OVER LORD Gun Fist & Gun Head   作:丸藤ケモニング

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それぞれが、暴れます。


10,銃頭と漆黒の戦士、出陣/中編

 クレマンティーヌに案内をさせ、現場へ到着した瞬間、十三は先頭を走るクレマンティーヌを追い抜き、全速力で今現在、何者かに殺されそうになっている男の元へと一直線に駆け抜ける。その男が吹き飛ばされ壁に叩きつけられるのとほぼ同時、十三は自分の間合いへと踏み込む。腰だめに拳を構えると同時に手の甲のシリンダーが回転、それと同時に撃鉄が押し上がり、魔導弾が強制喚起される。

 

「ヒュンケファウスト……!!」

 

 それは、ユグドラシル時代に彼が考案したコンボ名である。ネタビルドの側面がある十三にとって必須の攻撃手段であり、最大の特徴は、手の甲のシリンダー内の魔導弾が喚起されることにより属性攻撃or物理攻撃力増強の効果が得られることであった。そして、今回選択するのは純粋な攻撃力増強である。

 腰だめに構えた拳を、迷いなく、真っ直ぐに突き出す。空手で言うところに正拳突きである。

 横合いからの攻撃に、相手は気づきもしていないようだが、関係ない。まっすぐ突き進む拳は音を置き去りにして、文字通りの意味でそいつの横っ腹を撃ち抜いた。即座にシリンダー内で魔導弾が炸裂、発生した衝撃波が拳の周囲の物を粉微塵にしながら吹き荒れた。

 

「……いや、だから何でこんな威力あんだよ……」

 

 正拳突きを放った体勢のまま、十三は思わずその威力に突っ込みをいれてしまった。直撃を受けた少女型の正体不明は、下半身だけを残して上半身は綺麗さっぱり跡形もなく粉微塵になっていた。まるで爆弾が爆発したような有り様ではあるが、拳によってなされたことである。

 ちなみにではあるが、大概な轟音が鳴り響いたお陰で、襲われている最中の衛兵はおろか、もう一体いた正体不明までもが此方を見て、衛兵に関して言えば絶望の上に絶望を重ねた表情をしていた。まぁ、こんな頭の奴が来れば当然かもしれないが。正体不明に関しては、よく分からない。表情が変わらないのだから当然と言えば当然であるが。

 

「おいおい、こっちを見てて良いのかよ」

 

 嘲るようにそういった次の瞬間、男性型の正体不明の体が、開いた大剣によって吹き飛ばされ、百舌鳥の早贄のように壁に縫い止められる。間髪入れること無く走り込んできた漆黒の疾風が、突き刺さった大剣をつかむと同時に壁ごと横薙ぎ、右腕に持っていた大剣を縦に振り下ろし、正体不明を十文字に切り捨てる。

 ようやく追い付いたクレマンティーヌは、二人のあまりの攻撃に目を丸くし、ナーベはモモンの攻撃に「お見事です」と言って手を叩いている。二人と同時にやって来た巨大なジャンガリアンハムスターことハムスケも、そのちょっと短い手を叩いて「すごいでござるよ殿ー」と拍手喝采。そんな面子の前で、十三はモモンに近づき、その頭頂部に手刀を軽く叩き込んだ。

 

「やりすぎだ、だぁほ」

「……ならば、言葉で言えばいいんじゃないか?」

 

 ハッ、と鼻で笑って、十三は煙草を吹かす。その様子を見ていて、ブチキレた人物がいる。ナーベである。

 

「きっさまぁー!アインズ様に何をしているか!万死に値するぞ!」

「……そうか、万死に値するのか、そいつは悪かった。なぁ、モモンさん」

「……ナーベ、お前なぁ」

 

 白けた声でそう言う十三と、頭を抱えているモモン、その前でなぜモモンに呆れられているのか分からないナーベ。その時、誰かが悲鳴をあげた。全員がそちらへと首を向けると、生き残った衛兵の一人が壁の方へ向き、そこから顔を覗かせている巨大な死人の集合体。それが二体いた。兵士にとっては、この世の終わりのような図であっただろうが、ここに揃っている面子にとっては有象無象の差でしかない。

 十三がその拳を握りこむよりも、ナーベが魔法の詠唱に入るよりも、クレマンティーヌが武器を引き抜くよりも早く、モモンがその手に持つ大剣を投擲する方が早かった。

 空気を切り裂いて飛んだ大剣は、集合する死体の巨人の片方の頭部に直撃、巨人の一撃のごとく、その巨躯を浮き上がらせ、動死体の群れの上へと叩きつけた。

 衛兵は、目の前で起きたことが理解できずに呆然としていたが、その前でもう一回大剣を投擲する構えに入ったモモンを、十三が片手で制していた。なぜそんな事をするのか理解できない衛兵は、抗議の声を上げようとしたが、疾風が彼の横を通りすぎてその声を止める。

