私は医療スタッフだ!   作:小狗丸

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 この特異点にやって来てから四日目。私達はようやく聖杯の反応がある地点へと到着した。

 

 まあ、ようやくと言っても本来であれば移動だけでこれの何倍もの時間が必要な訳だから、その事を考えればこの特異点のぐだぐたな距離感もありがたいと言えるだろう。

 

 え? 毛利メディナリと島津セタンタはどうしたって? それなら昨日の内に始末しておきましたよ。

 

 前回と同じ手抜きな報告になっているとは思うがこればかりは仕方がないと思う。

 

 何せ毛利メディナリはアルジュナの宝具で一瞬で吹き飛ばしてしまったせいか書くべき描写もなく、島津セタンタにいたっては……。

 

 

「その様な軽薄な言動……。貴方それでも島津武者ですか!」

 

「あの世で豊殿に武士道を学んで来なさい!」

 

「島津の名を背負いながら敵兵の首を狙わぬその堕落……。もはや生きる価値無し!」

 

「薩奸死すべし!」

 

 

 と、漂流者達の島津武者と比較しまくった頼光さんと牛若丸と山の翁の三人、そして沖田から宝具四連発を受けて(宝具の発動順は沖田、牛若丸、山の翁、頼光さん)それはもう筆舌に尽くしがたい凄絶な散り方だったのでカットの方向で。後、久世君と契約をしているキャスターのクー・フーリンは島津セタンタの散り方を見て「うわー……。汚ねぇ花火だナー……」と、遠い目をしながら呟いていた。

 

 まあ、それはともかく今私達の前には、日本風の特異点の筈なのに何故かローマ風の大都市があり、そこから強大な魔力が感じられる。そしてロマン上司からの観測結果によるとやはりこのローマ風大都市に聖杯の反応があるそうだ。

 

 私の知っている原作通りならこの先はまさに正念場。豊臣役のギルガメッシュと竹中役のアンデルセン、黒田役のメフィストフェレスと戦うことになっている。

 

 このぐだぐたな世界の影響で思考が残念になっているとはいえ、それでもギルガメッシュはFate/世界のトップサーヴァントだ。しかもその隣にいるアンデルセンは戦闘能力こそないがサポートでは中々優秀だし、メフィストフェレスは何をしでかすかは分からない。

 

 こうして考えると正面から戦うのはやはりというかリスクが高すぎるだろう。さて、どうしたものか……。

 

 

 

 

 

「どうしたんですか、薬研さん? え? エミヤの力を貸してくれ?」

 

「これは……魔力増幅薬だったか? これを飲んで宝具を発動しろだと?」

 

「え? 私も魔力増幅薬を飲むのですか? それでエミヤの宝具の後に宝具を発動しろと?」

 

「I am the bone of my sword.──So as I pray, 『unlimited blade works』」

 

「神聖領域拡大、空間固定、神罰執行期限設定、全承認。シヴァの怒りを以て、汝らの命を此処で絶つ……『破壊神の手翳』!」

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!

 

 この特異点に来てもう何度も見たアルジュナの宝具だが、今回の宝具発動は今までの比ではない轟音と衝撃波を発してエミヤの宝具によって作り出された固有結界を破壊した。固有結界が破壊され、私達が元の世界に戻るとローマ風の大都市からは魔力の気配は感じられなくなっていた。

 

『と、都市にいたサーヴァントの反応が消失……。どうやらさっきのエミヤとアルジュナの宝具によって倒されたみたいだね……』

 

 カルデアから何故か苦い口調をしたロマン上司の報告がきた。

 

 よし。作戦通り。

 

 私が今回行った作戦は、エミヤの宝具で作り出された固有結界の中でアルジュナの宝具を「いつも以上の威力」で発動させたというものだ。

 

 アルジュナの宝具は元々はインド神話の破壊神シヴァから与えられた神造兵器であり、威力を全開にして発動すれば世界を崩壊させてしまうので、今までアルジュナは発動する規模や時間を制限することで威力を抑えていた。

 

 しかし今回戦うのは「あの」ギルガメッシュだ。今までの威力を抑えた宝具発動では防がれてしまう危険性がある。

 

 だから私はエミヤに固有結界という「壊れても平気な世界」を作ってもらい、その中でアルジュナに世界を破壊するくらいに威力を解放した宝具を発動させたのだ。

 

 エミヤとアルジュナに魔力増幅薬を飲ませたのは、少しでも射程距離を伸ばすため。遠距離からの神造兵器を用いた奇襲だったらギルガメッシュにも有効だと思ったが上手くいったようだ。

 

 今更だと思うが卑怯とは言わないでほしい。何せ私は医療スタッフだ。巨大ロボットを召喚して操縦する魔術師でも、ペガサスのオブジェに変形合体する鎧を着た拳闘士でもなく医療スタッフ、つまり一般人だ。そんな一般人が半神の英雄王と正面から戦うなんてムリゲーもいいところである。

 

 要するにあのギルガメッシュから聖杯を得るには奇襲で一気に決めるしかなく、それを実行した私は悪くないと思う。

 

 十年前にあの黒いコートを着た人からもらった大変ためになる戦術・戦略が書かれたノート、通称「Kノート」にも「奇襲は戦闘で最も有効な戦術だ。戦いでは常に先手を取って敵に何もさせないのが良く、可能ならば一度の奇襲で敵を完膚なきまでに倒すのが最良」とあったしね。

 

 まあ、それはさておき、これでギルガメッシュは倒したのだから早速聖杯を探さないと。

 

 いや、それよりも先に「彼女達」の問題を先にした方がいいのかな?


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