ブリーフィングルームでの騒ぎから数時間後。私と久世君、そして私達と契約をしているサーヴァント達は特異点……と言うより聖杯の力で創られた異世界に来ていた。
あのぐだぐたなブリーフィングにより現在カルデアで起こっている異常(二頭身信長大量発生)は、沖田と信長がいた世界の聖杯が信長の手によって暴走したのが原因で、この世界のどこかにある聖杯を回収すれば異常も収まる事が分かったからだ。
ちなみに信長が原因だと分かった途端、今度は頼光さんが信長に斬りかかって私とアルジュナが体をはって頼光さんを止めるという、それだけで短編が書けそうなやり取りがブリーフィング時にあったのだが、それはまた別の物語ということで。……というかあの時は、頼光さんがいきなり第三段階の姿になったり、信長が逃げ回ったせいで被害がカルデア中に広がった挙げ句、危うくもう少しで完成する予定のオルガマリー所長の身体がダ・ヴィンチちゃんの工房ごと吹き飛びそうになった(ダ・ヴィンチちゃんの工房は半壊)から思い出したくないんだよなぁ。
というかこの特異点に来たのだって、カルデアの異常を解決するためと言うよりは、半泣きになって怒るロマン上司とダ・ヴィンチちゃんに半ば追い出されたようなものだしなぁ。
……まあ、話を戻すとしてこの特異点は聖杯を暴走させた信長の影響で戦国時代の日本をベースにしていて、聖杯によって召喚されたサーヴァント達も彼女がかつて戦った武将の役に無理矢理押し込められているらしい。
この辺りの設定というか事情は私の知っているイベント「ぐだぐだ本能寺」と同じのようだ。そして戦う敵の順番も同じらしい。
今私達はとある山の山頂にいて、遠方の平野には何万という軍勢……というか二頭身信長とそれを率いている聖杯に召喚された牛若丸、武蔵坊弁慶、アーラシュがいた。原作を知っていたので皆に「こまめに偵察をしておいたほうがいい」と進言をして、遠目の魔術で辺りを調べていたら見つけることができたのだ。
原作のぐだぐだ本能寺では、松平役のアーラシュが斥候をしている時に主人公を発見し、その戦闘で放ったステラのせいで牛若丸と弁慶を巻き込んで盛大に自爆したのだが、ああやって三人でいるところを見るとまだアーラシュは斥候に出る前らしい。
……しかし敵の数が多いな。原作ではアーラシュのステラのお陰であらかた片付いたが、正面から戦ってはこちらの被害は大きくなるだろう。
そう。こちらの戦力は私と久世君の魔術師二人、デミサーヴァントのマシュ一人、頼光さんを初めとするサーヴァント(沖田と信長も入れて)十人で計十三名。
対して向こうは牛若丸、武蔵坊弁慶、アーラシュのサーヴァント三人と数万の二頭身信長。
どう考えてもこちらが不利な戦力差。原作のようにアーラシュのステラ誤射を狙おうにも(私や頼光さんといったイレギュラーのせいで)上手くいくかは分からない。
だから私は……。
「どうしました、マスター? え? これを飲んでくれって?」
「これは魔力増幅薬……? 成る程そういう事ですか」
「……ええ、飲み終わりましたよ、マスター。では始めます。神聖領域拡大、空間固定、神罰執行期限設定、全承認。シヴァの怒りを以て、汝らの命を此処で絶つ……」
アルジュナの宝具で全てを一掃する事を選んだ。
「破壊神の手翳(パーシュパタ)!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
アルジュナの宝具が発動した瞬間、聖杯が召喚した牛若丸達がいる平野に太陽が出現したかの様な光が生まれ、その直後に轟音、続いて爆発の衝撃波による突風がここまで届いてきた。
おおう。こ、これがアルジュナの宝具の威力か……! 生で見るのはこれが初めてだけどもの凄い迫力だな。
あまりの光と風の強さに私は思わず両腕で顔を庇って目を閉じ、次に目を開くと敵がいた平野は巨大なクレーターと化していてそこには敵の姿は一人も確認されなかった。
良し。これでこの戦いは私達の勝利だな。……って、ん?