 疾風は素早く壁を駆け上がると、高く跳躍、しなやかな腕を交差させ、後ろ腰に吊るしてある二本の柄を手に取り、そのまま引き抜き溜めを作らずに縦横に振り抜く。

 流れ出たのは複数の銀線、少なくとも衛兵にはそうとしか見えなかった。その銀線の流れは止まらず、集合する死体の巨人の全身を舐め回すように走り、勢い余った銀線が壁際にまで迫った動死体や動骸骨までを寸断する。

 彼女が着地すると同時、集合する死体の巨人もまた、全身を寸刻みにされて地面にばら蒔かれた。

 

「美味しいところに参上とは、機会を窺ってたか、シャイア」

「はんっ、あたしがそんなことをすると思ってる?今北産業よ」

 

 そう言いながらヒラリと壁から降り立ち、十三の前に立った後、その隣に立つモモンを見て、続いてナーベを涎でも垂らしそうな表情で見て、クレマンティーヌをSっ気の強い顔で全身を舐め回すように見て、ハムスケでホッコリした顔で見る。その後頭部に十三がチョップを叩き込んだ。

 その様子を見ていたモモンが、思わず口を開く。

 

「ええと、十三、彼女は……?」

「シャイア·ブラックソーン、元ギルド:ブラックファーマシーの元締め」

「十三、この人は?」

 

 シャイアの疑問にどう答えたものかと、煙を吐き出しながら考えていたが、背後で扉が重い軋みをあげたのを聞き、現実に戻ってくる。見れば、固く分厚い門が、悲鳴をあげながら変形しつつある。

 

「……十三、話は後だ。ナーベとハムスケはここに残ってアンデッドどもを蹴散らせ。私はここを切り抜けて、敵の首領を潰しに行く」

「承知いたしました、アイ…モモンさ……ん」

「承知したでござるよ殿!このハムスケに万事お任せあれ!」

「まぁ、んな訳で俺も行ってくる。シャイアはここで適当に頼まぁ」

「ああ、任せときな。で、そっちのカワイコちゃんは?」

「道案内。クレマンティーヌは、俺たちをあっちにまで案内したら、好きにしな」

「う~ん、まぁ、分かった」

 

 それぞれがそれぞれ伝達を終えると、そこからの行動は早かった。

 まず最初に動いたのはシャイアだ。インベントリに格納してある大振りな黒塗りカランビットナイフを引き抜くと、そのまま壁から外へダイブする。

 生き残った衛兵が慌てて壁の外へと顔を突きだした先で見たものは、とても信じられない光景だった。その動きが視認できないものの、薄緑の閃光が流れる度に、複数のゾンビが腐汁を吹き出し倒れていく。

 その衛兵の横から、絶世の美女、ナーベがハムスケの背に乗り壁の外へ飛び出す。空中にいる状態からナーベが〈 雷撃 〉を放ち複数のアンデッドを焼き払うと、ハムスケがその尻尾を打ち振るってアンデッド複数体を蹴散らした。

 最後にモモン、十三、クレマンティーヌが壁から飛び降り、アンデッドの群れの真ん中を、モモンが大剣を竜巻のごとく打ち振るい、十三の拳や蹴りが打ち砕きながら、共同墓地の奥へと姿を消していった。

 彼らの活躍を壁の上から見ていた衛兵たちは、安堵のため息をつき、壁にヘタリ込みながら顔を見合わせた。修羅場は終わっていない。しかし、ここにいる面々ならば問題ないだろう。そう、彼らは確信していた。

 

 

 エ·ランテルの墓地の地下神殿の闇の中に、その男はいた。目は落ち窪み、生きているのが不思議なほど顔色の悪い男ではあったが、その表情は現在愉悦に歪んでいた。

 彼の望みが叶うまで、あと少しだった。これが喜ばずにいられるものか、そう思うと笑いしか込み上げてこない。

 その闇の中、硬質な足音が響く。それを不快げな表情で見た男は、その人物が何者かを確認すると、直ぐ様相好を崩した。

 闇の中から現れたのは、手早く言うなら執事であった。身長は190近くあり、均整の取れた鋼のような体つきの若い男だ。むしろ、いっそのこと美形と言ってしまっても構わない顔立ちに柔和な笑顔を浮かべている。異常なのは、その両腕である。左腕は盾と籠手が一体化したような防具に覆われており、右腕は奇妙な円筒形のパーツを腕にそっくりそのまま穴を開けて埋め込んだような奇っ怪なものだった。

 柔和な笑顔を浮かべたまま、若い男はやや芝居が買った動作でお辞儀をした。

 

「カジット様、長年の悲願の達成まであと一歩、おめでとうございます」

「何を言う、お主がおらねば、ワシはここまで来れたかどうかも分からぬ。礼を言うのはこちらだ」

 

 カジットと呼ばれた男の言葉に、若い男は両手を振って謙遜する。その柔和な顔は一ミリたりとも崩れていない。

 

