捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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テイタム・オニール

 まさかの遭遇。

 そんな使い古されたフレーズがぴったりの場面だった。現に3人共、上手く現実が飲み込めていないようにも思える。ていうか、この子さっきから睨んできてるようで怖い。

 

「ま、真姫ちゃん!偶然だね~!」

 

 意外な事に、花陽が最初に口を開く。

 

「まさか千葉で出会えるなんて!さすがμ,s!やっぱりμ,sは最高だね!」

 

 おい、キャラ変わってんぞ。花陽の落ち着かない様子に、西木野真姫は逆に落ち着きを取り戻し、ジト目になる。

 その目が射抜いているのは俺の左手首と、それを掴む花陽の小さな白い手だ。

 

「ヨキニハカラエ~」

 

 何やら訳のわからない捨て台詞をはいた花陽は、俺の手を引き、この場から離脱しようとする。……おい、色々と無理あんぞ。だが、ここは俺も花陽に便乗しよう。ヨキニハカラエ~。     

 もちろん、そうは問屋が卸さない。

 

「待ちなさい」

 

 案の定肩を掴まれ、「ぴゃあ!」と叫び声をあげる。てか何で俺も掴まれてんの?一緒に叫んじゃったじゃん!

 西木野真姫は、俺の叫び声に顔を顰めながら、花陽に向き直る。

 

「ちょっとお茶していかない?」

「あうぅ……」

 

 貼りついた笑顔はどっかの誰かを思い出させた。

 

 *******

 

「なるほどね。付き合っているわけではない、と」

「「はい……」」

 

 美少女2人は何かと目を引くので(実際通り過ぎる男達は、まず2人をチラ見してテンションを上げ、次に俺を見て舌打ちをした)、近くの喫茶店に入った。客もまばらで、居心地は良さそうだった。しかし、西木野真姫から発せられる謎の怒りオーラで、緊張感がハンパない。MAXコーヒーが欲しいところだ。

 いやまあ、恐れる事は何もない。疚しいことは…………

 ・ほっぺにキスされる

 ・ファーストキスしかけた

 ・上半身裸で抱き合う

 ・他のメンバーの胸をエロい目で見る

 ……うん、大丈夫……なはず。

 花陽は不安そうな目で西木野真姫を窺っている。その様子を眺めているうちに、一瞬だけ目が合う。何か言わなければならない気がした。

 俺のそんな気配を察したのか、偶然か、西木野真姫に改めて向き合うと、彼女は先に言葉を発した。

 

「まあ、別に彼氏だったとしても、いいと思うけど」

 

 想像していない事を言われ、ぽかんとしている花陽を置いて、西木野真姫はこちらを向く。

 

「初めまして、花陽と同じμ,sのメンバーの西木野真姫です。μ,sでは作曲も担当してるわ」

「比企谷八幡だ。この近辺の高校に通っている」

「あ、もしかして総武高校?」

「あ、ああ……」

「じゃあ、結構頭いいんですね」

「理系は捨ててるがな……」

「雪ノ下さんって同じ学年にいますよね」

 

 口に含んだコーヒーを盛大に吹き出す。

 

「は、八幡さん!大丈夫ですか!」

 

 花陽がハンカチで口元を拭こうとするが、やんわりと断り、おしぼりで乱暴に拭う。

 

「雪ノ下の知り合いか?」

「あ、いえ、小さい頃に何度か会っただけで……親同士は割と仲が良くて……私は今日、ついて来ただけなんで……」

 

 自分から話題を振った西木野は、明らかに何かありそうな口ぶりだったので、話を変え、学校での花陽を余す事なく聞く事にした。

 そういや雪ノ下の奴、μ,sの曲を割と聴いてたな……。

 ちなみにこの後、花陽が早弁している事や、朝御飯に時間をかけすぎて遅刻した事など、レアな話を沢山聞けました。

 

 *******

 

「じゃあ、私はそろそろ行くわ。お邪魔して悪かったわね」

 

 喫茶店を出ると、西木野は颯爽とどこかへ行こうとする……が、しかし、花陽が引き止めた。

 

「あの、真姫ちゃん!い、今から比企谷さんのお宅で誕生日パーティーやるんだけど、こ、来ない!?凛ちゃんもいるよ!」

「え?でも……」

 

 西木野の視線が俺を向く。花陽の子犬のような、縋る視線を視界の端に感じた。

 

「別に構わんぞ。そっちが良けりゃ」

 

 俺の言葉に西木野は僅かに逡巡して、笑顔を向けた。

 

「じゃあ、お二人が羽目を外しすぎないように、見張っておこうかしら」

 


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