OVER LORD Gun Fist & Gun Head   作:丸藤ケモニング

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今回は、人によっては不快になるかも?

後、ご都合ストームが吹き荒れております、ご注意を。


15,ナールの冒険②フォーサイトに嘘をつく

 帝都アーウィンタールにある皇帝執務室。そこに“鮮血帝”ジルクニフ·ルーン·ファーロード·エル=ニクスと、帝国首席宮廷魔法使い兼帝国魔法省最高責任者であり、皇帝の懐刀フールーダ·パラダイン、そして、帝国四騎士の一人“雷光”バジウッド·ペシュメルの姿もあった。

 この三人が集まっている理由は、四騎士のバジウッドが面白いものを見た、と言ったからに他ならない。

 

「それで、バジウッド。いったい何を見たと言うんだ?」

「ええ、それなんですが……今日、大闘技場に視察へ行ってたんですけどね」

「待て、視察じゃないだろそれ。遊びに行ってたんだな?正直に答えろ」

「視察に行ってたんです。ほら、武王くらい強い奴が闘技場に現れるかもしれないじゃないですか?」

「そんな奴がそうそうゴロゴロいてたまるか……いや、待て、まさか……?」

 

 皇帝のその言葉に、バジウッドがニヤリと笑って見せる。

 

「ええ。ああ、いや、武王ほど強いかどうかは分かりませんけどね?少なくとも俺よりは強いかもしれない、そう思える選手がいたんですよ」

「お前に匹敵するだけの選手……アダマンタイト級か?そいつの名前は?」

「確か、登録名はシルキー。女でしたよ」

「……聞き覚えのない名前だな?」

「しかし、桁違いに強いのは間違いないですね。一応マークしていたエルヤーを相手に余裕の勝利でしたし」

 

 ついでに言うと美人でした。その台詞は一応飲み込んで、バジウッドはあの戦い方を頭の中でもう一度思い描き、そして伝え忘れていたことを思い出した。

 

「そうそう、その件のシルキー嬢ですが、魔法も使いましたよ」

「ほぉ?しかし、そう珍しいことではないだろう?」

「そりゃぁ、信仰系魔法ならそうでしょうがね、使ったのは魔力系魔法でしたよ。まぁ、第一位階でしたけど」

「何を使ったのだバジウッド殿?第一位階魔法も色々あるからの。それによっては実力も分かろうと言うもの」

「あー、〈 魔法の矢/マジックアロー 〉でしたね」

「何発くらい出たかな?いや、戦士兼業なら二個が精々と言うところかな?」

「いやいや、フールーダ殿。五か六くらいの光球が出てましたよ」

 

 バジウッドは何の気なしにそう言ったが、フールーダ、そしてジルクニフは、その言葉に顔を見合わせていた。

 

「爺、六つもの〈 魔法の矢/マジックアロー 〉を放てるお前の弟子はどれくらいいる?」

「残念ながら、私の弟子の中の最高位の者でも、精々四つ。つまり、そのシルキーなる人物は、私と同等程度の実力者、そう考えて問題はないかと」

 

 二人の会話に、さすがの帝国四騎士とは言え、驚愕せざるを得なかった。帝国最強の魔法詠唱者、フールーダ·パラダインと互角の魔法行使能力に、帝国四騎士に匹敵するかもしくは凌駕するだけの近接戦闘能力を持つ一個人等、英雄か、そうでなければ悪夢以外の何者でもないではないか。

 

「早急に手を打つ必要がありそうだな、爺」

「左様ですな。とにかく、まずはその者の素性の調査と参りましょう」

「そうだな。四騎士も、何かあったら動いてもらうことになると思う。心構えだけは、しておいてくれ」

 

 ジルクニフの言葉に、バジウッドは了承の返事をした。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「何でゲロを吐かれたんでしょうか?」

「やっぱり体調が悪かったのかもしれませんね」

 

挨拶途中でおもむろにゲ……嘔吐され、やるせない気持ちになりながら、社会人らしく相手を気遣って近づけば更にゲ……嘔吐され、最終的に気絶までされて、少々どころではない程傷ついて、ロバーデイクにそう訪ねたならばそう返ってきた。

