ガキィン! ガァン!
浜辺を一望できる丘の上で金属同士が激しくぶつかり合う音が響き渡る。
私達が見ている先ではエミヤが双剣を構えており、その前にはもう一人の、聖杯によって召喚されたエミヤの姿があった。
クー・フーリンが立ち去ったあの後、気配遮断スキルを持つ山の翁に周囲を偵察してもらうと、やはり原作通りクー・フーリンだけでなくエミヤとメディアも近くにいる事が分かった。……ちなみに帰ってきた山の翁が「土産だ」と言って二頭身信長の生首を十個くらい見せてきた時は少し驚いた。
そして先程の襲撃がこちらをおびき寄せる為の罠だと判断した私達は、逆にこれを利用して敵を各個撃破する事にしてまず最初にエミヤを倒すことにしたのだ。
原作のぐだぐだ本能寺でもエミヤは罠にはまった主人公達を狙撃してくる役だったし、遠距離からの援護射撃は厄介極まるので早めに倒すに限る。
すでに手下であった二頭身信長の集団は全て倒しており、残った聖杯に召喚されたエミヤは久世君と契約をしたエミヤが相手をしていた。
「くっ! まさかこんな所で自分自身と戦うことになるとはな……! やはり私は自分殺しに縁があるということか」
「そうかもしれないな。しかし今回に限り貴様の事を思って言わせてもらえば、貴様は私に倒されるべきだ。……それが一番苦しみがないだろうからな」
「なるほど……あのバーサーカーの事か。確かに大空洞の事を思い返せばそれもそうかもしれないな」
刃を交えながら二人のエミヤが会話をすると、久世君と契約をしたエミヤが私の方を、聖杯に召喚されたエミヤが頼光さんを見てきた。
あれ? もしかして敵の方のエミヤも冬木の特異点の記憶があるの?
いや、それよりも何で久世君と契約しているエミヤは頼光さんじゃなくて私の方を見るの? 私は医療スタッフだ。戦闘能力なんて無いに等しいし、サーヴァントであるエミヤにあんな目で見られる理由なんてないのだが?
「それにしても釣り野伏で一網打尽にするつもりだったが……。ふっ、毛利メディナリの策を逆に利用されるとはな」
「……毛利?」
あっ。エミヤ(敵)が苦笑混じりに呟いた言葉に沖田が反応し始めた。
しかしそんな沖田の僅かな反応に気付かず二人のエミヤは斬り合いながらも会話を続けていく。
「ほう……。かの魔女が謀将の役になるとはな。まぁ、適役と言えば適役か。それで? 貴様はどの武将の役を与えられた?」
「ふっ。私はどういう訳か長宗我部の役を与えられたよ。ちなみに先程貴様達を襲ったランサーは島津セタンタと名乗っていたな」
「長宗我部……土佐! そして……島津!」
あ~あ、もう知らない。沖田の目が完全に人斬りの目になっちゃったよ。
エミヤってば、普通に会話をするだけで女性の地雷を盛大に踏み抜くとは流石は「女難の相:A」、いや、二人いる事で「女難の相:EX」になっているんじゃないか?
「さて……無駄なお喋りはここまでにしてそろそろ決着を「土佐者死すべき慈悲はない!」ごはぁ!?」
聖杯に召喚されたエミヤはそう言って双剣を構えたが、横から第三段階の姿となった沖田の刃に貫かれてしまった。どう見ても致命傷だが、沖田はそれだけでは飽き足らず敵のエミヤの身体を何度も何度も刀で滅多刺しにしていく。
「……だから言っただろうに」
久世君と契約をしているエミヤが、沖田に滅多刺しにされている敵のエミヤを見ながら何とも言えない表情で呟く。うん。確かにこれだったらエミヤに倒された方が楽だったろうな。