オルレアンの特異点からカルデアに帰還した日から二日後。一日の休日を挟んで私達は英霊を召喚する部屋に集まっていた。
この部屋に集まったのは当然、新たなサーヴァントを召喚するためである。
しかし、これから新しい仲間を呼び出すと言うのに久世君とマシュの表情は少し暗い。これは間違いなくオルレアンの最後の戦いが原因だろう。
実際、今日頼光さんと一緒に久世君とマシュに会うと二人揃って顔を僅かにひきつらせていたし、正直二人には悪いことをしたと思う。
そんなことを考えていると私達を集めたロマン上司が口を開いた。
「さあ、それじゃあ早速英霊の召喚を始めようか。今回召喚できるサーヴァントは聖杯の霊子から二名。薬研クンが回収した六つの聖晶石から二名で合計四名だ」
ロマン上司が言った六つの聖晶石とは、オルレアンにレイシフトした直後に戦った五名のバーサーク・サーヴァントのものと、最後の戦いで倒したジル・ド・レェのものである。
私が聖晶石を回収しないはずがないじゃないですか?
ええ、聖晶石はとても大切なものですからね。例え欠片であっても一つたりとも見逃しませんよ。
「今回の召喚では久世クンと薬研クンにはそれぞれ二名のサーヴァントと契約してもらおうと思うけど、二人ともそれでいいかな?」
「はい」
ロマン上司の言葉に久世クンが答え、私も「それでいいですよ」と言って頷く。
そうして新たなサーヴァントの召喚が始り、最初に召喚を行うのは前回と同じく久世君。
先日、ロマン上司に久世君のサポートを最小限にすると言った私としては、彼にはここで強力なサーヴァントを引き当ててほしいものである。
そして私が久世君の元に強力なサーヴァントが現れることを祈っていると、召喚システムより立ち上った光の柱から二人分の人影が現れた。
「あの人は……」
「オルレアンで会った……」
「げっ……。あのヤロウは……」
光の柱から現れた新たな二人のサーヴァントの姿を見てマシュとセイバー・リリィとクー・フーリンがそれぞれ言葉を放つ。
久世君が召喚して契約をした二人のサーヴァントは、白の着物を着て頭に二本の角を生やした少女と、赤の服を着た褐色の肌の男性。
「サーヴァント、清姫。こう見えてバーサーカーですのよ? どうかよろしくお願いしますね、マスター様」
「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した」
なるほど。久世君が召喚したのは清姫とエミヤか。
ゲームでは二人とも星三と星四だったが、中々に使いやすいキャラクターだったし、マスターの意志を尊重してくれる性格だから久世君の心強い味方になってくれるだろう。……て、おや?
「ああ! 旦那様! こうして再び出会えるだなんて! やっぱり私達は結ばれる運命だったのですね!」
「え? ……うわっ!?」
「ちょっ!? 一体何をしているのですか!?」
「やれやれ……。まさかこんな所でもお前の顔を見るはめになるとは……。いい加減この腐れ縁にもうんざりしているのだがね」
「うるせぇよ。それはこっちの台詞なんだよ」
清姫が久世君に抱きついてそれにマシュが血相を変え、エミヤが苦笑を浮かべて憎まれ口を叩いてそれにクー・フーリンがそれに苦々しく答える。そしてそうしている内にどんどん彼らの周囲の空気が剣呑になっていく。
いや、この展開になるのは分かっていたけど、いくらなんでも空気が悪くなるスピード早すぎない? 久世君とセイバー・リリィも言い合いをしているマシュと清姫、エミヤとクー・フーリンを止めようとするがまったく止まらずおろおろしているし、これは完全に予想外だよ。
というか、久世君達ってばチームワーク的にむしろ戦力ダウンしていない?
「ええっと……。じゃ、じゃあ次は薬研クンの召喚をしようか?」
ロマン上司がいまだ騒いでいる久世君達を見ないことにして私の召喚を始めようとする。
いや、関わりたくないのは分かりますけどそれでいいんですか? カルデアの総責任者(代理)。
まあ、それはとにかく私の召喚をすることに。
私は言い合いをしている、あるいはそれを止めようとしている久世君達を横目で見ながら切に思った。どうか頼光さんとアルジュナと喧嘩をしないサーヴァントでありますようにと。間違っても青い着物を着た見た目ロリっ娘な鬼と某施しの英雄が来ませんようにと。
そんな私の願いの元に現れたサーヴァントは……。
「牛若丸、まかりこしました。武士として誠心誠意、尽くさせていただきます」
「怯えるな契約者よ。山の翁、召喚に応じ姿を晒した。我に名はない。呼びやすい名で呼ぶがよい。」
露出が多すぎる格好の少女の武者と武骨な大剣を持った骸骨の騎士であった。
…………………………え? 何コレ?
牛若丸はまだ分かるとして何でグランドサーヴァントのキングハサンこと山の翁まで召喚されたの?
あの、山の翁さん? 何で私の召喚に応じてくれたのですか? 牛若丸は頼光さんつながりで縁ができたのは分かりますけど、山の翁さんは私達と何のつながりもありませんよね?
「……その疑問はもっともだな、契約者よ。本来であれば契約者の元に来るのは我ではなく別の英霊のはずであった」
私の質問に山の翁は少し考える素振りを見せてから答えてくれた。そして山の翁はそのまま説明を続けてくれる。
「しかしその英霊は召喚したのが契約者だと知ると呼びかけを拒否してな、穴埋めとして別のサーヴァントが呼ばれる事となったのだ。そしてその時、拒否をした英霊が口にした『もう首を切られるのは嫌だ』という言葉に思わず反応したら我が召喚されたという訳だ」
もう首を切られるのは嫌だ、という言葉でピンときた。恐らく私が本来召喚してそれを拒否したサーヴァントというのは彼女なのだろう。オルレアンで戦った黒の聖女。
というかジャンヌ・オルタってばオルレアンの特異点での事がそんなにトラウマだったの? 英霊の座に戻っても覚えていて、私の召喚を拒否するくらいに?
……しかし、私が召喚したのが牛若丸と山の翁って。頼光さんとアルジュナと喧嘩はしないし、とても頼りになるんだけど、どこか不安を感じるのは何故だろう?
久世大地と薬研征彦が召喚したサーヴァント
【久世大地】
清姫(バーサーカー・☆3)
嘘つき焼き殺すガールで、久世大地をめぐってマシュと言い合いする。
しかし本来はマスターにつくすよくできた少女。
エミヤ(アーチャー・☆4)
皮肉屋で、クー・フーリンとは犬猿の仲。
しかし本来は面倒見のよい正義の味方。
【薬研征彦】
牛若丸(ライダー・☆3)
同じ源氏つながりで頼光さんと相性がいい。
しかし強すぎる忠誠心のせいでよく暴走するブレーキの壊れた忠犬。
山の翁(アサシン・☆5)
実力は申し分なく、他とも足並みを揃えてくれる面倒見のよいハサン。
しかし「首を出せ」の口癖が怖すぎる暗殺教団の初代トップ。