捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
それでは今回もよろしくお願いします!
短いリハーサルを終え、来場者を誘導し、無事に開演する事ができた。あとは、警備の担当者に任せて、ライブを見守るだけだ。片づけまではゆっくりできる。
手首に巻かれた黒いリストバンドを見ながら、心の中で、なるたけ大きな応援を繰り返す。それしかできない。しかし、特にもどかしいとは思わない。μ'sの……花陽の頑張りも、スクールアイドルへの誠実さも俺は知ってる。そして、俺が知ってる以上のものを花陽は持っているだろう。
だから…………信じる。
「かよちん!」
凛ちゃんが声をかけてきた。その表情はいつもの数倍明るくて、頬が緩んでしまう。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫!」
八幡さんから修学旅行のお土産としてもらった一位守に願掛けもしたし、大丈夫。
今は財布の中に入れてあるお守りにもう一度心で願掛けして、深呼吸をする。今までにない大舞台なのに、自分でも不思議なくらい落ち着いている。
会場のどこかに、メンバーとは違った意味で特別に大事な人がいるから、かな。
「花陽ちゃんは愛の力があるからね」
「ぴゃうっ!」
何の前触れもなく、背後から希ちゃんに胸を思いきり掴まれる。
「う~ん、これは中々やね。さすが比企谷君が……」
「そ、そんな事されてないよ!」
「アンタ達、ほ、ほ、本番前にな、ななな何やってんのよ!ちょっとは落ち着きなさいよよ!」
「にこちゃん、落ち着いて……」
にこちゃんは小刻みに震え、真姫ちゃんはうろうろしながら髪を指先でくるくると弄っていた。
「二人共、大丈夫」
そっと手を握る。こうしているだけで、温もりを分け合える気がしたから。
「……わかってるわよ」
「……ありがと」
自然と寄り添い合う。本当に皆と出会えてよかった。心からそう思う。
「花陽……」
「花陽ちゃんも変わったんだね」
「いえ、そんな……」
「花陽ちゃんは本当に凄いよ!」
真っ直ぐな言葉に頬が熱くなる。
「じゃあ、花陽に負けないように、皆の凄いところをひ……観客の皆さんに見せつけてあげましょうか」
「よーし、円陣組もう!」
穂乃果ちゃんの言葉で、しっかりとした絆の輪ができる。世界に一つだけの絆の輪。
「皆、全力を出し切ろう!」
「あったりまえでしょ!」
「皆に一番可愛い私達を観てもらうにゃ~!」
「1!」
「2!」
「3!」
「4!」
「5!」
「6!」
「7!」
「8!」
「9!」
「μ's!ミュージックスタート!!!」
「それでは次のグループです!μ's!」
アナウンスの終了と同時に照明が落ち、数秒後にステージだけが鮮やかに照らされる。
会場内を埋め尽くす観客の熱気ある歓声がステージに向け放たれていき、それに応えるように、曲が始まりを告げた。
示し合わせたように観客席が青白いペンライトに照らされ、それはまるで、雪が敷き詰められたようだった。
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