捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
それでは今回もよろしくお願いします!
「はーい、一旦休憩にしましょう!」
絵里ちゃんの号令で、皆の気が一斉に緩む。ラブライブまであと約2週間。一人一人の一生懸命さがパフォーマンスに滲み出ているような気がして、今まで以上の一体感が生まれていた。皆もそれぞれ手応えを感じているみたいで嬉しい。
しばらく踊り続けていたせいか、2月の冷たい風も心地よく思える。
「うん!良い感じだね!」
「あまりはしゃぎすぎて本番前に怪我しないでくださいよ?」
「みんな~。お菓子持ってきたから食べよ~」
「食べる~!」
「あ、こら穂乃果!話はまだ終わっていませんよ!」
2年生達のいつものやりとりを微笑ましく思いながら、ことりちゃんが持ってきてくれたお菓子に手を伸ばす。
「私からのバレンタインデーチョコだよ♪」
「そういえば、すっかり忘れてたわね」
真姫ちゃんがチョコを手に取り、見つめながら言う。
「花陽ちゃんは比企谷君にあげるの!?」
穂乃果ちゃんがずいっと身を乗り出してくる。
「最初は会って渡したいなって思ったんですけど、八幡さんからラブライブに集中するように言われて……」
「へえ、あいつ意外と気をつかえるのね」
「そうね。じゃあ、今度私が……」
「エリチ編始まったんやろ?」
「うん!」
「それはさておき……じゃあ、応援していただいてる分、しっかり結果を残さねばなりませんね」
「気合入れるにゃ~!!」
「うん!!」
八幡さんも毎日頑張ってるから、私も頑張ろう!
……やっぱり会いたいけど。
夕暮れの帰り道。
疲れきった足と空腹感が頭の中を埋め尽くすのを感じながら、とぼとぼと歩く。お家に帰ったら、白米を沢山食べて、体力を回復しよう。あ、でもあんまり食べ過ぎたら、海未ちゃんに怒られちゃう。
考えている内に、もう自宅のすぐ近くまで来ていた。
ほっとした気分になりながら、少し早歩きになる。
マンションの向かいの公園では、誰かがブランコに……
「……え?」
ふと目を向けた公園の中で、見慣れた人が、いつもの気だるげな表情でブランコに揺られていた。
「八幡さん!」
ブランコでのんびり冬の風を感じていると、聞き慣れた声が届いてくる。電話越しの密やかな響きも好きだが、やっぱり直接耳を刺激してくるこの甘ったるい響きが一番好きだ。
花陽は全力で駆け寄ってくる。
「はぁ……はぁ……どうしたんですか!?」
「少し落ち着けよ」
隣のブランコを促すと、花陽はすとんと腰を下ろし、息を整えた。
その頃合いを見計らって、鞄からプレゼントを渡す。
「これ」
「?」
俺が左手で差し出したそれを、キョトンと見つめている。流石にいきなりすぎたか。
「バレンタイン……」
「え?」
「今日はバレンタインデーだろ?だから……」
「……え、えぇー!?」
まあ、驚くのも無理はない。いきなり訊ねてきた彼氏からバレンタインデーのチョコレートを渡されたのだから。
ちなみに手作り。奉仕部、というか雪ノ下に作り方を教えてもらいながら、何とか完成させた。途中から生徒会やら何やら増えて、一大イベントになってしまったが……。
「でも今日はバレンタインデーじゃ……」
「まあ、あれだ。たまには男からでもいいだろ。……彼女が頑張ってるんだからな」
「……八幡さん。ありがとうございます!大事にしますね!」
「できれば食べてくれ……」
真っ直ぐな笑顔に思わず抱き寄せたくなるが、場所が場所だけに思いとどまる。
「じゃ、俺はそろそろ……」
「あ……もう帰っちゃうんですか?」
その子犬のような上目遣いは反則じゃないですかね。
あんまり長くいると、色々と我慢できなくなりそうだ。そのぐらい花陽が心から欲しい。しかし、それが今の花陽にとっていい事か悪い事かはわからない。
そこでいきなり俺の思考を遮断するように、今度はおっとりした声が乾いた空気を揺らした。
「二人共-!!ご飯できてるわよー!!」
いつの間にか、公園の入り口に立って笑顔で大きく手を振る花枝さんを見て、つい感謝してしまった。
読んでくれた方々、ありがとうございます!