FGOで頼光さんの宝具をLv5にできたという嬉しい出来事が起こり、そのテンションで執筆意欲が復活しました。
マシュからオルガマリー所長が無事目覚めたと知らされた私は、オルガマリー所長のいるダ・ヴィンチちゃんの工房に向かっているのだが、内心はかなり複雑な心境であった。
本来の歴史ではオルガマリー所長は特異点の冬木で……いや、それ以前のカルデアに起こったレフによる爆発テロによって死亡し、今頃は魂も焼却されていたのだが私はそれを助けた。あの時はああするしかなかったと納得しているつもりなのだが、それでも「オルガマリー所長の生存」というのは決してあり得ないイレギュラーである。
原作知識、これから先に起こる未来の情報は私がこの世界で生き延びるための最も重要な命綱だ。それがオルガマリー所長を助けたことで何らかの変化があったらと思うと不安でたまらない。
そんな事を考えている内にダ・ヴィンチちゃんの工房の前に到着した私はこれから先の事を不安に思いながら扉を開き……、
「えっ!? や、薬研! 危な……!」
扉を開いた瞬間、私は聞き覚えのある声を聞いたと思うのと同時に、光に包まれて気を失った。
※ ※ ※
「ご、ごめんなさい! 薬研! まさかいきなり薬研が出てくるとは思わなかったの!」
光に包まれて気を失ってから数分後。何とか意識を取り戻した私は一人の女性に平謝りされていた。
いえ、私は気にしていませんよ。
私は目の前で何度も頭を下げて謝ってくる女性、「オルガマリー所長」に向けて言った。
そう。今私の前にいるのはレフ・ライノールの企みによって一度死んで身体を失い、今日までダ・ヴィンチちゃんの工房で新たな身体を作っていたオルガマリー・アニムスフィアである。
……うん。足もあるし夢や幻でもない。ここにいるのは一度はレフ・ライノールの爆弾テロによって命を落としたが、ダ・ヴィンチちゃんの治療のお陰で体を取り戻して助かったオルガマリー所長だ。
これによりこの世界の歴史の流れと私の知る原作知識の「ズレ」はいよいよ本格的になっていくのだが、今はオルガマリー所長が助かったことを喜ぼう。
私は医療スタッフだ。傷ついて命の危機に瀕した仲間を助けるのが私の仕事なのだから。
……それにしてもオルガマリー所長? その格好は一体?
「えっ!? こ、これはその……! 気がついたらこの格好になっていて、決して私の趣味じゃないのよ! 本当よ!」
私の指摘にオルガマリーは顔を真っ赤にして両腕で自分の体を隠しながら必死に弁明してきた。
あっ、ハイ。分かってますから、そこまで強く言わなくてもいいですよ、オルガマリー所長。
今のオルガマリー所長は以前とは全く違う服装となっていた。ボロボロの青色の布を腰と胸元に巻いた半裸姿で、全身には淡く青色に光る刺青が入っているのだ。
……どこからどう見てもアンリ・マユの第三再臨の姿です。
それで? これは一体どういうことなのですか、ダ・ヴィンチちゃん?
私が物陰に隠れてこちらの様子を見ていたこの工房の主、ダ・ヴィンチに話しかけると、自他ともに認める天才のサーヴァントは頭をかきながら物陰から出てきて事情を説明してくれた。
「いや~……。せっかくオルガマリー所長の新しい体を作るのだったらハイスペックな体を作ってあげようと思ってね……。私の持てる技術を全て使ったら、自分でも惚れ惚れするようなハイスペックの、サーヴァントの霊基を組み込んでも耐えられるキャパシティの体ができたんだよ。
そしてそれとほぼ同時に君達が冬木から回収してきた最初の聖杯と奇妙な霊波パターンを持つ英霊との縁が繋がったのが分かったのさ。
それでせっかくだから……」
せっかくだから?
「その奇妙な霊波パターンの英霊の霊基をオルガマリー所長の新しい体に組み込んで、デミ・サーヴァントにしちゃいました♪」
可愛らしい笑みを浮かべてとんでもないことを言うダ・ヴィンチちゃんを見て私は思った。
うん。この人、分かっていたけと真性の馬鹿だ。
つまりこういうことか?
聖杯と縁が繋がった英霊というのはアンリ・マユで(何故聖杯と縁が繋がったのは分からないけど、原作繋がりなのだと思う)、
それを確認したダ・ヴィンチちゃんが好奇心やら悪戯心やらが刺激されてアンリ・マユの霊基を組み込んだ結果オルガマリー所長はアンリ・マユの能力を受け継いだデミ・サーヴァントになって、
デミ・サーヴァントとなってアンリ・マユの能力だけでなく姿まで受け継いで半裸姿になったオルガマリー所長は、怒りと羞恥心から元凶であるダ・ヴィンチちゃんに魔術で攻撃しようとしたが避けられてしまい、避けられた魔術は丁度工房に入ってきた私に命中した、と……。
なるほど。結論から言えば全てダ・ヴィンチちゃんが悪いな、これは。
「あの……薬研? 言うのが遅れちゃったけど、助けてくれてありがとう」
私が状況を整理していると、オルガマリー所長が頭を下げて礼を行ってきた。
「貴方がいなかったら私はレフに殺されたまま魂も消えてここにはいなかったわ。私がこうして助かったのも薬研、貴方のお陰よ。本当にありがとう」
気にしないでください、オルガマリー所長。私の方こそ貴女の魂を確保した後は、新しい体の製造などをダ・ヴィンチちゃんだけに任せて何のお手伝いもできなくて申し訳ありませんでした。
本当ならば私だってオルガマリー所長の新しい体の製造などをお手伝いしたかった。というかそれをメインにしたかった。
しかし何故か医療スタッフである私は久世君と一緒にマスターとしての訓練を受けさせられて、そんな暇がなかったのである。
私は医療スタッフだ。
そう、大事なことなのでもう一度言うが私は医療スタッフだ。断じて地獄のような前線を駆け抜け、人理を救うマスターなのではない。
それなのに何故、周囲は私をマスター扱いしたいのか盛大に天に抗議したい。具体的には短い手足と光を放つ目がある茸の外見をした神に……いや、待てよ?
こうしてオルガマリー所長が復活したのだから、彼女に配置を変えてもらうようにお願いしたらもしかして……。
「あの~……。薬研?」
脳裏に今世紀一番の閃きが起ころうとした時、オルガマリー所長が申し訳なさそうな顔で話しかけてきた。
はい? どうかしましたか、オルガマリー所長?
「そろそろ後ろの三人を何とかしてくれないかしら……。もうスッゴく怖いのだけど……」
「「「………」」」
青い顔をしながら言うオルガマリー所長の背後には、私が魔術で吹き飛ばされた事に怒った頼光さんと牛若丸と山の翁が、無言で自分達の刀や大剣を上段に構えていた。
……………ヤベッ。さっきから三人があの体勢だったことをすっかり忘れていた。
そして結局、オルガマリー所長に対して怒る頼光さんと牛若丸と山の翁を宥めるのに丸一日かかり、私はオルガマリー所長に配置を変えてもらうように言うタイミングを完全に逃してしまったのだった。
……ちくしょう。