捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
それでは今回もよろしくお願いします!
「全国大会……勝てるといいな」
「……はい」
帰り道、改めてラブライブの話をふってみる。
μ'sは関東大会優勝を果たした。
A-RISEに勝ったのだ。
優勝者が発表された瞬間、何故か総武高校のメンバーに背中をバシバシ叩かれた。かなり痛かったぜ。雪ノ下や葉山がはしゃぐ姿なんぞ滅多に見れないから、貴重な瞬間だったかもしれんが。
「八幡さん」
「?」
真面目な声音に、きゅっと気持ちが引き締まる。
「寄っていきませんか?」
花陽は公園を指さす。
それは、初めて二人が本当の気持ちをぶつけ合った公園だった。
はらはらと頼りなく雪が舞い降り消えていく中、無人の公園のベンチに二人で腰掛けた。
「30分な」
風邪をひかせるわけにもいかないし、女の子を預かっている責任もある。
「大丈夫です。すぐ終わりますよ」
その言葉と共に、強引にこちらを向かされ、熱い口づけが来た。
「……っ……」
「……んん……んあっ」
舌が熱く絡まり、渇いた音が響く。
あの日の再現のつもりかと思ったが、こうして絡まり始めると、むしろ塗り替えようとしているように思えた。
やがて唇が離れ、つぅっと糸を引いた。
「八幡さん」
「何だ?」
「私…たまに不安になります」
「…………」
沈黙で続きを促す。花陽の表情は見ないでおいた。
「八幡さんと出会って、μ'sに入って、八幡さんと恋人になって、ラブライブ関東大会で皆と優勝して……」
「ああ……」
「何か…私ばっかり、いいのかなっておもっちゃいますね」
おそらく花陽は寂しげに笑っているんだろう。
「…………」
まあ、あれだ。
単純に今が幸せすぎるからだ。
幸せすぎて、それに慣れてしまって、幸せを幸せと思わなくなるんじゃないか、とか。
……いつか失くしてしまった時の事とか、うっかり考えてしまったんだ。
「花陽」
俺の呼びかけに花陽がこちらを向く。僅かに濡れた瞳は街灯に優しく輝いていた。自然と言葉が出てくる。
「結婚しよう」
「…………」
混じり気のない本音。花陽はぽかんとしている。
静寂が耳に疼くぐらいに広がる。風の音も届かなくなった。
ふと隣を見ると、花陽が過去最大に真っ赤になっている。
「……………………ぴゃあああああっ!!!」
「うおっ!ど、どうした!?」
深夜の公園を揺るがすような大音量に、体が跳ね上がる。
花陽はまだあたふたしていた。
「い、い、今なんて言いました!?」
「結婚しよう」
「け、け、結婚!?」
「す、すまん。いきなり」
辺りをキョロキョロ見渡しながら、やがて落ち着きを取り戻した花陽は、上目遣いにこちらを見てきた。
「え、えーと………」
「いや、あれだ。俺は……花陽といるのが幸せなんだよ」
「…………」
「だから、花陽の幸せは俺が何とかしてやるから……心配すんな」
「…………八幡さん」
「返事は、その……もうちょい先でいい」
きっと俺の顔も過去最大級に真っ赤になっているだろうと思っていると、大丈夫と囁くように、そっと手を握られる。
「……ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
「……こちらこそ」
「か、帰りましょうか!」
「ああ……」
あと約1時間で今年が終わりを告げてしまう。何かやり残したことはないだろうかと考えながら、夜に溶けていく白い吐息を見つめた。
冬の夜空の下、繋がれた手の確かな温もりが、ひんやりとお互いの存在を主張していた。
読んでくれた方々、ありがとうございます!