ヴィー! ヴィー! ヴィー!
「薬研さん! 大変で……す……?」
「すみませんがすぐにブリーフィングルームに来てくださ……い……?」
私のマイルームに何者かが訪れてから二、三分の短い時間が経った後、カルデア内部に警報が鳴り響き、それに合わせたかのように久世君とマシュが私のマイルームにとやって来た。
おおっ! 丁度良かった。久世君! マシュ! ちょっと手伝ってくれ!
マイルームに久世君とマシュがやって来たのを見た時、私は思わず笑みを浮かべた。何しろ今、私のマイルームはかなりカオスな状態だからこれを収める人手が欲しかったところだった。
ちなみにどれくらいカオスなのかと言うと……。
刀を降り下ろす頼光さんと、彼女の刀を自分の刀で受けている桜色の着物を着た女性。
後ろからアルジュナに羽交い締めをされている山の翁と、そんな山の翁の大剣を真剣白刃取りで止めている軍服を来てマントを羽織った女性。
抜き身の刀を片手に暴れている牛若丸にヘッドロックをして動きを止めている私。
と、何と言うか一言では説明できないくらいのカオスっぷり。
そしてこの桜色の着物を着た女性と軍服を着てマントを羽織った女性は皆さんの予想通り、桜セイバーこと沖田総司と魔人アーチャーこと織田信長なのである。
三分くらい前に私のマイルームにやって来たのは沖田総司と織田信長で、彼女達の姿を見た途端に頼光さんと牛若丸と山の翁が「見知らぬサーヴァント=不審者=即斬首」という超反応を見せて、その結果がこのカオスという訳だ。
いや、本当に助かった。私とアルジュナだけではこの状況を何とかするのに手が足りないと思っていたんだ。久世君とマシュが来てくれてよかっ……アレ?
「「……………」」
ちょっ? 久世君? マシュ? 何でそんな心底関わりたくないって顔で後ずさっているの?
止めて帰らないで! お願いだからこのカオスを止めるのを手伝って!
私は医療スタッフだ! プロレスラーじゃないからこれ以上牛若丸を止めていられないし、このままだと私のマイルームがリアル漂流者達の戦場に早変りしてしまう!
その後私達は、久世君とマシュの説得と後ついでにロマン上司から呼び出しのお陰で何とか騒ぎを収め、沖田総司と織田信長も連れてブリーフィングルームに行くことにした。
「やあ、皆待っていたよ。……それでそこにいる彼女達が正体不明のサーヴァントかい?」
ブリーフィングルームに入るとすでにそこで待っていたロマン上司が沖田と信長を見て言い、それに山の翁が頷く。
「いかにも。この者達が我等のカルデアに侵入した不審者達である。……首を断つか?」
「えっ!? いや、首を斬るのは止めてもらえないでしょうか? どうやら今カルデアに起こっている異常には彼女が関係しているみたいだし……ね?」
物騒極まる言葉を言う山の翁を愛想笑いを浮かべながら止めるロマン上司。ロマン上司、冷や汗が滝のように流れていますよ? いや、気持ちは分かりますけどね。
そしてそんなロマン上司の視線の先にいたのは不審者のサーヴァントの片割れ、信長であった。……ということは今カルデアに起こっている異常というのは「アレ」で間違いないのだろうな。
「あの……? それでカルデアに今起こっている異常とは何ですか?」
「そう! それなんだけどこれを見てくれ」
マシュの質問にロマン上司は助かったとばかりに山の翁から視線をそらして手に持っていた携帯端末を操作し、ブリーフィングルームのモニターを操作する。そうしてモニターに映し出されたのは、カルデアの内部で信長を二頭身にしたような珍妙な生物が大勢暴れているという光景であった。
……………やっぱりか。
うん。最初に沖田と信長が私のマイルームにやって来た時から気づいていたけど、こうしてこんなシュールな光景を見ると改めて実感させられる。
つまり「FGO」のイベント「ぐだぐだ本能寺」が始まったということだ。
前世で「FGO」をゲームとしてプレイしていた頃は新たなイベントが始まるのを心待ちにしていたのだが、現実としてプレイするとなると気が重くなるというものだ。……ん?
「貴女が原因ですね! 大人しくしなさい! 今すぐ首を斬ります!」
「首がかかっておるのに大人しくするわけあるかぁ! 少しはワシらの話を聞けぇ!?」
「問答無用!」
「ああ、待って!? 待ってください! 個人的にはソイツ、斬り捨ててもいいのですが、今だけはちょっと……ごふぅ!?」
「人斬りィィ!? おまっ! 血を吐いて倒れるならコイツを止めてから倒れんかぁ!」
私が内心でため息を吐いていると、モニターの映像を見た牛若丸が信長に斬りかかり、それを信長が真剣白刃取りで止めて、そんな二人を止めようとした沖田がいきなり血を吐いて倒れるというカオスが展開されていた。
………何だか出だしからぐだぐだなんじゃが。