捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

49 / 129


「それではお待ちかね、プレゼントタ~~イム!!どんどんぱふぱふ~~♪」

 

 小町のあざと可愛い号令に、星空が指笛を鳴らす。仲良すぎて、何なら星空をこのまま妹として迎えていいレベル。別に疚しい気持ちなどカケラもない。ハチマン、ウソ、ツカナイ。

 

「じゃ、小町からね!はい!」

 

 プレゼント用に包装された箱を丁寧に開ける。

 

「……目覚まし時計?」

 

 もう持ってるはずだが……スマートフォンという名の暇つぶし機能付き目覚まし時計を。いや、今年度は割と連絡手段として活動しているが。

 

「お兄ちゃん、携帯のアラームじゃ中々起きないからね。このままじゃ遅刻だけで留年しちゃうでしょ」

「ぐっ……」

 

 何も言い返せない。

 

「はぁ~、誰かモーニングコールしてくれる優しい女の子はい・な・い・か・な!」

 

 戸塚か。戸塚だろ。戸塚だよな。

 

「は、八幡……」

 

 声に出ていたのか、戸塚が恥ずかしそうに俯いている。

 

「むぅ……」

「はぁ……これだからゴミぃちゃんは……」

 

 花陽と小町から軽蔑の眼差しを向けられていた。

 

「いやほら、小町は置いといて、花陽はモーニングコール向きじゃないだろ?」

「「確かに……」」

 

 μ,sのメンバー2人が同意する。

 

「かよちんは割とねぼすけにゃ」

「あうぅ……」

「しかも朝御飯が時間かかりすぎて遅刻した事もあるし……」

「ぴゃあ……」

 

 花陽が体を丸め、小さくなっていく。小町や戸塚もクスクス笑っていた。確かに微笑ましい。俺が遅刻しても、クラスの奴らは気づかないし、平塚先生の鉄拳は喰らうしで散々だが。ステルスヒッキーをもっと徹底せねば。

 

「まあ、あれだ。花陽の声は子守歌向きだし……」

 

 誰に言うでもなく、ぼそっと呟いた。保育士になった花陽が、子供達に子守歌を歌っているところを想像すると、何だかほっこりする。

 

「…………」

 

 花陽がこちらを見ている気がしたが、あえてスルーした。

 

「じゃあ、次は凛にゃー!」

 

 凛は押しつけるように、紙袋を渡してきた。その紙袋にはスポーツ用具のメーカーのロゴが印刷されている。

 

「これは……ジャージ……」

「先輩は見るからに運動不足だから、これで着て、しっかり走るにゃー!!」

 

 うん、パジャマ代わりに使えそうだ。こんな暑い時期に外走ったら、脱水症状の危険があるしな。

 

「ありがとな。大事に使う」

「うわ、運動する気なさそう……」

「大事に使うにゃ」

「語尾を変えてもダメにゃー!!」

 

 小町と星空をあしらっていると、戸塚がポンポンと肩を叩いてくる。

 

「八幡。僕からはこれ」

「こ、これは……」

 

 テニスのラケットだ。

 

「部活に入ってとは言わないけど……休みの日に八幡とテニスがしたいな、と思って……」

「あ、ああ……」

「星空さんからジャージももらったし、ちょうどいいよね」

「にゃ!?」

 

 突然名前を出されて星空はあたふたする。まあ、戸塚は忘れがちになるが、一部の女子から王子様と言われているしな。こりゃ俺の天使と俺の義妹が……。

 

「お兄ちゃん、ニヤニヤしないで。涎拭いて」

「八幡さん……」

「さすがに気持ち悪いわね……」

「八幡よ。自重せよ」

 

 ドン引かれていた。西木野から初気持ち悪いを頂くくらいに……ただ材木座、お前には言われたくねえ。

 

「つーか、何か悪いな。それと西木野も、改めてケーキありがとな」

「……どういたしまして」

 

 西木野は照れながら呟く。初対面の俺の誕生日に、わざわざケーキを買ってくれるコイツは、かなりいい奴なんだろう。

 

「八幡よ!安心せよ!われも貴様にこれをやろう!!」

「材木座……」

 

 俺はこの男を誤解していたようだ。面白くない小説読ませるし、迷惑かけるし、イタいし、イタいし、イタいし、まあ、とにかくウザいだけの奴だと思ってた。だが今日、その認識を改める必要がありそうだ。

 ほら見ろよ。この紙袋。ずっしり重いぜ。入ってんのかな。ワクワク。

 

「我の新作小説だ!」

「…………」

 

 うん、知ってた。もうムカつきもしない。

 ほら見ろよ。この場の空気、ずっしり重いぜ。

 

「八幡よ!礼などいらん」

 

 言わねえよ。

 

「へえ、材木座さんって小説書くのね」

 

 意外と西木野が食いついた。

 

「左様!我は中学なから一途にライトノベル作家を目指しておる!」

 

 この前、ゲームのシナリオライターに鞍替えするトコだったじゃねえか。

 

「自分の夢を追いかけるって、やっぱりいいわね」

 

 西木野がどこか寂しげな顔を見せながら言う。だがそれも一瞬の事で、すぐにクールな雰囲気が戻ってきた。

 

「…………可憐だ」

 

 俺の隣で材木座が呟く。いや、いらねえからいらねえからいらねえから!お前のそのフラグ今いらねえから!

 何かを察したのか、小町と戸塚も苦笑している。くそっ!誰かイマジンブレイカー持ってこい。幻想をぶっ壊してやる!

 

「じゃ、最後は花陽ちゃんね!」

「ほら、かよちん!」

 

 2人に促され、花陽が前に出てくる。そしてそのままこちらへ飛び込んできた。タックルである。

 淡い香りが弾けると同時にダメージを受けた。

 

「ぴゃあっ!す、すいません!」

「だ、大丈夫だ。落ち着け」

「は、はい!すーっ、はーっ、すーっ、はーっ」

 

 深呼吸を数回繰り返し、「よしっ」と気合いをいれた花陽は、俺の目の前に紙切れを差し出した。

 

「デスティニーランドのチケットか」

 

 日本最大級のテーマパークのチケットである。さらに花陽は顔を最大限に紅潮させ、意を決したように、俺に衝撃的な事を言った。

 

「こ、こ、今度、あ、あなたと、デ、デートしてあげても、い、いいんだからね!」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。