捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
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それでは今回もよろしくお願いします。
「なあ、花陽」
沢山の人々が行き交う秋葉原の街をキョロキョロと見回して、妙に機嫌が良さそうな花陽に疑問をぶつける。
「自分から来といて何だが、俺と一緒にいるのは不味くないか?」
普通に考えれば、移動して浅草でもスカイツリーでも行けばいいのだが、何分財政難の我が財布の中は、余分な交通費を捻出する余裕などない。かといって……
「なんつーか、その……スクールアイドルとして顔出ししてるお前が俺みたいなのと……」
途中ではっとして言葉が止まる。
花陽はこれまで見せた事のない寂しげな表情をしていた。長い睫毛が少し震えているように見え、俺の言葉の先を予期しているのか、少しずつ伏し目がちになっていく。
こんな表情を向けられるのが初めてなので、何も言えなくなる。
「そんな事……」
花陽が次の言葉を静かに紡ごうとする。
「……すまん、行くか」
慣れない空気を変えたくて、先導するように歩き出した。
「…………はい!」
花陽の明るい返事に空気が変わるのを感じながら、柄にもなく出来るだけの事をやろう、などと考えていた。
小町から得た知識を総動員するか…………。
ミスドに行くぐらいしか思いつかないや。
そもそも秋葉原は俺のフィールドではない。
小町が俺に口を酸っぱくして仕込んだデートプラン20選はきっと千葉でしか役に立たないように出来ているのだろう。もし違うとしても、俺が悪いんじゃない。社会が悪い。
自分で自分に言い訳しながら、2人分のドーナツと飲み物を買って、席に向かう。おお、何かデートっぽい。小町が見たら感動で泣くんじゃね?
「ほら」
感動に目を潤ませながら、花陽にドーナツを差し出すと、顔が綻んだ。
「あ、ありがとうございます!」
「お、おう……」
満面の笑みに対して、照れるあたりがもうね…………。
ココアを啜り、気持ちを落ち着ける。
「あの……明日からまた学校始まりますね」
「そうだな」
「先輩はとも……………………テストとかはどうですか?」
え、何?今の話題転換。いや確かに友達いないけどさ。せいぜい戸塚というマイエンジェルがいるくらいだ。
「テストは数学はアレだが、まあ問題ない」
「そうですか……」
「ああ、そっちは新曲は……」
「えーと、そろそろやる予定にしているんですけど、作詞待ちですね……」
「そうか……」
「……」
「……」
あれ?デジャヴ?
会話のタネを探していると、誰かこちらに向かって来ている。
見たところ、少なくともμ,sのメンバーではない。
花陽も俺の視線の先が気になったのか、背後を見て…………固まった。
どっかで見た事あるんだよなぁ……。脳内の人物フォルダを漁っていると、その人物は花陽に笑いかけた。
「あなた……μ,sの小泉花陽さん?」
髪をふぁさっと軽くかきあげる仕草が様になりすぎて、ちっとも嫌味な感じがない。背は小柄だが、オーラみたいなのが出ていて緊張してしまう。これは覇気か。ワンピースの世界なら、俺は泡を吹いて気絶していた事だろう。
「あわわ……」
花陽が震えている。え?まさか本気で覇気にやられたの?
「き、き、綺羅ツバサちゃんですよね!?」
花陽の大声に店内がざわめき出す。
思い出した。
A-RISEのメンバーだ。
花陽と同じスクールアイドルだが、こちらの人気は全国区。芸能人みたいなものだ。店内に色めき立った雰囲気が充満する。
花陽も大声で名前を呼んだのをまずいと思ったのか。両手で口を塞いでいる。
だが、当の本人はそんな空気など、どこ吹く風とばかりに「失礼するわね」と声をかけ、座ってきた。
……俺の隣に。
花陽がぽかんとした顔でこちらを見る。いや、俺何もしてない。さらにすごくいい香りが鼻腔をくすぐる。
「へえー」
綺羅ツバサは俺の顔をまじまじと見つめる。近い近い近い!つり目がちの勝ち気な瞳に捕らえられ、こちらも目が離せなくなる。
「むぅ……」
花陽が柔らかそうなほっぺたを膨らませている。
「あら、ごめんなさい」
花陽のかわい……こわいい視線を感じたのか、綺羅ツバサは花陽に向き直る。
「初めまして、私はすぐそこのUTX学園でスクールアイドルをやってる綺羅ツバサです。A-RISEってグループは……」
「も、もももちろん知ってます!だ、大ファンです!」
「あら、ありがとう」
先程の不機嫌はどこへやら、花陽が食い気味に答える。まあ、憧れのアイドルだし仕方ない。俺だって戸塚を見ていると、たまに発狂しそうになる。それと一緒だよな。違うのか。違うか。
「実は私もあなた達のファンなの。小泉さんの歌唱力は素晴らしいと思ってるわ」
「そ、そそ、そんな……」
ほう…………中々見る目がある。いや、俺何目線だよ。だが小町も花陽の歌声が大好きだと言っていた。部室でμ,sの映像を見ていた時、花陽のソロパートで雪ノ下も由比ヶ浜も聴き入っていたし。
「一度会ってみたいと思っていたのよ。まさか彼氏とデート中に出会うとは思わなかったけど」
「か、か、か、彼氏ぃ!?」
可愛らしく慌てる。俺が。
俺の気持ち悪い声に優しく苦笑いした綺羅ツバサは立ち上がった。
「ね、場所変えましょ?」
雪ノ下ばりに一々動作が格好いい。面倒な事に巻き込まれる気がしないでもないが、花陽の好きなアイドルだし、とりあえずついていく事にする。
「花陽、行くぞ」
花陽に目を向けると、顔を真っ赤にして固まっていた。
「か……か……彼氏……私……先輩……」
あれ?そんなに嫌だった?
いらんダメージを受けてしまう。
綺羅ツバサは俺達2人の様子を見て、また苦笑いを浮かべていた。
意外な人物登場!
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