 

『ごしゅじんさま……ひとつよろしいですか?』

 

 頭の中に何かが繋がる感触と柔らかい声が、そう聞いてきた。

 

『どうしたのシルキー』

『しょうしょう、かんがえましたが、おそらく、かのじょは、タレントなるのうりょくを、もっているのではないか、そのようにすいそくされます』

 

 タレントってなんだっけ?いや、聞いた覚えはあるんだけど、ティナさんから。しかし、身体的接触が多すぎて話の内容が頭に入ってこなかったんだよね。

 

『シルキー、タレントとは?』

『おこたえいたします。タレントとは、そのじんぶつが、せんてんてきにもっている、とくしゅな、のうりょくの、そうしょう、です。あすのてんきを、70ぱーせんと、あてるといったものから、まほうのしゅうとくきかんをみじかくする、といった、ものまで、たきにわたるそうです』

『へぇ、よく覚えてるね、シルキー。じゃぁ、その予測されるタレントの能力はなんだろう?』

 

 シルキーからの返事に少し間があった後、

 

『おそらく、みずからよりも、まりょくがたかい、そんざいがちかづくと、おうとする。そんなタレントでは、ないかと』

 

 うへぇ。思わず口に出してしまい、ロバーデイクから妙な目で見られた。慌てて手を振ってなんでもないアピールをした後、この世界の位階魔法の使い手の事を思い出してみる。なんでも、第三位階程度使えれば達人らしく、第四位階、第五位階使い手は希少な存在だと言うことだ。ちなみに、教えてくれたのはティナではあったが、会話中のセクハラが凄すぎて覚えてなかった為、恥を忍んでシャイアに〈 伝言/メッセージ 〉で聞いたら、快く、有料で教えてくれた。有料な所が、さすが商人と言わざるを得ない。

 

「ロバーデイクさん、アルシェさんは、何位階までの魔法を使えるんでしょうかね?」

「おや?アルシェの事が気になりますか?」

「ええ、もちろん。あんなにお若いのにワーカーなんて仕事をしてるんですから。それに、もしかしたら僕がお荷物になるかもしれないじゃないですか?」

 

 ナールの言葉に軽く笑った後、ロバーデイクは顎髭を軽くこすって首を捻り、そして重々しく口を開く。

 

「あまり身内の事は話さないのがルールですが、もしかしたらあなた方は私達の仲間になるかもしれませんし、わりとあの子は名が知られてますからいずれバレるでしょうから、いいでしょう。第三位階の魔法までをつかいこなせますよ」

「へぇ、あの若さでですか?凄いですね」

 

 なるほどぉ、そうなればシルキーの推測も、あながち外れていると言うことはなさそうだなぁ。そう思いつつ、ナールは“無限の背負い袋”から、ステータス隠蔽の指輪を取りだし、左の中指に装着した。おそらく、これで吐かれることはないと思うのだが、どうやって今度は説明しようかと頭を悩ませるはめになった。

 

 小一時間ほどして、二階からアルシェとイミーナが降りてきた。が、アルシェはすごく警戒したようすだ。イミーナに関しても、なんとも言えない雰囲気を醸し出しながら、空いているヘッケランの隣の席に腰を下ろし、アルシェは怪しげなものでも見るかのようにナールを睨むように見ており、少々どころではなく居心地が悪かった。もう、出来ることなら別のチームに、『入れてくれないか』とたのみにいきたい気分だが、この小一時間の間に他のチームは出払ってしまって、ここに残っているのはナールとシルキー、そしてフォーサイトの面々のみである。

 

「え、ええと……ナール·シュバルベリーと申します。ワーカーとしてやって行きたいので、どうかチームに入れていただけないでしょうか?」

 

 そう言って頭を下げる。その後ろでシルキーも静かに頭を下げた。

 これに慌てたのがヘッケランとロバーデイクだった。

 

