捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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俺のすべて ♯2

「お母さん、おかわり!」

「はいはい」 

「…………」

 花陽が元気よくお茶碗を差し出すと、花枝さんは嬉しそうにご飯をよそう。さすがは育ち盛り。どことは言わないけど。できればもう少し……けぷこん、けぷこん。

「八幡君も沢山食べてね♪」

「あ、はい……」

 ……はっ!いかん。チョコを渡して帰るだけのつもりが、すっかり晩飯ご馳走になってしまっている。これがほんわかの総本山・小泉花枝さんの力か。そして、おかずの鯖の塩焼きも美味いのだが、何より白米が美味すぎる。

「お母さん、おかわり!」

「あらあら」

 おっと、さすがにこれは止めねばならない。園田さんからもデート中の食事で、花陽が食べ過ぎたら止めるように言われているのだ。

「花陽」

「?」

「ラブライブ」

「はっ!わ、私ったら何を……」

 花陽は震えながら箸を置き、清水の舞台から飛び降りる気持ちで食事を終えた。つーか、まだ食えるのかよ。

「そういえば比企谷君、最近花陽とはどう?」

「え?あ、いや……ど、どうと言われましても……」

「もう、お母さん!いきなりそんな事聞かないで!」

 花陽があたふたしながら頬を赤く染める。本当にいきなりすぎる。さっきかがんだ時に見えた胸の谷間くらいいきなりすぎだ。

「あら、いいじゃない。男の子とほとんど話した事のない花陽がこんなに惚れてるんだもの」

 そう言いながら両肩をぽんぽん叩いてくる。花陽と同じ香りに、人妻の色香とも呼べるものが漂ってきて少し緊張しながらも、いつか花陽もこういう女性になるのか、なんて想像してしまう。

 結局、食事の間はそんな微笑ましい親子の穏やかでほっこりな攻防戦が繰り広げられながら、時間が過ぎた。

 

 食後は花陽の部屋でくつろぐ事になった。普通にお招きされたが、まだ2回目である。ドキがムネムネしてきた。いや、やらしい事は考えてない。ハチマン、ウソ、ツカナイ。

「もう、お母さんったら」

「相変わらず仲いいな」

「それはそうなんですけど……」

「ん?これ、新曲のPVか……」

「あ、はい。ど、どうですか?」

 へえ、相変わらずすげえな。お、これはいつぞやの乳トン先生ではないですか!お久しぶりです!

「ハチマンサン……」

「はいすいませんでした」

 ……この流れも久しぶり!帰ってきた闇花陽さん!

 

 花陽がチョコを鞄から取り出した。目の前で感想を言ってくれるのだろう。え?さっき?何もなかった何もなかった何も……あれ?手が震えてるなぁ。何でだろう?

 丁寧に包装をほどく指がやけに艶めかしい。こんな仕草さえもそんな風に見える自分がどうかしているのだろうか。考えている内に星型のチョコが花陽の指につままれていた。

「じゃあ……いただきます」

「お、おう……」

 いかん。緊張してきた。

 ていうか、チョコを含もうとするほんのり紅い唇が妙に色っぽい。さっきからどうしたんだろう……場の空気に酔いしれてしまっているのだろうか。

 花陽はそんな事は無自覚にあどけない表情でチョコを頬張り、舌で転がす。

「……おいしいです!」

「そうか。ならよかった……」

 ほっとしながらもなんか落ち着かない。 

「八幡さんもどうですか?」

「ビターチョコだから俺向きじゃない」

「でもこれで……」

 いきなり身を乗り出した花陽が唇を深く押しつけ、舌を押し込んできた。そして、その舌を伝ってチョコが口内にどろりと送り込まれてくる。

「…………」

「これで、少しは、甘く、なりました?」

 そう言いながら微笑む顔は火照っている。

 唇のチョコを拭う舌がいつもの花陽の舌より扇情的に這い回る。

 それを見て体が自然と動いた。

 俺は花陽を押し倒していた。

「は、は、八幡さん?」

 花陽の驚きを押さえつけるように、唇を重ねる。さっきより熱く、甘かった。

「……んん!……んくっ」

「…………」

 馬乗りになって、制服のボタンを一つ一つ外していく。自分が思うよりスムーズにできていた。あらかじめこうなるように仕組まれているみたいな気がした。

「は、八幡さん……!」

「…………!」

 体をずらし、スカートに手をかけた辺りで手が止まる。

 潤んだ花陽の目が獣を見据えていた。

 何がこの瞳を潤ませていたかは一目瞭然だ。

「……ごめん」

 起き上がり、ベッドに座り直す。

「…………」

 花陽は声を発さない。まだ何が起ころうとしていたのかよくわからない沈黙が流れた。

 室内にいるというのに、生温い風が二人の間をすり抜けたようだ。

「……いいですよ」

「え?」

「……このまま……続けても」

「…………」

「だから……」

 彼女は湿った声で続ける。

「ずっと……好きでいてくださいね」

「花陽……」

 花陽は後ろから抱きついてきた。

「八幡さん……大好き……愛してます」

 左肩を濡らす声に、心臓が飛び出しそうなくらい脈打つ。こうしているだけで、花陽の考えている事がわかってしまいそうだ。

「花陽」

「はい……」

 振り返り、胸を揉んでみた。

「ぴゃあっ!」

「無理すんな」

「あうう……」

 花陽は胸を隠し俯く。場の空気が緩んでいくのがわかった。

「怖がらせて悪かった……」

「そんな事……」

「肩震えてるぞ」

「……ごめんなさい」

「いや、謝るのは俺の方だ」

 花陽の頭を撫で、気持ちを落ち着ける。

「ボタン閉めるぞ」

「あ、すいません」

 開いたシャツの間に見える下着や豊満な胸の谷間や白い素肌にどぎまぎしながらも、理性で自分を押さえつける。スカートもはだけて、黒いタイツが妄想を膨らます。

「八幡さん」

「何だ?」

「さっきの言葉は嘘じゃありませんよ?」

「そっか……」

「わ、私は八幡さんの子供なら……産みたいです」

「……え?」

「八幡さんと……家族になりたいです」

「飛躍しすぎじゃないですか?花陽さん」

「でも……本気です」

「……そっか」

 この後は子供の名前だとか、何人がいいかとか、気がすむまで語り合った。

 その余りにも幼くて頼りない未来図は、きっとこの先も輝き続けると心から思えた。

 




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