捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
それでは今回もよろしくお願いします!
「八幡さん!」
花陽が小走りで駆けてくる。その白い息がどこかへ溶けていくのを眺めながら、こちらも花陽の方へ歩き出す。
「お待たせしました」
「いーや、今来たところだ」
言えた!本物の彼女に対して言いたいセリフ・ナンバーワン!そろそろ『ここは俺に任せて先に行け!』も言える日が来そうだ。いや、危ないシチュエーションだから遠慮しておこう。
「どうかしました?」
「いや、何でも」
花陽の小さな頭を撫でる。柔らかな髪の感触と、気持ち良さそうに目を細めるその姿に、抱きしめそうになるが、ここはぐっと堪える。また誰かに見つかって冷やかされるのもあれだ。
手を離すと、花陽はいきなり駆けだした。
「八幡さん、こっちへ来てください!」
花陽が建物の陰へ手招きをしている。何だろう、まさか彼女からカツアゲにあうのだろうか。
「どした?……っ」
柔らかな温もり。
数秒で離れたが、甘く深く刻まれ、前回のものをあっさりと上書きしていく。
「えへへ……行きましょう!」
「あ、ああ」
彼氏としての小さなプライドから、せめて手ぐらいは自分から繋いだ。
大晦日。
言わずもがな、一年の終わりだ。
街はクリスマスとはまた違った静かな賑わいを見せている。行き交う人の穏やかな微笑みは、今年も無事に一年を終えられた安堵からくる者だろうか。
ラブライブ関東大会も終わり、ようやく時間ができたので、俺と花陽は前から約束していたデスティニーランドに来ていた。
正直に言えば、遊園地に行くのが久々すぎてかなり緊張してます。はい。ましてや恋人と初めて行く遊園地……俺は柄にもなく、深呼吸をして、気合いを入れた。
「わぁ~」
「すげぇな」
年末のイベントの為か、園内は人がごった返していて、隣りにいるのが花陽じゃなかったら、回れ右をしてお家に帰るところだ。ハチマン、お家帰る!なんつって。
「は、八幡さん!あれ、乗りましょう!」
あれは……パンさんの……。
パンさん好きだったのか。意外と雪ノ下と相性がいいのかもしれない。
案の定、乗り物が動き出してからも、花陽のテンションはMAXだった。
「は、八幡さん!パンさんですよ!」
「お、おう……」
こちらの腕にしっかりしがみつきながら、普段見れないはしゃぎぶりを見せる。
そしてそれに伴い、さっきから肘の辺りに豊かな膨らみが押しつけられる。これは恋人冥利に尽きる。も、もう少しくらい、近くに来ても……いいんですよ?
「八幡さん……目がいやらしいです」
ジト目を向けられる。やばい、調子に乗りすぎたか。気を取り直してアトラクションに集中しよう。
「お、パンさん」
「今、いやらしい事を考えてましたね?」
「なあ、あれパンさんじゃね?」
「パンさんのアトラクションだから当たり前です!話を逸らそうとしてますね!」
「い、いや、いやらしい事など考えた事もない」
「この前、俺が育てるって言ってましたね。何を育てるんですか?」
「もちろん、愛」
「いい話になってしまいました!」
「だろ?」
「……どっちも私のだけにしてくださいね」
「……あ、ああ」
「「…………」」
花陽は顔を真っ赤にして、アトラクション内を飛び交うパンさんに視線を戻す。
恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。
……可愛すぎるだろうが。
きっとまだ今年は終わりそうもない。そんな願いにも似た事をふと考えてしまった。
読んでくれた方々、ありがとうございます!