話を花陽から延々と聞かされていたからだ。話はどんどん発展していき、アイドル論からお米論に話が変わったところで、お互いに話が変わってることに気づいた。斜め上に巧みな会話である。
「でも、また活動始まってよかったね。あっ、あとμ'sの新曲の衣装可愛いよね!」
「ああ」
スマホのフォルダを開き、確認する。今は歌う場所を探しているらしいが、このメンバー、この衣装ならどこで歌おうが、客は集まりそうだ。
「ふむ……可憐だ」
文字列だけ見れば、武士道精神のある硬派な男の発言に思える。だが材木座だ。
「ヒッキー、またスクールアイドルの写真見てる……」
「おわ!」
気がつけば、由比ヶ浜が背後にいた。いつからここは忍者学校になったってばよ!
「どんだけ好きなの?部室でもたまに見てるし……」
「俺は頑張ってる人間を応援するのが好きなんだよ」
「うわ…………21世紀最大の嘘聞いちゃった」
言いながら由比ヶ浜はげんなりとした顔をしている。言い過ぎだろ。俺は頑張ってる人間は賞賛するし、敬意も払う。ただそれを他人に押しつけてくる奴が嫌いなだけだ。
「でも、穂乃果ちゃん可愛いよね~」
「まあ、お前と似てるかもな」
「え?そ、そうかな……えへへ」
花陽の話を聞く限り、人の話を聞かないらしいし、成績悪いらしいし。これで高坂さんが料理出来なかったら由比ヶ浜の素質がある。どんな素質だよ。
「あ、そういえばね、ヒッキー……夏休みにプール行った?」
「そんな昔の事覚えてねーよ」
決まった。今なら『君の瞳に乾杯』を言えるくらい、ハンフリー・ボガートできてる。ハードボイルドすぎる。
そして、由比ヶ浜、戸塚、材木座のドン引き笑いに晒されている内にチャイムが鳴り、皆それぞれの席へ戻っていった。
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「ふぁ、ふぁ、ふぁーーくしょん!!!!!」
「だ、大丈夫?穂乃果ちゃん」
「うん大丈夫!花陽ちゃん、はやく行こう!」
「あ、うん!」