「おいおい、ナール君、頭を上げてくれよ!」

「そうですよ!頭を下げるようなことではありませんから、どうか、頭を上げてください」

「ですが、僕が持つタレントのせいでアルシェさんにゲ…フンゲフン。ええー、そう、嘔吐させてしまったのですから、謝るのは当然です」

「どういう事かしら、説明してくれる」

 

 イミーナが腕を組んで、どこか胡散臭そうにしながら問い詰めてくる。その辺は予めシルキーと打ち合わせをしておいた部分だ。ゴクリと喉を鳴らし、唇を湿らせて、まずは確認を取る。

 

「説明の前に、アルシェさん。あなたのタレントは、視認した相手の魔力量を感知する、と、言うもので間違いはないですか?」

 

 突然話を降られたアルシェは、戸惑いながら首を一回縦に振って、肯定の意を示した。

 

「なるほど。ならば、先程嘔吐されたのも、僕の魔力を感知し、その強大さにショックを受けて、と言う認識で、問題はありませんか?」

「……アルシェ、どうなんだ?」

 

 ヘッケランがアルシェにそう答えを促すように聞くと、アルシェは些か迷った後、首を一回縦に振り、今度は逆に疑問を相手に返した。

 

「概ね、そう。けど、今の貴方からは先程のような魔力は感じない。何をしたの?」

「ああ、それに関しては、これですね」

 

 そう言って左手を軽く掲げて、その指に嵌まっている指輪の一つを指差す。全員の視線が指輪に集まったところで、その指輪の性能を軽く解説する。

 

「これは、生命力や魔力と言ったものを、外部からの手段による視認を阻害する効果のある指輪です。ですが、こちらに来てからそういった魔法や能力を行使する輩がいませんでしたので、外しっぱなしにしていたんですよ」

「……いやいや、簡単に説明してますけど、それってとんでもない魔法の道具じゃないんですか?」

「んー、認識の差ではないですか?ロバーデイクさん。例えば、ロバーデイクさんがそういう魔法や能力を使用できるなら、これで隠蔽しておけば実力を隠すことができますが、実際はそういう部分で判断する能力がない。ならば、別にこれをつけてようとつけてなかろうと、たいして変わらないと思いますけど」

 

 まぁ、この指輪がどこまで隠蔽できるかは分からないから、完全に口から出任せだが。

 

「まぁ、それはそれで構わない。私が知りたいのは、あれだけの魔力量、もはや人間のものじゃない。どんなタレントがあればあんな魔力量を持つことが出来るのか、と言うこと」

「ええ、お話ししようと思いますが、その前に……シルキー、お願い」

 

 主の声に無言で答え、シルキーが片手を振ると、やや遅れてフォーサイトの面子とナール、シルキーが座るテーブルを中心として、薄い幕のようなものが展開される。一斉に身構えるフォーサイトを手で制止ながら、ナールは言葉を続ける。

 

「落ち着いてください。シルキーの持っているマジックアイテムで、我々を周囲から知覚しづらいようにしただけです。この中なら、よほど能力の優れたものでもない限り、まずこちらに興味を示しません。逆に言えば、これはここまでの事をしないとお話しできないことだと思って聞いていただきたいです」

「ちょっと待った!いいのかよ、俺らにそんなことを話してよ!?」

「この国でワーカーとして働く上で、どこかのチームに入れてもらうのは、最も手っ取り早く仕事につくことが出来ると言う事です。そして、チームを組むのならそこに信頼は必須でしょう?僕は、まぁ、僕だけだと思うんですが、仲間にはあまり隠し事はしたくありません。信頼を得て、仲間にしてもらうにあたり、僕の秘密を共有させてもらいたい、そう思います」

 

 そこで一旦言葉を区切り、フォーサイトの面々の顔をぐるりと見回す。

 

「無論ですが、聞きたくない、聞くまでもなく僕とシルキーを仲間に入れる気の無い方は、ここから出ていってもらっても構いません……その場合、少し、残念ですけどね……」

 

