非常に、それこそ人生をリセットしたいくらい非常に不本意であるが皆にマスターと認められてしまった私はまず、主人公とマシュと自己紹介する事にした。考えてみれば私は主人公の名前を知らないし、マシュともマトモに話した事がないんだよな。
聞いてみればオルガマリー所長も主人公の名前を知らないそうだ。なんでも主人公達と再会して召喚サークルを設置した直後に先程の骸骨の敵に襲われ、そこを頼光さんに助けられたそうでロクに話をしていないらしい。
そうして聞いた主人公(男)の名前は「久世大地」と言うそうだ。
久世大地……。グゼ、ダイチ……、グダ……。ああ、そういう事か……。
自己紹介を終えた後、オルガマリー所長は事情を全く知らない主人公……久世君に事情を説明をした。
まずこの冬木は、未来で人類の文明が滅却する原因となる特異点であり、私達はそれを解決する事が目的であること。そしてこの冬木ではかつて聖杯戦争が起こった過去があり、そこに恐らくこの地が特異点になった原因があるであろうということ。
途中で魔術師ではない一般の家から来た久世君が初歩的な、あるいは的外れなことを何回か言ってそれにオルガマリー所長が怒り出しそうになったが、その度に頼光さんが「そんなに怒ったら駄目ですよ? せっかく可愛い顔をしているのですから」と言ってなだめてくれた。
凄いな、頼光さん。「あの」オルガマリー所長をこうも簡単になだめてしまうだなんて。前世のゲームでは確認できなかったけど「母性A」とか「包容力A」みたいなスキルを持っているんじゃないか?
とにかくこの冬木ですべき事を確認した私達は、特異点の中心地を探すべく周囲を探索することにした。前世で「Fate/Grand Order」をプレイしていた私は特異点の中心地の場所を大体だが知っているが、この場で言っても「何故知っているのか?」と不審に思われるので、今は黙って先頭を行くオルガマリー所長の後をついて行く事に。
そして周囲を探索中にオルガマリー所長が頼光さんにどの様な武器を使い、どの様な戦い方を得意とすると聞いてきた。その質問に頼光さんは刀だけでなく様々な武器を使う事が出来て、更には騎馬戦も得意で多少なら毒の扱い方も知っているという……簡単に言えばキャスター以外の全てのクラスに選ばれるだけの実力があると答えて、私以外の全員を驚かせた。
……うん。その気持ちはよく分かる。
バーサーカーなのに理性を失わずにパラメータ強化の恩恵だけを受けて、戦闘になればどのような状況でも十二分に活躍できて、性格は穏やかで私の命令には従順。おまけに外見は十人中十人が「美人」だと答える美しさを持つ。
本当に頼光さんは設定の盛りすぎだと私は思う。
しかしそんな設定盛りすぎな頼光さんだがこの状況では非常に頼りになる戦力だ。頼光さんのあまりのハイスペックさに驚いていたオルガマリー所長達は驚きが終わった後で彼女を「頼りになる戦力だ」と誉めちぎり、頼光さんはオルガマリー所長達の言葉にまんざらでもなさそうな笑顔を浮かべながら私の方をチラチラと見てくる。
……これは私も何かを言った方がいいのだろうか?
頼光さんの視線を受けた私は「私も頼光さんを頼りにしていますよ。私の命は初めて会った時から頼光さんに預けています」と彼女に言った。これは私の正直な気持ちだ。こんな過酷極まりない場所で頼光さんに見捨てられたら十分後には死んでしまう自信がある。
そう言うと頬を赤く染めた頼光さんは瞳を輝かせながら「ふふふ……。そこまで期待されたなら私も頑張らないといけませんね♪」と言うと、どこからか取り出した弓矢を構えて矢を明後日の方向にと放った。それもゲームと同じ目にも止まらぬ高速連射で。
その次の瞬間、頼光さんが矢を放った方向から「ガッ!?」という悲鳴と「バァン!」という何かが砕け散る音が聞こえてきたのでそちらを見ると……。
そこには頼光さんの矢によって頭部を吹き飛ばされて首なし死体となった、何やら見覚えのあるボディコン風の服を着た女性が、黒い霧になって空に溶けていく光景があった。
うわ~、スプラッタ……。私、しばらくお肉食べれそうにないな……。
って、ええっ!? アレってもしかしてサーヴァントっていうかメドゥーサ? そういえば「炎上汚染都市冬木」ではシャドウサーヴァントになったメドゥーサと戦うイベントがあったけどこれで終わりなの?
頼光さんの突然の射撃とそれによるシャドウサーヴァント(メドゥーサ)の撃退に私達が呆然としていると、そこにカルデアにいるロマン上司からの通信が来た。
『ああ、やっと繋がった。どうやら通信システムの調整がまだ不完全のようだ。ついさっき高いエネルギーを持った存在、恐らくはサーヴァントがそちらに向かったのを感知したんだけど……もう終わったみたいだね』
ええ、もう終わりましたよ。ロマン上司。頼光さんがほんのニ、三秒くらいで終わらせてくれましたよ……。
「あの者からは狂気と殺気しか感じられませんでしたので、先手必勝で射殺すことにしました。見たところあの者は蛇の怪異……。蛇の怪異はしつこくて死ににくいですから、頭を砕くのが一番なんですよ♪」
と、頼光さんが説明してくれるけど怖いんですよ! 笑顔で蛇系の敵の殺し方を教えてくれても凄く怖い!
久世君もマシュもオルガマリー所長もフォウもドン引きですよ!
『あー……不意討ちとはいえサーヴァントを秒殺とは、流石は平安時代最強の神秘殺し。……もう戦闘は頼光さんと薬研クンの二人に任せとけばいいんじゃないかな?』
私が内心で頼光さんに突っ込みをいれていると、ロマン上司が何やらトチ狂ったことを言ってきた。
いいわけないだろ何を考えているんだDr.マロン! 確かに頼光さんはどんな戦場でも生きていける一流のサーヴァントかもしれないけど私は違うんだからな!
私はたまたま頼光さんを召喚できただけで、実戦経験が豊富な武闘派マスターではない!
私は荒事が苦手で、本来ならばロマン上司と一緒にカルデアから優雅に久世君達のサポートをするポジションだったはずだ! 私は医療スタッフだ!