「「「「「「「「「「「……………。(( ゚д゚)ポカーン)」」」」」」」」」」」
ふと視線を感じて振り返ると、久世君を初めとするこの場にいる全員が目と口を開いた驚いた表情となって私とアルジュナを見ていた。よく見れば大抵のことでは動じない頼光さんと山の翁も(山の翁は表情がほとんど分からないが)少し目を見開いて驚いている。
……あの、皆さん? どうかしましたか?
『どうかしましたか? じゃないって!?』
『そうだねー。あれはちょっと無いねー』
私が何故か驚いている皆に声をかけると、いきなりカルデアにいるロマン上司とダ・ヴィンチちゃんからの通信が入ってきた。
『いきなり敵の軍隊をアルジュナの宝具で吹き飛ばすってそれはないよ! いくら何でも盛り上がりに欠けすぎるよ!』
『そうだねー。宝具発動しましたー。敵吹き飛びましたー。戦闘終了しましたー。じゃ戦闘シーン丸々カットでつまらないというか、何て言うか……ねぇ?』
………。
……………。
…………………ロマン上司、ダ・ヴィンチちゃん。正座。
『『え?』』
え? じゃありませんよ。ロマン上司、ダ・ヴィンチちゃん、もう一度言います。正座。
『正座って、ここで? 何で?』
『正座ってアレだろ? 慣れてないと足の負担が尋常ではない座り方だろ? それはちょっと……』
私に同じことを何度も言わせる気か?
『『………ハイ』』
姿は見えずとも気配でカルデアにいるロマン上司とダ・ヴィンチちゃんが正座をするのが分かると、私はカルデアの二人に向けて口を開いた。
ロマン上司、ダ・ヴィンチちゃん? さっきの二人の言葉はあまりにも不謹慎すぎます。盛り上がりに欠ける? つまらない? 貴方達は戦争映画でも見ているつもりなんですか? 貴方達は娯楽のつもりかもしれませんけど、こっちは命懸けの戦いをしているのですよ? いくら私と久世君が契約しているのが一騎当千のサーヴァント達とはいえ、兵力は向こうが断然上だったのですよ? 数の暴力というのは決して無視できるものではない。だから私は万が一の特異点修復失敗の危険を避けるためにアルジュナに宝具を使ってもらったのですが……何か問題でもありましたか? カルデア所長代理ロマニ・アーキマン? 英霊レオナルド・ダ・ヴィンチ?
『……いえ、ありませんです』
『……はい。不謹慎な発言をして申し訳ありませんでした』
通信からの声でロマン上司とダ・ヴィンチちゃんが反省しているのが分かる。
分かってくれたようですね。……ではロマン上司とダ・ヴィンチちゃんは罰として今から三時間正座です。
『『えっ!?』』
ちなみに私が見ていないからって三時間経たない内に正座を崩したりなんかしたら……注入しますからね?
『『注入!? 何を!?』』
これでよしと……。では皆、行きましょ……アレ?
「「「「「「……………」」」」」」
「アイツ、見た目の割には滅茶苦茶過激じゃな。あそこまで過激な奴、ワシの時代の武将にも中々おらんかったぞ?」
「私の時代にもそういませんでしたよ? それにさっきの上司への発言……まるで黒船のような強引さです」
ロマン上司とダ・ヴィンチちゃんのプチ説教が終わって皆の方を見ると、何故か久世君とマシュに久世君と契約をしているサーヴァント達がドン引きしており、信長と沖田が私をチラ見しながら何やらヒソヒソと話をしていた。
ちょっと沖田に信長? 聞こえていますよ。何失礼な事を言っているのですか?
私は最も生存率の高い戦法を取って正しい主張をしただけで何一つ間違った事はしていませんからね?
後、私は医療スタッフだ。武将や黒船なんかではない。