捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
よろしくお願いします。
青春のバカヤロウ。
ここ最近の口癖を心で呟きながら、秋葉原の街を妹と歩く。可愛い妹の為とはいえ、貴重な春休みの惰眠時間を削って、何故にマイホームタウン千葉から秋葉原まで来なけりゃならんのか。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「どした?」
我が妹、小町が耳元で囁く。
「そんな腐った眼でじぃっと見てたら、メイドさんが恐がっちゃうよ」
はっと我に返る。考え事をしていたせいで、気がつかなかったが、さっきから俺の視線は、知らぬ内に数メートル先でチラシを配っているメイドさんに注がれていた。一方、メイドさんの方はこちらを警戒しながら、健気にチラシを配り続けている。
いや、やましい気持ちなんかないよ。本当だよ。ハチマン、ウソ、ツカナイ。
「お兄ちゃん、気をつけてよ。小町が一緒にいるときにお巡りさんに職務質問なんて、恥ずかしいからやめてね」
「俺が1人の時はいいのかよ……」
妹よ。お兄ちゃんは悲しい。
そもそも東京までわざわざ出てきたのは、小町が浅草寺にお参りして、そのついでにスカイツリーに行きたいと言ったからだ。後者の方がメインだろ、と思ったら、実際そうだった。そして、両親は小町に甘々なので、小町がお願いしたら、俺の分の交通費もあっさり出してくれた。一通り見て回った後、思ったより両親からもらったお金が余ったので、メイドさんが見たい、という小町のリクエストに応え、ここ秋葉原までやってきた。小町が見たいと言い出したんだ。もう一度言うが、ハチマン、ウソ、ツカナイ。
ひとまず、メイドさんから申し訳程度にチラシを受け取り、小町と並んで歩きだす。高校生活1年目の春休みに出かける相手が妹しかいないとは。俺のぼっちぶりも様になってきたじゃないか。もはや悟りの境地に達している。
「ゴミぃちゃん、またバカな事考えてる」
「バカ言え。俺はぼっちの素晴らしさを再確認しただけだ」
「はいはい。そんなお兄ちゃんでも小町は見捨てないであげる。あ、今の小町的にポイント高い♪」
だから、そのポイントはどこに貯まっていくんだよ……。てか、さり気なくゴミぃちゃん言うな。
「あ!あれ何だろ!?」
「おい、いきなり走るな。転ぶぞ」
何か面白いものを見つけたらしい小町の後を追いかける。
「ほえ~」
UTX学園という綺麗な学校の校舎。その威圧感すら感じるくらいに立派な壁に取り付けられた馬鹿でかいスクリーンに俺と小町は、目が釘付けになっていた。
「スクールアイドルか~。お兄ちゃん、知ってた?」
「いや、少なくとも総武高校にはない」
スクールアイドル。
馴染みのない言葉だが、要はアイドル部って事らしい。そして今スクリーンに映っている『A-RISE』という3人組グループはUTX学園どころか、全国でもそこそこの知名度を得ている、とパンフレットに書いてある。ちなみにパンフレットは小町がどこかからもらってきた。
「へぇ~、3人共可愛いな~。お兄ちゃん、小町のアイドル姿見たい?」
「見たい見たいすごい見たい」
「うわっ、何その棒読み」
「それよか、そろそろ行くぞ」
「はいは~い」
「いや、だからいきなり走るなって」
声をかけた矢先、小町はスクリーンを見ていた女の子とぶつかった。
だから言ったのに……。
「何やってんだよ小町。あの……すいません大丈夫ですか?」
謝罪しながら声をかける。
「あ、はい。こちらこそ、ボーッとしてて」
小鳥の囀るような柔らかな声で、一語一語途切れがちに言いながら、女の子が顔をあげる。
「………」
言葉が出てこない。
その女の子は、はっきり言って美少女だった。
眼鏡越しにこちらを見るくりくりした眼、柔らかそうな白い頬、形のいい鼻、ほんのり紅い唇。いや、見すぎだろ。
俺はこの時、もちろん知る由もなかった。
この少女がスクールアイドルグループの一員として頂点に立つことも。
この出会いがもたらす新しい日常も。
読んでくれた方々、ありがとうございます!