私は医療スタッフだ!   作:小狗丸

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久し振りに投稿したついでに「あのネタ」を復活させてみました。


番外編「サーヴァント・ヤゲン4」

 人理継続保障機関カルデア。

 

 そこは人理を守る最後の砦である。

 

 魔術王ソロモンによって外の世界が焼却され、更にソロモンの部下であるレフ・ライノールの爆弾工作により四十七名のマスター候補者とカルデアのほとんどの職員がコールドスリープ、あるいは死亡してしまった。それでも唯一生き残ったマスターと、それと契約した数多の英霊達は人類の未来を取り戻すことを諦めず、このカルデアを拠点に今日も人理を修復する為の戦いに挑んでいた。

 

 そしてそんなカルデアの中では……。

 

 

「私は医療スタッフだ! 過労死サーヴァントじゃないんだ~~~!」

 

「待たんかヤゲンーーー!」

 

 

 ……人類の未来を取り戻す為に集まった英霊二人による必死の逃走劇が行われていた。

 

 カルデアの通路を必死の表情で走るのは、眼鏡をかけて白衣を羽織った魔術師の英霊(キャスター)ヤゲン。

 

 そしてこちらも必死の表情でヤゲンを追いかけるのは、黒のスーツの上に赤のコートを羽織った魔術師の英霊(キャスター)エルメロイ二世。

 

 この二人の顔を見ればもうお分かりだろう。そう、最早お馴染み、このカルデアで名物となりつつあるヤゲンとエルメロイ二世による逃走劇である。

 

「もう嫌だ! 種火集め三百回耐久マラソンの次は騎の修練場五百回耐久マラソンだなんて! 死ぬ! 過労で死んでしまう! だから私は逃げる! 平和な世界へと!」

 

「そうは行くか! ここで貴様に逃げられたら、騎の修練場五百回耐久マラソンに駆り出されるのは私だ! 気の毒に思うがここは逃さんぞ、ヤゲン!」

 

 前を走るヤゲンの叫びにエルメロイ二世はそう返すと懐から小さな機械、ヤゲンを捕らえる為の他サーヴァントに応援を要請する発令機を取り出して、そのスイッチを押した。直後、カルデアの全域にヤゲンの脱走を知らせる専用のアラームが鳴り響いた。

 

 

 パラッパラッパラッパラ~☆

 

 パラッパラッパラッパラ~☆

 

 パッラッラッ☆ パララ☆ パララ☆

 

 パララ☆ パララ☆

 

 パララ☆ パララ☆

 

 パララッララー☆

 

 パァーン☆

 

 

「……………ナニコレ?」

 

 カルデア全域に鳴り響いたアラーム(?)にカルデア所長オルガマリーは思わずといった風に呟いた。

 

「これですか? ヤゲンさんの脱走を知らせる専用のアラームで、つい先日新しく設定されたんです」

 

 オルガマリーの呟きに答えたのはカルデアの職員の一人でデミ・サーヴァントでもあるマシュで、オルガマリーは彼女の言葉に呆れたような表情となる。

 

「いつの間にそんなものを……。まあ、とにかくまたヤゲンが脱走したのね?」

 

「はい。職員の皆さんは早速賭けを始めていますけど所長を参加しないのですか?」

 

 ヤゲンとエルメロイ二世の逃走劇はカルデアの職員達の間で「ヤゲン逃げ切るか? それともエルメロイ二世が捕まえるか?」という賭けとなっており、この賭けはカルデアの職員達にとって重要な娯楽となっていた。

 

「私はいいわよ。それで? 今はどっちが優勢なの?」

 

「それがですね……最初はエルメロイ二世さんに協力したサーヴァントの皆さんが早い段階で集結してヤゲンさんのピンチでした。ですけど、今回はヤゲンさんも他のサーヴァントの方に協力を要請していたみたいで、その方達のお陰で無事に逃げています」

 

「へぇ?」

 

 マシュの途中報告に興味が出たオルガマリーが監視モニターを見てみると、確かにそこにはエルメロイ二世に協力サーヴァント達とそれを妨害するサーヴァントの姿が映っていた。

 

 坂田金時(騎)とアレキサンダーの行く手を阻む佐々木小次郎。

 

 ジークフリートとシュヴァリエ・デオンに向かって威嚇射撃を行うビリー・ザ・キッド。

 

 死角からこっそりとエレベーターや通路のドアを操作してヤゲンの逃走をサポートするマタ・ハリ。

 

 エルメロイ二世が他のサーヴァントに協力を頼むように、ヤゲンもたまに逃走のサポートを他のサーヴァントに頼む事があり、今回ヤゲンがサポートを頼んだのは佐々木小次郎とビリー・ザ・キッドにマタ・ハリの三人なのだろう。そこまではオルガマリーにも理解できるにだが……。

 

「………ねぇ? どうしてあの三人、カメラ目線でポーズを取っているの?」

 

 オルガマリーの言う通り、ヤゲンに協力している三人のサーヴァントは、ヤゲンのサポートをしながら自分達を撮影している監視カメラに向けて明らかにポーズを取っていた。

 

 例えば佐々木小次郎は相手の攻撃を切り払うと、愛刀の物干し竿の刃をきらめかせてニヒルに笑って見せたり、

 

 ビリー・ザ・キッドは威嚇射撃を終えると手に持った拳銃で頭に被っている帽子を上げて見せたり、

 

 マタ・ハリにいたっては監視カメラに向けて投げキッスをしていたりする。

 

 よく見ればヤゲンも、後ろを警戒しながら走る◯パン走りが中々見事なもので画面映りが良く、この四人のサーヴァントが画面映りを意識しているのは明らかだった。

 

「あれですか? あれはシェイクスピアさんが『逃走劇を演じるならそれ相応の動作を身につけねば』と言って指導した成果ですね」

 

「英霊が何をやっているのよ……」

 

 自分の疑問にマシュが答えてくれたのを聞いてオルガマリーが呟く。

 

「あ、あと最初のアラームを演奏指揮してくれたのはアマデウスさんです。シェイクスピアさんもアマデウスさんもノリノリで指導と演奏指揮をしていましたよ?」

 

「英霊が何をやっているのよ……」

 

 思い出したようなマシュの言葉にオルガマリーがもう一度同じ言葉を呟く。

 

 成る程。確かにシェイクスピアとアマデウスは自分の楽しみを優先するタイプの英霊で、この手の騒ぎを見ればより面白くしようと自分達から首を突っ込むだろう。

 

 それは分かるのだが、それでもオルガマリーの頭に「英霊の力の無駄遣い」という言葉が浮かぶのは仕方がない事だろう。

 

 何というかカルデアは、人類の未来を取り戻す戦いをしながらも今日も平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに今回の逃走劇の勝敗は、やはりというか今回もヤゲンの勝利であった事をここに記しておく。




皆さんはお正月の福袋ガチャで何のサーヴァントが来ましたか?
作者の所には酒呑童子とアビゲイルが来てくれました。
……正直嬉しいんですけどウチのカルデア、頼光さんがいるんですよね……。

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