捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

103 / 129
  感想・評価・お気に入り登録ありがとうございます!

  それでは今回もよろしくお願いします!


魔法のコトバ

「八幡さん!」

 花陽が小走りで駆けてくる。その白い息がどこかへ溶けていくのを眺めながら、こちらも花陽の方へ歩き出す。

「お待たせしました」

「いーや、今来たところだ」

 言えた!本物の彼女に対して言いたいセリフ・ナンバーワン!そろそろ『ここは俺に任せて先に行け!』も言える日が来そうだ。いや、危ないシチュエーションだから遠慮しておこう。

「どうかしました?」

「いや、何でも」

 花陽の小さな頭を撫でる。柔らかな髪の感触と、気持ち良さそうに目を細めるその姿に、抱きしめそうになるが、ここはぐっと堪える。また誰かに見つかって冷やかされるのもあれだ。

 手を離すと、花陽はいきなり駆けだした。

「八幡さん、こっちへ来てください!」

 花陽が建物の陰へ手招きをしている。何だろう、まさか彼女からカツアゲにあうのだろうか。

「どした?……っ」

 柔らかな温もり。

 数秒で離れたが、甘く深く刻まれ、前回のものをあっさりと上書きしていく。

「えへへ……行きましょう!」

「あ、ああ」

 彼氏としての小さなプライドから、せめて手ぐらいは自分から繋いだ。

 

 大晦日。

 言わずもがな、一年の終わりだ。

 街はクリスマスとはまた違った静かな賑わいを見せている。行き交う人の穏やかな微笑みは、今年も無事に一年を終えられた安堵からくる者だろうか。

 ラブライブ関東大会も終わり、ようやく時間ができたので、俺と花陽は前から約束していたデスティニーランドに来ていた。

 正直に言えば、遊園地に行くのが久々すぎてかなり緊張してます。はい。ましてや恋人と初めて行く遊園地……俺は柄にもなく、深呼吸をして、気合いを入れた。

 

「わぁ~」

「すげぇな」

 年末のイベントの為か、園内は人がごった返していて、隣りにいるのが花陽じゃなかったら、回れ右をしてお家に帰るところだ。ハチマン、お家帰る!なんつって。

「は、八幡さん!あれ、乗りましょう!」

 あれは……パンさんの……。

 パンさん好きだったのか。意外と雪ノ下と相性がいいのかもしれない。

 

 案の定、乗り物が動き出してからも、花陽のテンションはMAXだった。

「は、八幡さん!パンさんですよ!」

「お、おう……」

 こちらの腕にしっかりしがみつきながら、普段見れないはしゃぎぶりを見せる。

 そしてそれに伴い、さっきから肘の辺りに豊かな膨らみが押しつけられる。これは恋人冥利に尽きる。も、もう少しくらい、近くに来ても……いいんですよ?

「八幡さん……目がいやらしいです」

 ジト目を向けられる。やばい、調子に乗りすぎたか。気を取り直してアトラクションに集中しよう。

「お、パンさん」

「今、いやらしい事を考えてましたね?」

「なあ、あれパンさんじゃね?」

「パンさんのアトラクションだから当たり前です!話を逸らそうとしてますね!」

「い、いや、いやらしい事など考えた事もない」

「この前、俺が育てるって言ってましたね。何を育てるんですか?」

「もちろん、愛」

「いい話になってしまいました!」

「だろ?」

「……どっちも私のだけにしてくださいね」

「……あ、ああ」

「「…………」」

 花陽は顔を真っ赤にして、アトラクション内を飛び交うパンさんに視線を戻す。

 恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。

 ……可愛すぎるだろうが。

 きっとまだ今年は終わりそうもない。そんな願いにも似た事をふと考えてしまった。

  




  読んでくれた方々、ありがとうございます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。