捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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 今年も残り一ヶ月きりましたね。
 残りの2016年を楽しみ抜きましょう!

 それでは今回もよろしくお願いします!


ルキンフォー ♯2

 空港は様々な目的を持った人達でごった返す。

 卒業旅行で海外を旅する男女のグループ。自分の国へ帰国すると思われる背の高い白人の男性。仕事で海外へ出張する雰囲気が滲み出ているスーツ姿の中年男性。ごついキャリーバッグを引いて歩く四人家族。皆それぞれ自分の行き先に思いを馳せていた。

「お兄ちゃん!あまりキョロキョロしないで!見つかっちゃうでしょ!?」

「あ、ああ……」

 比企谷家は全員サングラス着用で歩いている。うわぁ、何だろう。この残念な空気。付き合わされている親父と母ちゃんが少し不憫に思えてくる。

 とりあえず花陽には用事があって見送りにいけない、と伝えておいたので、多分バレたりはしない……はず。

「かよち~ん!こっちこっち~!」

「ダ、ダ、ダレカタスケテェ~!」

「…………」

 目の前通って行ったけど……うん、大丈夫!

「ふぅ、びっくりしたぁ……」

 小町もさすがに今のは焦ったみたいだ。

 不意打ちすぎんだろ。空港ではしゃぎすぎてはいけません!

 すると、正面から見知った胸……顔が歩いてきた。

「お兄ちゃん、東條さんだよ」

「しっ。顔伏せろ」

 やや俯きがちになり、親父と母ちゃんを盾にして歩く。

 そのまますれ違い、やり過ごそうと思ったのだが……

「ほな、ニューヨークでな♪」

「「…………」」

 東條さんは確かに俺の方を見て魔女のように微笑み、小さくそう告げた。

 振り返ってみたが、何事もなかったかのように、てくてく歩き去っていく。

 マジかよ……何者だよあの人……。

 何はともあれ、こうして前途多難な旅路が幕を開けたのだった。

 

 飛行機の中。ひそひそ声で小町と言葉を交わす。

「なあ、小町。これは偶然にしちゃあ出来過ぎてないか?」

「ま、まあ、お兄ちゃんだし……」

 あら不思議。よりによって、このタイミングで花陽の前の席になってしまった。もちろん花陽はそんな事は知らずに、星空達とお喋りしている。

「さっきバレるかと思ったぞ」

「小町も……」

 親父と母ちゃんは席に座るや否や、アイマスクを装着して、熟睡態勢に入った。普段の疲れをここで取り除いて現地で思いきり楽しむつもりらしい。いい夢見ろよ!

「トイレの時気をつけてね」

「ああ」

 やがて離陸の準備が整い、機内にはアナウンスが流れた。

 

 窓の景色を静かに楽しみながら、俺も眠ろうかなんて考えていると、後ろから声が聞こえてくる。

「どうしたの、かよちん。もしかして比企谷さんがいないから寂しいの?」

「え?あ、いや……うん、そうかも」

「か、可愛いっ♪」

 や、やべえ。俺も大声で可愛いって言いたくなってしまう。

「そうね、私も「エリチ」絵里編で絵里がまさかの……!」

「それも禁止やよ」

 この二人はスルー推奨で。たまに変な電波を受信しているみたいで本当に危ない。

「比企谷君とは最近どうなんですか?」

「え?……は、八幡さんはいつも優しいし、一緒にいて楽しいですし……でも、たまにエッチな時もあります」

「へえ、比企谷君もそんな時あるんだ~」

「そりゃそうでしょ。あいつも男よ」

 やめて!それ以上話さないで!女子トーク怖すぎて怖すぎて震えちゃう!

「どうエッチなん?」

 おい、東條希!これ以上言ったらその胸……いや、いやらしい事は考えてませんよ?ハチマン、ウソ、ツカナイ。てかこの人、絶対わざと話を誘導してんだろ。そうなんだろ。

「あはは、たまに……その、胸や脚に視線が集中してるというか……」

「やっぱ男の子なんやね~」

「ハ、ハレンチです!」

「男って本当に……」

「ま、まあ、お年頃だし、仕方ないんじゃないかな」

 くっ、耐えろ!耐えるんだ俺!まだ旅行は始まったばかりなんだからこれから挽回すればいい。

 瞑目し、心を落ち着けていると、隣にいる小町から声をかけられる。

「お兄ちゃん……」

「何も言うな……」

 妹のジト目に、俺は哀しげに項垂れる事しかできなかった。

 そして、前方のささやかな賑わいが寝息に変わるまで、俺は精神を削られ続けていた。

 

 

 

 




 読んでくれた方々、ありがとうございます!

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