私は医療スタッフだ!   作:小狗丸

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「あら? この、杯? のような物、強い力を感じませんか?」

 

「ほんとうですね! 主殿! 見つけましたよ!」

 

 アルジュナとエミヤの宝具でギルガメッシュ達を吹き飛ばしてから数十分後。私達が都市の中で聖杯を手分けして探していると、最初に見つけた清姫と牛若丸の声が聞こえてきた。

 

 私達が牛若丸と清姫の元に集まって二人が見つけた聖杯を見てみると、それは金色の杯に色々な絡繰り仕掛けの装置がゴテゴテと本体の杯を覆い隠すくらいに取り付けられた奇妙な物体であった。

 

 そう言えば聖杯が暴走した原因は、信長が聖杯を爆弾に改造しようとしたからだって沖田が言っていたな。

 

 でもこれはちょっと魔改造が過ぎるんじゃないですか? 『二人とも』?

 

 そう言って振り返った先には縄に縛られた『二人の信長』の姿があった。

 

 二人の信長の片方は沖田と一緒にカルデアに来て今日まで一緒に旅をしてきた信長で、もう片方は聖杯の暴走の影響で信長から分かたれた力が実体化した信長である。

 

 原作ではギルガメッシュ達を倒したところでこの分かたれた力が実体化した信長、通称「悪い方のノッブ」に聖杯を奪われてそのまま戦闘に入ってしまう。それを知っていた私は前もって山の翁に信長の監視を頼んでいたのだ。

 

 というか原作知識を知らなくても私はきっと山の翁に信長の監視を頼んでいたことだろう。何せ信長は少し目を離したら何をしでかすか分からないところがあるし、そもそもこの特異点が発生したのは信長が聖杯を暴走させたのが原因なのだから、監視をしておくのは当然の用心と言える。

 

 すると案の定、ギルガメッシュ戦に入る少し前に悪い方の、が今日まで一緒に旅をしてきた信長、通称「良い方のノッブ」しており、そこを山の翁がこうして「保護」をしたというわけだ。

 

「「何が保護じゃ! おもいっきり拘束しておるではないか! 後、この二人メチャクチャ怖いから何とかして!」」

 

 私の考えを読んだのか二人の信長が叫ぶ。あの長い台詞を全く完璧にハモらせるだなんて、流石は同一人物。

 

 そして二人の信長が今言った「この二人」というのが誰なのかというと……。

 

「「………」」

 

 私が契約をしたサーヴァント、牛若丸と山の翁のことで、牛若丸と山の翁は二人の信長の後ろに立って無言で刀と大剣を構えていた。

 

 ハイ。どう見ても罪人の首を斬る処刑者の姿です。

 

 これって、私が手を挙げただけでもそれを合図と見なして二人の信長の首を斬るんじゃないかな? 牛若丸も山の翁も?

 

「くうぅ~、無念じゃ。せっかく後一歩で聖杯が手に入るかと思っておったら、こんな用心深い切れ者軍師がおるとは……。はっ!? そうじゃ! 薬研、お主、ワシに仕えてその聖杯を渡す気はないか? そうしたらそうじゃな……どこかの世界を征服してその半分をくれてやろうぞ!」

 

 二人の信長の片割れ……多分悪い方のノッブがくやしそうに歯噛みをしているかと思ったら、突然どこぞの魔王みたいなことを言い出してきた。

 

 私は医療スタッフだ。それなのに何でどこぞの勇者みたいな選択を持ちかけられているの?

 

 そう考えていると今度はもう片方の信長……恐らく良い方のノッブが焦ったように声を上げた。

 

「あっ、ズルい!? ワシの方が先にこやつを狙っておったのじゃぞ! のう、薬研。こんな悪い方のワシに仕えるくらいならワシに仕えぬか? ワシに仕えたら世界の半分だけでなく永遠の命もくれてやろうぞ! 聖杯の力を使ったらそれくらい何とかなるであろう?」

 

 もう一人の信長、お前もかい。

 

 それにしても今の信長の発言から私ってば、もしかして彼女から好印象を懐かれている? 何か信長の好感度を上げるようなことしたっけ?

 

 まあ、それはともかく。私はどちらの要求にも応じるつもりはなく、何だか言い争いを始めている二人の信長に向けてこう言った。

 

 二人とも! 二人は次に「それだけは止めてくれ」と言うだろう! 頼光さん!

 

「……ええ、承知しました」

 

「「……っ!!」」

 

 私が手に持っていた聖杯を頼光さんに向けて放り投げると、頼光さんはすぐに私の意図を理解して微笑みを浮かべながら刀を抜き、その直後に二人の信長も気づいたようで表情を強張らせる。

 

「「それだけは止めてくれ! ……はっ!?」」

 

 私の言った通りのリアクションをしてしまったことに愕然とする二人の信長。そしてそうしている間に頼光さんは宙にある聖杯に向けて刀を振るおうとしていた。

 

「はあっ!」

 

 パァン!

 

「「あああああっ!?」」

 

 頼光さんの気合いの声とともに振るわれた刃は聖杯を一撃で破壊し、それを見た二人の信長が声を揃えて悲鳴をあげる。これでこの特異点もすぐに消えるであろう。

 

 ぐだぐた本能寺、完!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もしやさっきのは『徐々に奇妙な冒険』の真似かね?」

 

 エミヤが先程二人の信長に言った言葉について聞いてきたがその通りである。

 

 私は「週刊少年ジャンクの漫画で好きな漫画を三つあげろ」と言われたら迷わず「吟魂」、「KARUTO」、「徐々に奇妙な冒険」の三つを答える。

 

 後、久世君は「1PIECE」、「Trouble」、「苺十割」らしい。


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