 最後にポツリと漏らした言葉に、男性二人のみならず、イミーナまでも、少し同情的な表情を作ったのを、シルキーは見逃さなかった。問題はアルシェである、と、シルキーは当たりをつける。今のところ、その表情に変化はない。むしろ、自分の主の言葉の真偽を見透かそうとしているようにも見えた。場合によっては、強行手段を考え始めるシルキー。

 一方のアルシェは、なんだか話が大きくなりすぎて、いったいどのように振る舞えばいいのか分からなくなりつつあった。ただ、タレントがどういったものなのかと言うのを知りたかっただけだと言うのに、何で人の秘密の話に踏み入ることになってしまったのか、後悔で一杯であった。

 そんな、いざというときに備えるシルキーとアルシェの前で、ナールは心臓が爆発しそうなほど緊張しながら口を開く。大丈夫だ、シルキーと事前に色々設定を、無理じゃなさそうな感じで練っておいたから。

 

「僕のタレントは、簡単に言ってしまえば、自らの能力以上の魔法を使用可能になると言うものです。具体的に言うならば、おそらく第十位階の魔法の行使すら可能でしょう」

 

 その場にいた全員が息をのみ、驚愕の表情でナールを見る。数瞬の間をとって言葉を続ける。

 

「無論、その全てを確認したわけではありません。なにしろ、自分の本来持つ能力以上に高い位階の魔法を使用すると、とある方曰くに、寿命を削るそうですし、実際、かつて第八位階を使用したおりには、血を吐いてのたうち回りました」

「待って。どうやってその位階の魔法を知り得たの?通常、第六位階以上の魔法なんてほとんど知られていないし、第八から第十位階なんて伝説の彼方、実際存在するかも分からないものをどうやって?」

「うう~ん、なんと言うか、すごく説明しづらいんですけど……こう、なにか大きな物からそれが降ってくるようなイメージ、でしょうか?」

 

 ナールの、頭の上で指をくるくると回しながらよく分からない概念的な説明を聞いたロバーデイクとアルシェが、なるほどと頷いた。

 ちなみにだが、ナールは別にそんなものを感じたことがない。これは、シルキーが初めて魔法を使ったときに感じた感覚を、もっとふんわりした感じでナールが多少のアレンジをして説明したものだ。なんとか魔法を使う人間には通じたようで、ホッとして胸を撫で下ろす。

 

「僕のタレントとしてはこんなところですね。なにか質問はありますか?」

「じゃぁ、私からいいかしら?」

 

 イミーナが手をあげた。内容を促すように頷いたのを確認して、イミーナは咳払いをした後、

 

「その力を使って、帝国に仕えようとか思わなかったわけ?少なくとも、厚待遇で迎えられると思うけど?」

「ええ、普通そう考えるんでしょうけど、僕は、僕のために力を使いたいですし、それに、厚待遇な実験動物と言う可能性もあるでしょう?それはごめん被りたいです。それに……」

 

 そこで一旦言葉を区切り、ナールはどこか中空を見つめ、軽く笑って言葉を続ける。

 

「僕には、長い付き合いの相棒がいます。今でこそ離ればなれになってますけどね。彼が、必ず言うんですよ。力は、組織のために使うものじゃなくて、自らと仲間のために使うものだ、ってね?」

 

 どこか楽しそうにそう言って、顔を引き締め直すとナールは、フォーサイトの面々の顔を見回して頭を下げた。

 

「僕の力、あなた達のために使わせていただけませんか?どうか、お願いします」

 

 誰かが頷いた。いや、誰もが頷いて、ナールの肩に手を置いた。

 

 

 こうしてナールはフォーサイトの五人目のメンバーになった。

 少々、嘘をついているので心苦しいが、仕事をこなすためには仕方がないと割りきることにする。

 それに。

 

 その日の晩、誰もが寝静まった頃、ナールは〈 伝言/メッセージ 〉を相棒に繋げて、その日あったこととこれからの予定を伝えた。返ってきた答えは、いつものようにぶっきらぼうだったが、なんだかこれから頑張れそうな気がした。

 

 

 


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