捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
西木野が親に電話している間、俺も小町に電話しておく事にした。
「え~っ!?本当に!?西木野真姫ちゃんがウチに来るの!?ウソじゃないよね!?」
「俺がお前に嘘ついた事があるか?」
「は?今さら?何なら花陽ちゃんに話すよ」
「ごめんなさいすいません俺が悪かったです」
薮蛇とはこの事である。
そっかー、そんなに小町に嘘ついてたかー。小町には常に誠実なはずだったが。いやでも、小町に対しては嘘をつくときも全力である。これは一周回って誠意があるのではなかろうか。
「バカな事考えなくていいから。じゃあ、車に気をつけて、2人をちゃんとウチまで連れて来るんだよ。もう戸塚さん達も来てるからね」
「戸塚か戸塚がいるのか。戸塚がいるんだよな。そうか早く帰る」
「……はあ、はいはい気をつけてね。色々と」
ブツッと通話が途切れる。
「……むぅ」
「な、何か?」
「八幡さん……戸塚先輩の事になると、なんかいやらしいです」
俺は雷が落ちたような衝撃を全身に受けた。バ、バカな……お、俺が戸塚をい、いやらしい目で見ているだと?
思わず膝を着いてしまった。
「す、すいません!私……つい気になって!八幡さん、戸塚先輩が好きなんじゃないかって……」
花陽が顔を赤らめながら言う。だが戸塚は男だ。……残念ながら。
その頭をぽんぽんと撫でるように叩く。
「そういうんじゃねえよ。あいつはあれだ。小町と同じようなポジションだ」
「ど、どういう意味ですか?」
「天使」
「…………」
花陽が優しく足を踏んでくる。もちろん全然痛くない。だがおかしい。事実を告げただけなのに。
「ねえ、お二人さん。いつまでいちゃつく気?」
電話を終えたらしい西木野が、呆れ顔ですぐ後ろにいた。
「ま、真姫ちゃん!その……い、いちゃつくなんて……そ、そ、そんな……」
「ふふっ、まあいいわ。花陽の新しい一面が見れた事だし。次の曲の参考にさせてもらうわね」
「あうぅ……」
手をわたわたさせる花陽に、西木野は優しく微笑む。ああ、そうか。こういう動作が様になってるところが、我が奉仕部部長に似てるな。…………毒舌まで似なくてよかった。
「比企谷先輩、どうかしました?」
「いや、何でもない。行こうぜ」
テンパっている花陽を落ち着かせ、少し傾いた夏の陽射しを浴びながら、天使達の待つ我が家へと向かった。
*******
花陽について語り合いながら歩いていると、あっという間に我が家に辿り着いた。玄関のドアを開けると、小町がとてとてと出迎えにやって来る。
「皆さん、おっかえり~!」
「おう、ただいま」
「た、ただいま、小町ちゃん!」
「そんな遠慮しながら言わなくてもいいですよ!いずれは花陽ちゃんもこの家に……」
「こ、小町ちゃん!」
あんまりからかってやるなよ……。俺にまで飛び火するんだから。…………比企谷……はな……ケプコンケプコン。
「お邪魔します。初めまして、西木野真姫です」
「初めまして!比企谷小町です!わ~、本物の西木野真姫ちゃんだ~♪実物は映像よりさらにキレイですね!」
「あ、ありがとう……」
小町の褒め言葉に西木野は俯く。割と照れ屋のようだ。
「これケーキ。西木野から」
道中に買ってくれたケーキを差し出す。ありがたやありがたや。これでケーキ代浮いたぜ。なんかゲスいな。
「ありがとうございます!さ、上がってください」
*******
リビングには、料理を並べている戸塚と星空がいた。
「あ、八幡!お邪魔してます!」
「3人共、おかえりにゃ!」
「待ちくたびれたぞ八幡!」
「おお、ありがとな2人共。飲み物買ってきたぞ。あと西木野がケーキ買ってくれたから」
「ありがとう!わあ、西木野真姫さんだ!初めまして、戸塚彩加です!」
「…………材木座義輝と申す」
「初めまして、西木野真姫です。今日はよろしく」
戸塚と西木野が自己紹介し合うのを横目に、飲み物の準備を始めた。さすがに全部やってもらうと申し訳なさすぎて居心地が悪い。
「えーと、俺、小町、花陽、戸塚、星空、西木野で6人か」
「お兄ちゃん……現実を見よう?」
「ふぅ……」
何故……貴様がここにいる。材木座ァーーー!!