捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
いきなり書きたくなりました(笑)!
それでは今回もよろしくお願いします。
夏の魔物 ♯2
高校三年、八月。
受験を控えた俺にとっては、最も勉強に身を入れなければならない月だろう。いや、むしろこの炎天下に出たくないから、家でクーラーで涼みながら勉強するのが賢い過ごし方といえる。エアコン最高。
しかし、現在俺の部屋は別の意味で涼しい……いや、涼しいを通り越して寒かった。
原因は…………
「八幡さん」
「はい」
「これは何の勉強に使うんですか?」
冷え冷えとするような声音の花陽は、俺の前にセクシーな女性が表紙を飾っている雑誌を置いた。ちなみに俺と花陽は正座で向かい合っている。
「いや、これは……人生の参考書というか……」
「…………」
「ごめんなさい」
花陽は俺が出来心で購入したお宝を一つ一つ、顔を赤くしながら表紙を確認する。時折「むむっ」と唸り、その度に少し癖のある長い髪が揺れる。ショートカットも可愛いが、これはこれで最高だと思う。
俺と花陽の交際は、まあ順調だ。互いにやる事が多く、会える時間は決して多くはないが、それでも会える日はこうやって…………
「八幡さん」
はい、すいません。怒られてる最中でした。
「ど、どうした?」
「金髪ポニーテールのクォーター美女……誰かに似てますね」
「き、気のせいだろ」
あれ?背中から汗が…………。
「巨乳巫女特集……へぇ」
「たまたま……ですよ?」
「ツンデレお嬢様図鑑……ふふふ」
「…………」
あれ?おかしいな。体が動かないや。
「黒髪ストレートの大和撫子のあられもない姿」
「お、おう」
「ロリッ子のセクシーショット……うんうん」
花陽の口元に次第に冷たい笑いが浮かんできて、こちらは生きている心地がしない。
「脱いだらすごいメイドさん……」
「…………」
「和菓子屋の元気娘の限界ショット……」
「は、花陽……そろそろ……」
「ショートカット特集……」
「頼む!もうやめてください!」
「八幡さん」
「はい」
「八幡さんって、本当に勉強熱心なんですね♪」
「い、いやぁ、それほどでも……」
クレヨンしんちゃん風に言ってみたが、部屋の温度は下がるばかりで、この状況が好転する事はなかった。
「まったくもう……八幡さんは……」
「ごめんなさい」
小一時間の説教をされた後、ようやく正座を崩す事ができた。うわぁ、足が痺れてかなり辛い……。花陽と付き合い始めてから一番怖かった。
「あの……」
「?」
「な、なんで、私に似たのはなかったんですか?」
花陽は不安そうな目を向けてくる。
「いや、それは…………色々…………」
そんなもん見た後に花陽と会ったら間違いなく……。
俺の表情を見た花陽は何かを察したのか、柔らかな笑顔を作り、ぴったりくっついてくる。
「そんなに、が、我慢しなくていいのに……」
「別に……そんなんじゃ……」
「じゃあ、これは捨てておきますね♪」
「はい……」
「八幡さん!」
「どした?」
「今日……泊まっていいですか?」
「あ、ああ」
「ていっ♪」
花陽が抱きついてきた。
長い髪からは、いつもと同じ香りがふわりと漂い、安らいだ気持ちになる。
「ふふっ。ば、罰として今日は……可愛がってくださいね」
「いや、だから……」
上目遣いでそういう事言われると、今度こそ理性が吹っ飛びそうになるんですが、いいんでしょうか?
もしそうなってしまったら、勉強なぞほっぽり出して、花陽に溺れてしまいそうだ。それを恐れている。
花陽がどう思っているのかはわからない。ただ、もう少し時間が欲しい。
「…………」
「…………ん」
甘すぎず、深すぎないキスを交わす。
その温もりは体に馴染んでいて、花陽の気持ちが前より多く流れ込んでくる気がした。去年の夏は、こんな事想像もしなかった。
今年の夏は去年よりも熱く高鳴っていた。
読んでくれた方々、ありがとうございます!