「そう言えばマスター? 私もマスターが持っている漫画のことで聞きたいことがあるのですが」
私が日本のオタク文化の凄さに驚いていると今度は頼光さんが話しかけてきた。
どうかしましたか頼光さん? 何か読みたい本でもあるのですか?
「いえ、別に読みたいというわけではないのですが……。マスター? マスターは久世さんが持っているという『Trouble』や『苺十割』は……持っていませんわね?」
怖っ!!
台詞の「持っていませんわね?」の辺りでいきなり真顔になった頼光さんが滅茶苦茶怖い!
というか何でそんな質問を? やっぱり女性としてはエッチなシーンが多数ある漫画は所持を認められませんか?
「……マスター?」
はい! それらの漫画は所持していないであります!
真顔のまま再度質問してくる頼光さんに直立不動となって答える私。
臆病者と笑いたければ笑え。大事な事だからもう一度言うけど滅茶苦茶怖いぞ、頼光さん。私は医療スタッフだ。高位のサーヴァントの怒気に当てられて平気なはずがないだろう?
「……よかった。やっぱりそうでしたか」
私の返答に納得したのか真顔から笑顔にとなる頼光さん。
よかった。ひとまず危機は去ったか。……でも「やっぱり」って。
「実はすでに本棚の裏は勿論、天井裏から床下まで確認していたのですが、本人の口から聞けてホッとしました」
もうすでに、それこそ文字通り部屋中探していたとは……。
よかった。頼光さんを召喚してすぐにそれらしい本をカルデアの倉庫にある私専用のスペースに封印しておいて本当によかった……。
私が内心で胸を撫で下ろしていると頼光さんが「Trouble」と「苺十割」の話を続けてくる。
「マスターも久世さんも若い男性ですからそういった本に興味を覚えるのは分かるのですけど、それでも一緒にいる女性のことがありますしあまり持つべきではないと母は思うのですよ。現にマシュさんとセイバー・リリィさんと清姫さんはそれらの本を読んで大層お怒りでしたし」
え? 久世君ってばあの三人に「Trouble」と「苺十割」見られたの? というかどれくらい怒っていたの?
「それなら私も見ましたが……確か、セイバー・リリィ殿がまるで汚物を見るような目で久世殿を拘束して、その前で能面のような無表情のマシュ殿が件の本を積み上げ、そしてそれを目が笑っていない笑みの清姫殿が燃やしていましたね」
「ああー。あれは怖かったですねー。あまりの怖さにクー・フーリンさんとエミヤさん、汗をだらだら流したまま動けませんでしたしね」
私の言葉に現場を見ていた牛若丸が答え、それに沖田が同意をする。
まさかの処刑レベル!? そこまで怒るとは予想外だった。
というか久世君ってば、こないだの爆死の件といい、ロクな目に遭ってないな。幸運値Eくらいなんじゃないの、リアルラック?
「皆さん! 失礼します!」
私が久世君に同情していると突然、先程の話に出ていたマシュが息を切らせてながらマイルームに飛び込んできた。
ま、マシュ!? そんなに慌ててどうしたんだ?
「は、はい! 皆さん、ダ・ウィンチちゃんの工房に来てください! つい先程所長の身体が完成して蘇生作業に入ると連絡が来ました!」
次回こそ本当に所長が復活します。