捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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「わ、私達の知らない間に、2人はそんなことになっていたのね…………ハラショー…………」 絢瀬絵里

  それでは今回もよろしくお願いします。


サンシャイン

 うっすらと目を開けると、見慣れない天井が目に入る。のろのろとした動作で、枕元に置いたスマホで時間を確かめると、六時半になろうとしていた。普段なら二度寝コースだが、ここは自宅ではないし、花陽も午前中から部活に行かなければならない。あまり物音をたてないように、そして、すやすやと寝息をたてる花陽の方を見ないように起き上がり、部屋を出た。

 

「おはよう、早いわね。よく眠れた?」

 キッチンにいる花枝さんから声がかかる。

「まあ、何とか……」

 天使二人を汚したが……。

「八幡君は今日で帰るの?」

「はい、そうっすね……」

 きっと小町も寂しがっている事だろう。

「そう、残念ね……」

 花枝さんは悲しそうに目を伏せる。その伏せられた目も、長い睫毛も、しなやかな指も人妻の色気を惜しみなく放っていた。何これ。危うく好きになりそうなんだけど。

「そろそろ夏休みだし、またいらっしゃい」

 頭を撫でられる。くっ、平塚先生にこの女神のような優しさとおしとやかさがあれば結婚できるのに……!てか本気になるから止めて!

「じゃあ、花陽を起こしてきてもらえる?」

「……わかりました」

 朝から無駄に心拍数の上がるイベントばかりである。そうなると普段ぼっちの俺は、極めて健康的という事だ。

 いつもならここで、ぼっちの素晴らしさを認識して悦に浸るところだが、何故か深呼吸で思考を振り払い、花陽を起こしに向かった。

 

 さっきは見なかった寝顔を確認する。

「すぅー、すぅー」

 天使だ。天使がここにもいる!穏やかな寝息をたて、見る者を癒すその寝顔は、純真無垢という言葉がとても似合う。だが首から下に目をやると、顔が熱くなるのを感じた。

 昨日は色々あって、そこまで意識がいかなかったが、Tシャツ1枚だけなので、花陽の胸は自然と強調されている。わずかにはだけた部分から見えるお腹は、昨日食べたお米がどこに消えたのか不思議なくらいほっそりとしていた。下は七分丈なので、脛から下しか露出していないが、陶器のような滑らかさが見ただけで伝わってくる。しかもスウェット素材なので、下半身の扇情的な丸みがわかりやすく、目が離せない。

 …………いや、どんだけ見てんだよ。バカ、ヘンタイ、ハチマン。そう思いながら寝顔を見ると、今度は淡く赤い唇に目を奪われ、昨日の事を思い出してしまう。

 これ以上はやばいので、頭を振り、花陽に背を向け、大きめの声で呼びかけた。

 

 朝食をとり、準備を済ませ、花枝さんに礼を言うと、花陽も既に身支度を整えていた。見送りはいいと言ったが、そこはやんわりと譲らなかった。

 夏の空の下、いつものように人が溢れる秋葉原駅まで2人で話しながら、歩いていった。

 

「あの、本当にありがとうございました!」

「俺は何もしてねーよ。つーか練習あるのに見送りなんてしてていいのか?」

「大丈夫ですよ。少し早めに出ましたから」

「そうか。じゃあ、電車来るからもう行くわ」

「はい、じゃあ帰り気をつけてくださいね!」

「あ、ああ、そっちも……気をつけて」

 花陽の大きめの声に少し気恥ずかしさが生まれる。

 そして、俺の表情からそれを察したのか、照れくさそうにはにかむ。

 その姿に背を向け、改札へと向かったが、何か言い足りない気がして振り返った。花陽は手を振るのを止め、首を傾げている。俺はその姿に駆け寄りたい気もしたが、言葉が見つからず、手を振り、改札をくぐった。

 もう振り返らなかった。

 

「はい、じゃあお昼にしましょ」

 絵里ちゃんの言葉で、その場の緊張感がほぐれていく。普段なら私が1番はしゃぐのだけれど、今日はそんな気分になれなかった。穂乃果ちゃんが倒れたというのもあるし、八幡さんとの事も気になっていた。

 昨日、未遂に終わったけど、私…………八幡さんに…………キ、キ………

「…………」

「か、かよちん?」

「は、花陽」

 同じ1年生組の2人に声をかけられる。何で引き気味なんだろう?

「ど、どうしたの?」

「どうしたってあなた、さっきから一人で顔真っ赤になったり、絵里と希の方ばかり見てるわよ?」

「しかも…………胸の辺りばかり」

「え、ええっ!?」

 うう…………忘れたつもりだったけど、やっぱりあの2人を見ると、昨日の事を思い出してしまう。八幡さん……あのぐらいがいいのかな?

「花陽、どうかした?」

「今日、元気なさそうやね?」

 絵里ちゃんと希ちゃんが心配そうに私の顔を覗き込む。だけど私の頭の中はそれどころじゃなかった。

 絵里ちゃんはこう…………ばいーんとハリがある感じ。私よりも弾力がありそう。

 希ちゃんはこう…………たゆんと柔らかそう。ふかふかというか。

 八幡さんはこのぐらいが…………

「「きゃっ!?」」

 2人の胸に手を伸ばし、確かめる。

 こんな感じが好きなのかな?

「は、花陽!」

「い、いきなりどないしたん?」

「花陽!花陽ってば!」

「かよちんが……かよちんが壊れたにゃーー!!」

「花陽!ハレンチですよ!止めなさい!」

「花陽ちゃんがこわいよぅ……」

 そういえば、お母さんの胸もいやらしい目で見ていたような……………………八幡さんのばか。

 しばらくして我に返った私は2人にひたすら謝り続けました。

 数日後、μ,sに大きな事件が起こるなんて気づきもせずに…………。





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