捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
それでは今回もよろしくお願いします。
「ふぅ……」
地獄のウォータースライダーを終え、現在、波の出る大きなプールに漂っていた。心地良い揺れが体を癒してくれているようだ。ああ、こうしているだけで、金貰える仕事ねえかなぁ…………。
「あの……八幡さん」
隣で同じように漂っている花陽が、おずおずとこちらを窺う。
「どした?」
「今日は……ありがとうございます。私と凛ちゃんに気を使ってくれて」
「……チケットの事なら小町に言ってくれ。俺は何もしてねーよ」
実際、まだ花陽の悩みもわかっていない。
「それでも、八幡さんがこうやって誘ってくれただけでも嬉しいんです」
隣を見ると、花陽の優しい笑顔が近くにあった。普段はあまり見せない鎖骨も、濡れて首筋に貼りつく髪も、初めて見る艶やかさがある。
そして、こちらを見る二つの瞳は、無条件に信頼を寄せてくれているような気がする。
今なら踏み込んでもいいのかもしれない。
「花陽…………何か、あったのか?」
俺の質問に、その長い睫毛が少し震え、目が伏せられた。
だが、それも数秒の事で、二つの瞳はこちらを捉え、何やら決意めいた声音で話し出した。
「実はμ,sのことで話が…………」
話は途中で遮られた。
思ったより強い波が来て、俺も花陽も人波に飲まれた。
「ぴゃあっ!」
テンパった花陽を庇うようにこちらへ寄せると、しがみつく感触がしたが、鼻に水が入り、それどころではなかった。
客のはしゃぐ声と共に、やがて波も緩やかになる。
「ゲホッ、ゲホッ!あー、焦った。まさかこんな波が来るなんてな……。花陽、だいじょ……う……ぶ……か」
「うう……」
花陽はものすごい力で俺にしがみついていた。だがそれだけではない違和感がある。何かおかしい。感触というか、感触というか。
「は、八幡さん……」
花陽が泣きそうな目でこちらを見上げる。かなりの至近距離だが、今は気にならないらしい。
先程とは打って変わった、子犬のような可愛らしい瞳に、落ち着かなくなる。
そして、次の言葉で止めをさされた。
「…………水着が……とれちゃいました…………」
「ひゃい!?」
噛み噛みの返事をしながら辺りを見る。だがそれらしいものは何もない。
「ど、どうしましょう……」
花陽の顔が赤く染まってきている。
それと同時に俺に抱きつく力が強くなる。
お腹の辺りで柔らかな温もりが潰れているのは、俺の意識を強く刺激していた。
花陽は水着を着けていない。簡単な事だ。今、俺が受け止めている感触は…………。
いかん、頭がクラクラしてきた……。
だが今は水着を探して、この状況を何とかしないといけない。動きづらいが動くしか……
「お兄ちゃーん……て、ええ!?」
「かよちーん!……にゃあ!?」
来た!救いの女神!
「おい、2人とも、逃げるな!」
「い、いやだって……」
「邪魔しちゃ悪いにゃ……」
盛大な勘違いをしている2人に事情を説明する。
「わかった!花陽ちゃん待っててね!すぐ探してくるから!」
「凛はあっちを探してくる!」
「だからお兄ちゃんは……」
小町が俺の腕を移動させる。自然と顔の位置も近くなる。
「……これは意味があるにょか?」
また噛んでしまった。だが小町は気にしていない。
「もっちろん!この姿勢を保てば、どの角度からも安全安心!……それとも何?お兄ちゃんは花陽ちゃんの胸が、他の男の人に見られてもいいの?」
「…………」
それには答えなかったが、自然と腕に力が入る。
「…………ん」
花陽の息が耳元で漏れ、我に返り、少し力を緩める。
小町はいつの間にか、いなくなっていた。
俺と花陽は何とか端っこへ移動していった。
「八幡さん……」
「ど、どした」
かなり耳元がくすぐったい。腕に感じる花陽の背中の感触も、両手に感じる肩の滑らかさも大変危険です。はい。
「わ、私の、む、胸が他の男の人に見られるのは、い、嫌なんですか?」
言葉の内容もくすぐったいものだった。
「…………あ、ああ」
なるべくさりげない調子で答える。
すると、花陽はさらに強く抱きついてきた。
「わ、私も、八幡さん以外にみ、見られたくないです」
甘ったるい囁きと同時に小町と星空が戻ってきた。
「お兄ちゃんお兄ちゃん!あったよ!」
「あったにゃ!」
「お、おう……。よく見つかったな」
「小町ちゃん凛ちゃんありがとう……」
「いや実は……ある方の元に流れ着いてまして……」
ある方?と思いながら、小町の後ろを見ると、意外すぎる人物、いや天使がそこにいた。
「や、やあ、八幡」
そこには、な、な、何と、戸塚彩加がいた。
読んでくれた方々、ありがとうございます!