捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
「こ、高校生でお泊まりなんて、ハ、ハレンチです!ハレンチ過ぎます!」 園田海未
それでは今回もよろしくお願いします。
「大変申し訳ございませんでした」
「し、知りません!」
全力の土下座をするが、花陽は聞き入れてくれない。というかこっちを見ていない。部屋の端っこで壁を向いて正座をしている。その後ろで俺が土下座をしているので、変わった儀式みたいだ。まあ、実際許しを乞う儀式ではあるし、これに失敗すれば、社会的に死ぬ。もう死んでるかもしれんが。
とにかく対話を試みるしかない。
さあ、理解し合おうではないか!
「魔が差しただけなんだ」
「…………」
違う。これじゃ万引き犯みたいだ。
「まあ、その、あれですよ、あれ。男というのは好奇心が強くて……探究心が抑えられないといいますか……」
「…………」
「そう!これは知らないものを知ろうとする努力なんです!」
何故か敬語で言いきった。
最後に『私、気になります!』とつけておけばよかったかもしれない。
「…………」
花陽は未だに無反応だ。それどころかオーラが強くなっている。
「大変申し訳ございませんでした!!」
振り出しに戻り、土下座をする。
「…………」
ちらりとこちらを見たが、目が合うとまたつーんと向こうを向いた。まだ心に響かないのか…………。
仕方ない。奥の手を使おう。
「実は千葉駅の近くにおいしいご飯にこだわった定食屋ができたんだ」
「…………」
心なしか少しこちらへ傾いた。
「この前一人で行ってみたんだかな、そりゃあいい白米を使ってたよ」
「…………」
お、こっちを見ている。
「だから……今度……よかったら…………一緒に行くか」
「…………はい」
花陽はこちらを向いてくれる。
「そういう事なら…………許してあげます」
ようやく笑顔を見せてくれた。
だがすぐにジト目になる。
「でも、もうこんなのはダメですからね!」
「はい」
「頑張ってるアイドルの胸をい、いやらしい目で見るなんて!」
「はい」
花陽は軽く俯いた。
「私のを…………見ればいいのに」
その呟きはよく聞こえなかった。
「じゃあ、夏休みに…………いいか?」
「は、はい!」
普段の調子が戻ってきた。
「ご飯特盛りおごってやるよ」
「た、楽しみです!」
「小町と星空の分も俺が出すか…………」
「…………」
花陽は壁に手をついて、はぁーっと溜息をついた。あれ、選択肢間違えた?
「ど、どうした?」
「何でもありません…………八幡さんのばか」
「そ、そうか」
何でもありませんといって何でもない事があった試しがないが、薮蛇にならないように黙っておく。口は災いの元である。俺の場合、手遅れだが。
「じゃあ、1年生だけで撮影したPVがあるので見てもらえませんか?」
「わかった」
立ち上がるが、先程の正座で足が痺れて上手く歩けない。
花陽も『あうぅ……』と動きにくそうにしているので、同じように足が痺れているのだろう。
我慢できなかったのか、花陽が俺の方に飛び込んでくるが、俺も足が痺れているので、支えきれない。
「きゃっ!」
「っ!」
2人してベッドに飛び込んだ。
「ご、ごめんなさい」
「こっちはいい……。そっちは大丈夫か?」
「あ、はい……………………あ」
花陽は完全に俺に乗っかった姿勢だった。
顔が胸元にあるので、こちらが顔を少し起こせば、至近距離で目が合う。
腹の辺りに柔らかい温もりが潰れて、とくんとくんと心音を伝えてきているようだ。さっきまで他の女子の胸に見とれていたのが、バカみたいに思えてくる。
「八幡さん……」
足の痺れが治まりきらぬ内に、花陽は身を捩り、顔を俺の顔の真上に移動させる。身を捩る度に擦れる体温がやけに熱かった。
花陽の潤んだ目を見つめながら俺は動けずにいた。これから何が起こるのかも考えなかった。
時計の音だけが規則的にカチカチとリズムを刻む。
今更ながら、心臓が爆発しそうだ。道理で動けない訳だ。
花陽の心地良いくらいに冷たい両手が、俺の頭部を左右から包む。
閉じられた瞼は振るえていた。
熱い吐息にくすぐられ、こちらの唇も震え出す。
「お風呂あいたわよ~♪」
「「~~~~!!!」」
突然の出来事に2人して声にならない声を上げながら、一瞬にしてベッドの両端へ転がる。
おいおい、今、俺、何しようとしてた!?
「ぴゃああ…………」
花陽は半泣きのような声でベッドに潜り込んだ。そして、さすがに気まずそうな花枝さんは…………
「え~と……………………てへぺろ♪」
何それ可愛い。
読んでくれた方々、ありがとうございます!