捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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夏の魔物

『じゃあ、凛ちゃんと色々見てきまーす♪お兄ちゃん、花陽ちゃんをしっかりエスコートするんだよ!!』

 

「またか……」

「あはは……」

 

 メールを見ながら溜息をつく。小町と星空は再びドロンした。しかも、俺達の気づかない内に。おい、ステルス奪うんじゃねぇよ。スポーツできるイケメンが読書してるの見た時くらいの敗北感に襲われるじゃねぇか。

 まあ、ここで悩んでも仕方ない。

 

「……じゃあ、行くか」

「は、はい!」

 

 とりあえず、この暑さから逃れよう。

 

 *******

 

 今からお祭りの会場に移動しても、花火の場所取りに巻き込まれて無駄な体力を使うだけなので、日頃からエコを心掛ける俺は、花陽を連れて、そのまま駅ビルへと入った。まあ、花陽の方が詳しいんだけど。

 心地よい冷風に汗がすーっと引いていく。花陽も気持ち良さそうに吐息を漏らす。何かエロいと思ったのは、一生胸に閉まっておこう。そして、自分の部屋だけで取り出そう。

 

「あの……」

「どした?」

「八幡さんって…………誕生日はいつなんですか?」

「…………」

「ど、どうかしましたか?も、もしかして聞いちゃいけない事でしたか?」

「いや、生まれて初めて聞かれたんでな」

「そうなんですか……」

 

 あれ?何か引かれたような気がする。だがこれは今まで聞いてこなかったクラスメイトが悪い。

 

「8月8日だ。夏休み中だから、教えても誰も祝いようがない日からな。ま、聞かれなくて正解だ。これは友達いないとか、嫌われてるとか、興味持たれてないとは別の次元の話だ」

「…………夏休み、誰とも会わないんですか?」

「…………」

 

 盛大に自爆している気がする。次元が違うとか戦闘中な格好いい表現なのに、日常で使うと案外ださい事がわかってしまった。

 

「誕生日って……やっぱり、家族でどこかに行くんですか?」

「いや、一万円渡されて終わりだ。ちなみにケーキ代もそこに含まれる」

「…………」

 

 花陽がほっとしたような表情になる。そりゃさすがに家族まで俺の誕生日を忘れたら泣くぞ。

 考えていると、今度は真剣な表情で聞いてくる。

 

「あの……よかったら、その日、千葉にいくので……」

 

 花陽の声が止まる。俺の背後を見ているので、振り返ると、そこには小さな子供がいた。

 声を上げてはいないが、涙をポロポロ零しながら、キョロキョロと周りを見回している。

 一応、周りを見てみたが、この子の親らしき大人は誰もいない。花陽に目配せしようとすると、花陽は既に子供の前でしゃがんでいた。

 

「ボクどうしたの?お父さん、お母さんとはぐれたの?」

 

 子供に目線を合わせ、笑顔で優しく話しかける。俺なら第一段階でアウトだ。子供って残酷だぜ。目を合わせただけで泣くときがあるんだもん。

 

「八幡さん、やっぱり迷子みたいです……」

 

 花陽が切なそうな顔になっている。

 

「じゃ、店員に言うしかないな」

「ですよね……」

 

 ひとまず花陽が手を引いて、サービスカウンターまで連れて行く。俺が手を引こうとして首を振られたのは、軽いショックだった。

 

 *******

 

「じゃあ、お願いします」

 

 2人でサービスカウンターのお姉さんに頭を下げ、立ち去ろうとする。すると、後ろから……

 

「バイバイ……ママ……………………パパ…………」

 

 いや、誤解受けそうな事言うなよ。一瞬、お姉さんが顔顰めたぞ。てか俺嫌われてるんじゃなかったのかよ。

 少しだけ早足になりながら溜息をつき、花陽に目を向ける。

 

「ママ……パパ……夫婦…………」

 

 顔を赤くして何やらブツブツ呟いていた。


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