捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
それでは今回もよろしくお願いします。
「おい、これ……」
「あうぅ……」
場の空気を変えるために花陽、俺の順で風呂に入った後、残りのPVを観るために花陽の部屋に戻ると、おかしな事になっていた。
ベッドのすぐ傍に布団が敷かれている。
「花陽、寝るときはベッドじゃなくて布団派なのか」
「いえ、ち、違います……」
「じゃあ、これは……」
まさかな、と思うが…………。
「お布団敷いといたわよ~」
そのまさかでした。ニコニコ笑顔の花枝さんは悪びれる様子もなく、というか、それが当たり前とでも言いたげな口調だ。ああ、可愛い可愛い。
「はうぅ……」
「いや、さすがにここで寝るのはまずいでしょう」
花陽の方は見ずに、未成年の真面目なぼっちとして当たり前の抗議をする。さすがにまだ花陽の顔を見る勇気はない。間近であんなに見つめ合って、その秘められた色気を認識してしまったのだ。もう意識しないのは無理がある。
「あら、私の部屋の方がよかった?」
思わずずっこける。いちいち言動が斜め上すぎる。花陽との共通点は顔と胸だけじゃねえのか。…………ちなみに花枝さんは平塚先生より大きいと思います!
考えている内に、どこからともなくドス黒いオーラを察知して震えたので、慌てていらない考えを振り払う。
「俺はリビングで寝ますよ」
「あら、花陽と一緒の部屋は嫌?」
「お、お母さん!」
「そ、そんなことないろ!」
「やっぱり花陽と一緒の部屋がいいのね!」
「そ、それも違いましゅ!」
「お母さん!八幡さんが困ってるよ!」
「じゃあ、リビングで私と寝る?」
「はい!」
「八幡さん……」
「…………」
皆さん、そんな目で見ないで。これは誘導尋問だ。叙述トリックだ。言わされただけで決して本音ではない!ハチマン、ウソ、ツカナイ。
「八幡さん…………もしかして、お母さんの事が…………」
花陽の盛大な勘違いが聞こえるが、今は気にしている余裕はない。この花陽に輪をかけて天然ぽわぽわの花枝さんのペースに飲まれたら終わりだ。何なら花枝さんルートに突入するまである。だってどっかの青春男だって、うっかり女々さんルート入りかけてたし…………。
「あのですね、花枝さん。若い男女が二人きりで同じ部屋で寝泊まりして何か間違いが……」
「ま、間違い…………あわわ…………」
花陽が間違いという言葉に反応して、混乱している。
「大丈夫よ、だって八幡君はそんなことしないもの」
「そ、そうですか」
過度な信頼は困る。そもそもぼっちとは、信頼しない・されないを信条とする孤高の生き物なのだ。それにぼっち以前に…………男だしな。さっきも場の空気に流されかけた。いや、それ場の空気だけじゃなく、特別な感情も確かにあったけど。
「あ、あの、八幡さん!」
花陽の方を向くと、もうその瞳にはさっきの艶っぽさはなく、いつもの柔らかさがあった。
「わ、わ、私……大丈夫です!」
…………何が?
結局、花陽部屋で寝る事になった。そういう方向で話が落ち着いたところで、もう夜も遅いので、すぐ寝ることにした。俺がやるべき事は二つ、花陽の方を見ない事。1秒でも早く寝る事。
「八幡さん、すいません。うちのお母さんが…………」
「ああ、大丈夫です」
小町が一人、小町が二人、小町が三人。
「ちょっと天然だけど優しいお母さんなんですよ」
「そ、そうですね」
小町が四人、小町が五人…………。
「ど、どうして敬語なんですか?」
『小町…………お兄ちゃんなら…………いいよ』
「おぉう」
「ぴゃあっ!」
いかん。気持ち悪い声が漏れて、花陽を驚かせてしまったら。つーか俺は何て妄想を…………。小町的にポイント低いどころではない。くっ、天使を数えてはやく眠ろうとしたのだが、逆効果だったようだ。
「す、すまん。ウトウトしかけたところでうなされて」
「あ、眠りかけてたんですね。ごめんなさい」
「いや、大丈夫だ…………」
いいか、無心になれ。……そうだ!俺には戸塚という天使がいるじゃないか!
俺は脳内で愛でるように数える。
戸塚が一人、戸塚が二人、戸塚が三人…………
『八幡…………来て』
「うぐぅっ」
「ぴゃあっ!は、八幡さん、どうかしたんですか!?」
「いや、寝る前はいつもこうなんだ」
「そ、そうなんですね」
考え得る限り最悪の言い訳をしながら、もう何も考えないようにする。いかん、天使2人を汚してしまった。頭の中がどうかしている。色んな事が自分には早過ぎて、少し脳を休めないと、パンクして自分が自分じゃなくなりそうだ。
そうこうしている内に、眠りが優しく包み込んできた。
「八幡さん…………今日はありがとうございます」
最後に柔らかい声に囁かれ、俺の意識は途切れた。
しばらくすると、二つの寝息がじゃれるように部屋の中に響いていた。
明後日はラブライブ!サンシャイン第9話!
読んでくれた方々、ありがとうございます!