「いえいえ、こちらはあなたをズーラーノーンと引き合わせただけです。むしろ、我が主の実験の意味合いもあって協力しているだけですので、礼など必要ありません」

「そう言うのであれば、この話はここまでにしようか。しかし、クレマンティーヌはどこへ行ったのだろうか。まぁ、大方風花聖典にでも捕まったのであろうがな」

 

 馬鹿な女よ。そう吐き捨てるようにいったカジットに、若い男はおもむろに指を一本立て、それをカジットに突きつけた。その柔和な笑顔を崩さぬまま。

 

「そう言うわけでもないようですよ、カジット様。どうも、冒険者に捕まったようです」

「ふぅむ?あやつを捕まえられるほどの冒険者がこの町に?ワン殿、どのような人物か、分かりますかな?」

 

 ワンと呼ばれた男は、その奇っ怪な右腕の指先を顎に押し付け、首を捻る。その表情は柔和な笑顔のままだが。

 

「恐らくですが、モモンと言う冒険者か、アダマンタイト級冒険者二人が来ているので、そのどちらかだと思いますが……おやおや?」

「?どうしたのだ、ワン殿?」

「ああ、これは失礼。アンデッドの群れに混じらせておいた私の端末が、両方とも潰されたようです」

「なんだと!?」

「ご安心ください、カジット様。この近辺に置いてあるガードナーは、アダマンタイト級であっても、そう簡単には突破できません。その間に、迎撃準備を整えておきましょう」

 

 平素と変わらぬその態度に、カジットは薄ら寒いものを感じながらも、その懐にある宝珠を握りしめ、切り札をあらかじめ起動させる。

 その後ろ姿を見るワンの表情は、ずっと変わらぬ柔和な笑みであった。

 

 

 墓地近くに現れたのは、四脚四腕の奇怪なゴーレムだった。

 だが。

 

「邪魔だ!」

 

 それが現れた瞬間、十三が高く跳躍すると、その顔面に強烈な蹴りを叩き込む。それと同時に脹ら脛の辺りが開き、中から杭が圧縮空気と共に打ち出され、後頭部を突き抜けて引き抜かれる。血、と言うよりは機械油を撒き散らしながら、この奇怪極まりない物は崩れ落ちて沈黙した。

 地面に降り立った十三は、やることがなくて手持ち無沙汰だったクレマンティーヌに顔を向ける。

 

「んで、こいつがその、なんとか言う奴が持ってきたって言う?」

「あー、そうなんだけどぉ、一撃で撃破って、どうなってんの?あたしだってけっこう苦労するのに」

「あ?まぁ、こいつが弱かったんだろうさ。別段不思議でもなんでもないだろ」

 

 適当にそう返しながら、十三は煙草をくわえ直し、周囲に目を配った。何匹かいたアンデッドは、向こうでモモンが切り捨てている。遠くを見れば、雷が舞い、アンデッドが吹き飛んでいるのが見える。あっちはあっちで問題なさそうだ。

 ふと気がつくと、下からクレマンティーヌが自分の顔を見上げているのが目に入った。

 

「どうした?」

「いんや~、不思議に思ってさ。何でアタシを殺さず道案内をさせておいて、道案内が終わったら解放する、何て言ったのかってね?」

「……正当な取引だと思うがね、俺は」

「そ~お?まぁ、そう言うことなら、別にいいんだけどねぇ。けどね、あんた、アタシとおんなじ臭いがするんだぁ。人殺しが大好きな、そんな奴の臭い」

 

 クレマンティーヌが笑う。壊れた三日月のような、亀裂の入った、見るものによっては不快になる笑み。

 だが、十三は鼻で笑って煙を吐き出した。

 

「残念ながら、俺は別に人殺しが好きな訳じゃねぇ。とは言え、殺してないとは言わん」

「……ふぅん、そっかそっか。契約内容は、こうだったよね?」

「あん?」

「首謀者の情報を引き渡し、その協力者の情報も引き渡す。そして隠れ家まで案内すれば、あとは自由にしていい?間違ってない?」

「ああ間違ってないな」

「そっかそっか。ほいじゃぁ、案内しようか、ね?」

 

 亀裂のような笑みではなく、普通の笑顔を浮かべたクレマンティーヌが先に行くのを見て、十三は首を捻った。

 

 

 向こうでモモンが、話に加わるタイミングを逃し、一人棒立ちになっているのを、わざと無視して。

 

 

 

 





ようやく十三が戦えたので良かった良かった。

次回後編、お楽しみに。

没ネタ

 向かい来るアンデッドの群れ。それを前にして腕組みをしたまま、シャイアはニヤリと口許を歪めた。
「この程度で私を倒せると思わないことね」
 そう言うと、目前まで迫ったアンデッドの群れに、自らの内に眠る〈 小宇宙/MP 〉を燃え上がらせ叩きつけた。
「必殺!〈 第十位階偉大な角/グレートホーン 〉!!」
 〈 小宇宙/魔力 〉が吹き荒れ、全てのアンデッドが顎を上げて宙を待った。

没理由
たぶん、これを考え付いた時の俺は疲れてたんだよ……。

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