捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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魔法のコトバ ♯2

 空は青く澄み渡っていた。どこまでもどこまでも続いていきそうな青空は雲一つ見当たらなかった。

 柄にも無く見とれていると、ポケットの中のスマホが震える。画面を確かめると、花陽からだ。本番前で人目もあるので、さすがに直接会うのは止めておこうと、前日に二人で決めた。

「あ、八幡さん。今、大丈夫ですか?」

「おう、どした?」

「えーと……本番前に声が聞きたくなっちゃって」

「そっか。じゃあ、千葉の素晴らしさを存分に語って……」

「空、晴れましたね」

「あ、ああ……」

 あれ?あまり興味がない?かなり語り尽くせる自信があるんだけど。まあ、いいか。

「八幡さん」

「?」

「ちゃんと見ててくださいね!」

 スクールアイドル・小泉花陽はもうエンジン全開のようだ。

 確信した。きっと最高のライブになる。

「ああ、見てる……ずっと」

 

 スクールアイドル達のライブは、最初から最後まで幾つもの笑顔が弾ける、楽しいライブになった。μ,sのメンバーは勿論、各地方から集まったスクールアイドルや、いつもはクールな印象が強いA-RISEも楽しそうにはしゃいでいる。そして、高坂さんから半ば強制参加させられた総武高校の女子もぎこちないながらも楽しそうだ。しれっと小町も参加しているから写真に収めねば。平塚先生?俺らと一緒にいます。結婚前にキズモノにするわけにはいきませんので。……何度も言うが、はやく誰かもらってやってくれよぉ。

 ……話が逸れたが、言葉にし難い大きな感動がそこにはあった。今、確かに秋葉原の街は一つになっている。

「……すげえな」

 誰に言うでもなく呟きながら、手が赤くなっても、最大限の拍手を送り続けた。

 

 ライブが終わり、片づけを終えた後にようやく花陽に電話をかける事が出来た。

 花陽はすぐに出た。

「八幡さん!」

「お疲れさん。最後まで凄かったな」

「ふふっ。まだ終わりじゃないですよ」

 ……はて、この後何か予定はあっただろうか。

「まだ、楽しみはこれからです♪」

 そう言って、隠し事をする子供のような笑みが溢れた。

 

「わあ、ここがアキバドームかぁ。僕、初めて来たよ!」

「我は数回来た事があるな」

 おそらく声優のライブだろう。それ以外考えられない。まあ、材木座だしな。

「ゆきのんは来たことあるの?」

「海外からミュージシャンが来日した時に観に行ったりするくらいね」

「あ、あーしもあるし!」

 三浦が雪ノ下と張り合おうとするが、夏の時と違い、そこにはあまり棘はなかった。

 夕陽も完全に沈みきった時間、スタッフやメンバーの関係者、スクールアイドル達はアキバドームまで来ていた。μ,sからのご招待なので、ここまで来ればやる事はわかりきっている。

 集められた人々は、会場中央の特別ステージの周りで、今か今かと待ちわびていた。

 そして学校のチャイムのような音が鳴り……突然大音量のシャウトがドーム内に響いた。

「イエーーーー~~~~イ!!!!」

 ぐあああぁ!!!!

 会場に集まった皆が一様に耳を抑えてうずくまる。

「穂乃果!!」

「何やってんのよ、もう!!」

「ダ、ダレカタスケテェ……」

「……前もこんな事があったよね……」

「さすが穂乃果ね……」

「相変わらずにゃ……」

「まあ、ウチららしいんやない?うぅ……」

「まったく……しょうがないわねぇ……」

「あはは、ごめ~ん」

 μ,sのやり取りに、会場が温かな空気に包まれる。きっと誰も知らない所で、彼女達はこんなやり取りを重ねていたのだろう。無論、笑顔だけではなく、時にはぶつかり合ったりもしたのだろう。多分、涙も流したのだろう。それでも彼女達が行き着く先は最高の笑顔だった。

「…………」

 少しだけ、涙が零れそうになってしまう。

 ……今、花陽が目の前にいたら、絶対泣く。

「お待たせしました。それでは、μ,sの本当のラストライブを始めます!」

 深呼吸をして、その姿を見届けるべく、ステージに目をやる。

 案の定、ステージ上の花陽と目が合う。

 そこには、アイドルに憧れ続けた少女の綺麗な笑顔が咲いていた。




 次が最終回になります!!!

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