捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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ナンプラー日和

 ラブライブ関東大会当日。

「うわ~!」

 由比ヶ浜が驚きの声を上げる。

 恐らく、その場にいたほとんどの人間が同じ気持ちだっただろう。

 幕張メッセ周辺は気持ちいいくらい真っ白に染め上げられていた。早朝のまだ視界があまりよくない状態でも、それだけははっきりわかる。

 正直しんどそうだが、やらなくてはいけない事に変わりはない。ならさっさと終わらせてしまおう。

「……やるか」

 スコップを使い、指示通りのやり方で通り道を開ける。次第に皆が始めだした。

 こういう単純作業は嫌いではない。むしろ好きまである。体が作業に馴染みだしたら、あとは自分のリズムに従い、ザクザクと音を刻みながら作業に没頭していった。

 

 朝陽が完全に顔を出す頃に、近くの宿泊施設に泊まっていたスクールアイドルがやってきた。

 雪かきをしているスタッフに「お疲れ様です」と挨拶しながら、いそいそと会場入りしている。

「久しぶり」

 顔を上げると、綺羅ツバサがそこにいた。

「……うす」

「今日はよろしくね。比企谷君」

 俺の肩をぽんと叩き、手をひらひら振って中へ入っていく。

 その背中は自信に溢れていて、小柄な身体からは想像もつかないぐらいの威圧感を放っていた。それに続き、他のA-RISEのメンバーが会場入りした。

「おっはよーございまーす!」

 そして、間髪を入れずにμ'sの高坂穂乃果の馬鹿でかい声が響く。それに続きメンバー全員の声が聞こえてくる。

 花陽と目が合う。

 言葉は交わさずに、微笑みだけ交わした。

 その瞬間、3月に初めて出会った時の事がフラッシュバックした。

 確かな時の流れを季節の変化で感じながら、あの時の自分を思う。

 あの日に感謝せずにはいられなかった。

 

「ふう……」

 雪かきを終え、休憩に入る。

「比企谷」

 葉山がMAXコーヒーを投げて寄越してきた。

「お、悪いな」

 慌ててそれをキャッチすると、心地よい温もりが冷えきった手を癒していく。さっさと身体の中も温めるべく、プルタブを引き、口をつけた。

「まさか、比企谷がスクールアイドルと付き合ってるなんてな」

 少しからかうようなニュアンスもあるが、気にはしない。

 ……そういや、昨日の事は誰も何も言わないけど、やはり夢だったのだろうか?まさかの夢オチ?それ何てワンス・アポン・ア・タイム・イン・チバ?MAXコーヒーが見せた幻なのだろうか?

「たまたまだよ。それに最初からスクールアイドルだったわけじゃねーし」

「……あの子の為に変わったのか?」

「聞かなくてもわかる事をいちいち聞くな」

「ははっ、そうだな」

 飲み終えた缶を捨てた葉山はすれ違いざまに、いつもの爽やかな笑顔を見せた。

「俺も……このまま君に負けっぱなしにならないように、頑張るよ」

「……何の話だよ」

 俺も飲み終えた缶を捨て、二人で仕事に戻る。

 ……後ろの方で、どっかの誰かが「奇跡のはやはちが~!」と叫んでいた。 




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