捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

24 / 129

  感想、お気に入り登録ありがとうございます!
  ラブライブ!サンシャイン第7話来たーーーーーーーーーーーー!!
  それでは今回もよろしくお願いします。


恋する凡人

「あなた達って付き合ってるの?」

 綺羅ツバサはアイドルの話もそこそこに、いきなりぶっ込んできた。まるでこれまでの話は前置きと言わんばかりの勢いで。恋愛沙汰に興味津々な辺りは女子高生と言ったところか。先程までのオーラは鳴りを潜めていた。

 だが事実を告げなければならない。

「いや、そういうんじゃないですけど……」

 何故事実なのに、こんなに言いづらいのだろう、と思いながら、花陽を横目で見る。少しだけその表情に陰りが見えたのは、きっと俺の気のせいだろう。

「まあ、あれですよ。花陽はスクールアイドルな訳だし……」

「あら、スクールアイドルは恋愛禁止ではないわよ」

 綺羅ツバサは目を細め、挑発的な声音になる。

 花陽は「あぅ……うぅ……」と慌てふためいている。そ、そんなリアクションされたら、こっちが対応に困るじゃん……。

 かくなる上は……

「綺羅さんは彼氏いるんですか?」

 俺の108の特技の一つ話題そらし。だがこの特技はかなり錆び付いているかもしれない。なぜなら、普段話題をそらす必要が出てくるほど人と話さないからな。小町に対しては常に誠実だし。

 ここで綺羅ツバサは意外な反応を見せた。

「え?え?わ、私!?ば、ばかねぇ!!そ、そんな事……」

 先程までの余裕はどこへやら、顔が紅くなり、目は泳ぎ、噛みまくってる。あ、やべ。地雷踏んじゃった。平塚先生のわかりやすい地雷と違い、巧妙に地下に隠されている地雷なので、見つからなかったかー…………。

 花陽はそんな綺羅ツバサを見つめながらキョトンとしていた。まあ、PVからは想像もつかん姿を見せられてるからな。

「ほ、ほら、私……ずっと女子だけの学校だったし?まだそういうのいらないし?ていうか興味ないし?」

「「…………」」

 やばい。こりゃ完全に平塚先生タイプの人間だ。花陽も気まずそうに笑ってるじゃん。

 後で教えてあげよう。

 教師になるのだけはやめておいた方がいい、と。

 

「今日は付き合ってくれてありがとう。それと…………変なところを見せてごめんなさい」

 校門前で綺羅ツバサは俺達を見送りに来ていた。この後、A-RISEのミーティングがあるらしい。ちなみにこの人が立ち直るまで1時間くらいかかったのは内緒だ。あ、言っちゃった。だって何の為に連れて行かれたのかよくわからなかったし……。

「小泉さん。ラブライブ、楽しみにしてるわ。お互い全力を尽くしましょう」

 綺羅ツバサは一瞬でスクールアイドルの顔に戻った。真っ直ぐな視線は花陽の目を捕らえていた。

「は、はい!わ、私……まだ未熟だけど……ま、負けません!」

 花陽も何とか言葉を紡ぐ。憧れのアイドルから正式なライバル宣言を受けたのだ。きっと俺には想像もつかない気持ちになっているだろう。

「比企谷君」

「ひ、ひゃい」

 呼ばれる事を想像していなかったので噛んでしまう。

「頑張ってね」

 そう言いながらウインクをしてくる。『何を?』と言う前に、綺羅ツバサは手を振り、颯爽と校舎へと歩き出した。

「花陽……」

「?」

 その背中合わせを見ながら、俺は花陽に疑問をぶつける。

「ラブライブって何だっけ?」

「…………」

 この後、花陽からアイドルショップで熱いアイドルトークを聞かされる羽目になった。

 

 いつにも増して時間がはやく経ち、空は茜色が混じり始めている。俺は花陽をマンションまで送っていた。一番星が姿を見せている。

「すいません。送ってもらっちゃって」

「気にすんな。こんな時間に1人で帰したら、小町から何を言われるかわからん」

「先輩、小町ちゃん大好きですもんね」

「千葉の兄妹なんてそんなもんだろ」

「あはは……」

 八幡的にポイント高いセリフに花陽が苦笑していると、マンションの前に辿り着いた。

「着いたな」

「着きましたね……」

「…………」

「…………」

 何故か歩くのをやめた花陽に戸惑いながら、気づかないふりをして、俺は駅へと歩き出した。

「じゃあ、俺そろそろ行くわ」

「あ、あのっ!」

 右手をひんやりとしたものに包まれる。振り返ると、花陽が両手で俺の右手を包み込んでいた。

「ど、どうした?」

「あの……」

 花陽は俯いたまま、話し出す。

「私……何だか、最近、よくわからなくて……」

「あ、ああ……」

「先輩とメールしたり、電話したり、こうやって会って話してる時、すごく楽しいんですけど、少し寂しくて……」

 沈黙で続きを促す。

「先輩って、小町ちゃんがいるから、年下の私は妹みたいに思ってるのかなって。それはそれで嬉しいんですけど、何か違うなって…………」

「…………えーと、何かすまん」

 訳もわからずに謝る。馴れ馴れしかったという事なのだろうか、と脳が判断する。だがそれは何かから逃げようとしているようだった。

「いえ、先輩が悪いとかじゃないんです……………………ただ、私……」

 花陽は俺の手を握る力を強めた。

「妹じゃ、ただの後輩じゃ…………嫌だなって…………だから………だから……」

 顔を上げた花陽はこれまでにない色をした微笑みを俺に向けた。

「改めて…………よろしくお願いします。…………八幡さん」

「あ、ああよろしく」

 俺の返事を聞いた花陽は、ゆっくり手を離し、ぺこりと頭を下げ、俺に礼を告げると、マンションへ入っていった。

 胸がどくんと高鳴る。

「花陽……」

 頭から離れないその姿の名を口にして、俺は駅へと歩き出した。

 

 右手だけやけに熱かった。





   読んでくれた方々、ありがとうございます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。