捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
「♪~」
花陽がμ'sの歌を口ずさみながら、台所でせっせと料理を作っている。この匂いはカレーに間違いない。白米は既に花陽自身の手で準備されている。
「もうすぐ出来ますから、待っててくださいね♪」
こちらを振り返りながら、とろけるような柔らかい笑顔を向けてくる花陽。
好きだ!!
……いかん。キャラが変わってしまった。
しかし、本当に綺麗になったと、ここ最近は何度も思う。
あれから俺は大学3年に、花陽は2年になった。お互い二十歳を超え、付き合い始めてから3年以上の時が過ぎた。最近の変化といえば、花陽が俺の住んでるアパートに引っ越してきて、同棲を始めたことだ。とはいっても、花陽の両親が住んでいるマンションは近いので、たまに二人で泊まりに行くことにしている。
そして……意外なのかもしれないが、未だに一線は越えていなかった。
「八幡さん、どうかしました?」
「え?あ、いや……」
考えごとをしている内に、テーブルの上には料理が並べられていた。手伝い忘れたことを申し訳なく思っていると、花陽がジト目をこちらに向けていた。
「……Hな事でも考えてましたか?」
「……そんなわけないだろ」
「昨日、私のパソコンの閲覧履歴にμ'sの水着PVがありましたよ?」
「誰の仕業だろうな」
「誰の仕業でしょうね?」
「…………」
「…………」
お互いじぃ~っと見つめ合う。花陽のくりくりした瞳は、もう大人の色気が漂っている。今日はどうも頭がおかしいようだ。うっかりしていると、材木座のように再び中二病を発症してしまいそうだ。
そんな事を考えている間も、花陽の視線が逸らされる事はなかった。
「…………」
「……ごめんなさい」
「よろしい♪」
まさか、履歴を消し忘れていたとは。俺とした事が……。
「そんなに私の水着姿が見たかったんですか?」
「……ああ」
「そんなに絵里ちゃんの水着姿が見たかったんですか?」
「ああ」
「……そんなに希ちゃんの水着姿が見たかったんですか?」
「ああ!」
今でもお世話になっているのは内緒である。た、たまにしか見てないんだからねっ!
「八幡さん」
「は、はい……」
花陽から威圧感を感じる。
「洗い物、お願いしますね」
「はい」
食事を終え、洗い物を片付け、花陽の姿を探していると、寝室から花陽が顔だけひょこっと出している。
「どした?」
「あ、あの……見てもらいたいものが……」
花陽は少しだけ逡巡し、スローモーションで寝室から出てきた。
その姿に、思わず俺は息を飲んだ。
「は、八幡さん……」
「どうしたんだ?その格好……」
花陽は黄緑色のビキニを着用して、少し恥ずかしそうにもじもじしていた。豊かな胸の膨らみ、しっかりとくびれた腰、身長の割に長い脚が、剥き出しになり、ただひたすら魅力的だった。言葉で表現するのが、憚られるくらいの美貌だった。
「どう、ですか?」
「……すごく、綺麗だ」
「ありがとうございます。その……いつでも着てあげますから……」
「?」
「私だけ……見ててくださいね」
「……当たり前だろ」
「ば、罰として今日は……沢山ぎゅっとして欲しいです」
そう言いながら、花陽は俺の胸に顔を埋めてくる。ふわりと漂ういつもの香りが心地良い。
髪を撫でていると、自然と口が動く。
「花陽は……その……いつも、可愛いし、最近はさらに綺麗になったと思う」
「そ、そんなに褒められると、照れちゃいますよ……」
「たまには、きちんと言葉にしておきたい」
「ふふっ。じゃあ、私も……」
花陽は背伸びして、唇を重ねてきた。
日課のようなキスも、どんどん深く体に馴染んでいく。
いつもより意識しているせいか、体が熱くなってきた。
今なら何でもできそうな気がした。
「花陽」
「はい」
「その……俺は……今までで一番、花陽が欲しい」
花陽は目を見開き、唇を震わせたが、やがて小さく頷いた。
甘い沈黙の中、時計だけがチクタクと音を刻んでいた。
灯りを暗くした部屋のベッドの上、熱く見つめ合っていた。今、世界から切り離され、本当に二人きりになたた感覚が脳を支配している。
窓から射す月の灯りに照らされた花陽は、瞳を潤ませながら、甘く囁いた。
「八幡さん……愛してます。ずっと……」
「……俺もだ。明日はさらに好きになる」
花陽の体温と息遣いを心に刻みながら、俺達は今までで一番深い場所で重なった。