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「改めて見るとこのカルデアとは中々面白い所じゃな」
特異点の修復が終わり、私が沖田と信長を召喚した日から三日後。私は信長と一緒にカルデアの通路を歩いていた。信長がカルデアの中を探検したいと言い出したので、こうして案内しているのだ。
信長、カルデアは気に入った?
「うむ。この様な建物はワシが生きていた時代にはなかったからの。中々に新鮮じゃ。それよりもあの久世とかいう小僧、元気になって良かったの?」
私の言葉に頷いた信長が思い出した様に言う。
信長と一緒にカルデアの中を歩いていた時、私達は訓練室で訓練をしている久世君の姿を見た。久世君はカルデアが開発した戦闘用の礼装(ゲームにあった魔術礼装のカルデア戦闘服。私も前世では大変お世話になりました)を装備して「ガンド」の練習をしていた。
昨日まで召喚の爆死で脱け殻状態であった久世君だが元気になったようで何よりだ。
……まあ、血走った目で「ガチャ運がなんじゃぁ! 爆死がなんぼのもんじゃあぃ!」と叫びながら標的用の人形にガンドを乱れ撃っている久世君はちょっと怖かったけど。
そんな会話をしているとマイルーム前に辿り着き、扉を開くと部屋の中ではやはりというか頼光さんと牛若丸と山の翁、そして沖田が漂流者達のアニメを見ており、アルジュナはそんな彼等に背を向けて椅子に座り本を読んでいた。
「んむ? 彼奴らは何を見ているのじゃ?」
信長がアニメを見ている頼光さん達を見て首を傾げるのだが……どう言ったらいいんだろう?
「あら? お帰りなさい、マスター」
「主人殿、お帰りなさいませ」
「帰還したか、契約者よ」
「お帰りなさい、薬研さんとノッブ」
「うん。帰りましたか、二人共」
私がどう漂流者達の事を説明しようかと考えていると部屋にいる五人が私達に気づいて出迎えてくれた。そしてその後、頼光さん、牛若丸、山の翁、沖田の四人が信長に注目する。
「な、何じゃ? 何で皆がワシを見るのじゃ?」
いきなり一斉に視線を浴びて戸惑う信長に向けてまず頼光さんが口を開く。
「貴女……真名は信長さんでしたね。あのアニメとは大分姿が違いますがこれからの活躍を期待していますね」
「私も協力しますから斬新な戦法をお願いしますね」
「信長よ。励むがよい」
「むむむ……。正直ノッブにこんな事を言うのはシャクなんですけど……まあ、期待しておきます」
「え? え? え? ど、どうしたのじゃ? 一体何を期待するというのじゃ?」
信長。はい、コレ。
「コレ?」
頼光さん、牛若丸、山の翁、沖田の四人に言われてますます戸惑う信長に私は漂流者達の漫画全巻を手渡した。
恐らく頼光さん達は漂流者達の漫画、アニメに登場する信長の活躍を見て、それと同じ活躍をここにいる信長にも期待しているのだろう。
「………」
パラ、パラ、パラ……。パタン。
信長は私が手渡した漂流者達の漫画を無言で読む。そしてやがて読み終わって本を閉じると……。
「うむ。これから頼むぞ。『信長殿』」
信長はこれ以上ないくらい清々しい笑顔を浮かべて私の肩を叩いてきた。
……って! 何、私を信長呼ばわりしているの!? 何、人に厄介事押し付けようとしているの!? というか貴女、戦国武将なんだからそれくらい何とかなるでしょう!?
「仕方がないじゃろう!? こんな濃い衆をまとめる苦労なんて生前だけでお腹一杯なんじゃもん! お主もワシらのマスターなら代わってくれてもよいじゃろう!?」
あざといくらいに可愛らしいふくれっ面を作って自分のお腹をポンポンと叩く信長。
ええい! くぎゅうボイスでそんな可愛らしい仕草をしても私は惑わされないからな!
代わるの一日に一回だけだからな!