捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
「それではお待ちかね、プレゼントタ~~イム!!どんどんぱふぱふ~~♪」
小町のあざと可愛い号令に、星空が指笛を鳴らす。仲良すぎて、何なら星空をこのまま妹として迎えていいレベル。別に疚しい気持ちなどカケラもない。ハチマン、ウソ、ツカナイ。
「じゃ、小町からね!はい!」
プレゼント用に包装された箱を丁寧に開ける。
「……目覚まし時計?」
もう持ってるはずだが……スマートフォンという名の暇つぶし機能付き目覚まし時計を。いや、今年度は割と連絡手段として活動しているが。
「お兄ちゃん、携帯のアラームじゃ中々起きないからね。このままじゃ遅刻だけで留年しちゃうでしょ」
「ぐっ……」
何も言い返せない。
「はぁ~、誰かモーニングコールしてくれる優しい女の子はい・な・い・か・な!」
戸塚か。戸塚だろ。戸塚だよな。
「は、八幡……」
声に出ていたのか、戸塚が恥ずかしそうに俯いている。
「むぅ……」
「はぁ……これだからゴミぃちゃんは……」
花陽と小町から軽蔑の眼差しを向けられていた。
「いやほら、小町は置いといて、花陽はモーニングコール向きじゃないだろ?」
「「確かに……」」
μ,sのメンバー2人が同意する。
「かよちんは割とねぼすけにゃ」
「あうぅ……」
「しかも朝御飯が時間かかりすぎて遅刻した事もあるし……」
「ぴゃあ……」
花陽が体を丸め、小さくなっていく。小町や戸塚もクスクス笑っていた。確かに微笑ましい。俺が遅刻しても、クラスの奴らは気づかないし、平塚先生の鉄拳は喰らうしで散々だが。ステルスヒッキーをもっと徹底せねば。
「まあ、あれだ。花陽の声は子守歌向きだし……」
誰に言うでもなく、ぼそっと呟いた。保育士になった花陽が、子供達に子守歌を歌っているところを想像すると、何だかほっこりする。
「…………」
花陽がこちらを見ている気がしたが、あえてスルーした。
「じゃあ、次は凛にゃー!」
凛は押しつけるように、紙袋を渡してきた。その紙袋にはスポーツ用具のメーカーのロゴが印刷されている。
「これは……ジャージ……」
「先輩は見るからに運動不足だから、これで着て、しっかり走るにゃー!!」
うん、パジャマ代わりに使えそうだ。こんな暑い時期に外走ったら、脱水症状の危険があるしな。
「ありがとな。大事に使う」
「うわ、運動する気なさそう……」
「大事に使うにゃ」
「語尾を変えてもダメにゃー!!」
小町と星空をあしらっていると、戸塚がポンポンと肩を叩いてくる。
「八幡。僕からはこれ」
「こ、これは……」
テニスのラケットだ。
「部活に入ってとは言わないけど……休みの日に八幡とテニスがしたいな、と思って……」
「あ、ああ……」
「星空さんからジャージももらったし、ちょうどいいよね」
「にゃ!?」
突然名前を出されて星空はあたふたする。まあ、戸塚は忘れがちになるが、一部の女子から王子様と言われているしな。こりゃ俺の天使と俺の義妹が……。
「お兄ちゃん、ニヤニヤしないで。涎拭いて」
「八幡さん……」
「さすがに気持ち悪いわね……」
「八幡よ。自重せよ」
ドン引かれていた。西木野から初気持ち悪いを頂くくらいに……ただ材木座、お前には言われたくねえ。
「つーか、何か悪いな。それと西木野も、改めてケーキありがとな」
「……どういたしまして」
西木野は照れながら呟く。初対面の俺の誕生日に、わざわざケーキを買ってくれるコイツは、かなりいい奴なんだろう。
「八幡よ!安心せよ!われも貴様にこれをやろう!!」
「材木座……」
俺はこの男を誤解していたようだ。面白くない小説読ませるし、迷惑かけるし、イタいし、イタいし、イタいし、まあ、とにかくウザいだけの奴だと思ってた。だが今日、その認識を改める必要がありそうだ。
ほら見ろよ。この紙袋。ずっしり重いぜ。入ってんのかな。ワクワク。
「我の新作小説だ!」
「…………」
うん、知ってた。もうムカつきもしない。
ほら見ろよ。この場の空気、ずっしり重いぜ。
「八幡よ!礼などいらん」
言わねえよ。
「へえ、材木座さんって小説書くのね」
意外と西木野が食いついた。
「左様!我は中学なから一途にライトノベル作家を目指しておる!」
この前、ゲームのシナリオライターに鞍替えするトコだったじゃねえか。
「自分の夢を追いかけるって、やっぱりいいわね」
西木野がどこか寂しげな顔を見せながら言う。だがそれも一瞬の事で、すぐにクールな雰囲気が戻ってきた。
「…………可憐だ」
俺の隣で材木座が呟く。いや、いらねえからいらねえからいらねえから!お前のそのフラグ今いらねえから!
何かを察したのか、小町と戸塚も苦笑している。くそっ!誰かイマジンブレイカー持ってこい。幻想をぶっ壊してやる!
「じゃ、最後は花陽ちゃんね!」
「ほら、かよちん!」
2人に促され、花陽が前に出てくる。そしてそのままこちらへ飛び込んできた。タックルである。
淡い香りが弾けると同時にダメージを受けた。
「ぴゃあっ!す、すいません!」
「だ、大丈夫だ。落ち着け」
「は、はい!すーっ、はーっ、すーっ、はーっ」
深呼吸を数回繰り返し、「よしっ」と気合いをいれた花陽は、俺の目の前に紙切れを差し出した。
「デスティニーランドのチケットか」
日本最大級のテーマパークのチケットである。さらに花陽は顔を最大限に紅潮させ、意を決したように、俺に衝撃的な事を言った。
「こ、こ、今度、あ、あなたと、デ、デートしてあげても、い、いいんだからね!」