私は医療スタッフだ!   作:小狗丸

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「さあ! ファヴニール! あいつらを殺……っ!?」

 

 自分達を乗せているファヴニールに私達を襲わせようとするジャンヌ・オルタであったが、その言葉は途中でいきなり途切れてしまう。

 

 何故ならば、先程から空中でファヴニールの巨体が突然バラバラになって、ファヴニールの上に乗っていたジャンヌ・オルタとサーヴァントのジル・ド・レェがファヴニールの肉片と一緒に地面に落ちていったからだ。

 

 そう、バラバラ。

 

 何の前触れもなくファヴニールの巨体は空中で十七分割となり、流石の伝説の魔竜も体を十七に引き裂かれたら生きていられるはずもなく、地面に落ちたファヴニールの頭部にある瞳からは生命の光が消え失せていた。

 

 あー、これでファヴニール戦終了か。随分と呆気ない終わりだったな……って、え?

 

「え?」

 

「ええ?」

 

「フォウ、フォウ(※特別意訳 さん、ハイ)」

 

『ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっっっ!?』

 

 思わず自分の口から声が漏れたと思ったら久世君とマシュに口からも声が漏れ、次にフォウの鳴き声を合図に私も含めたこの場にいる全員の口から疑惑の叫び声が放たれて大合唱となった。

 

 い、いやいやいやっ! 一体どういうこと!? どうしてファヴニールがいきなりバラバラになるのさ? ファヴニールはオルレアンのボス格の一体なのに一回の戦闘も無しに退場だなんてそんなのアリなの!?

 

 一体誰がこんな非常識な事、を……?

 

 そこまで心の中で叫んだところで気づいた。そう、私達にはそんな非常識な事をサラッと実行できてしまうお方が一人いることを。

 

「あらあら。流石は龍殺しの大剣。龍の鱗との相性はバツグンですね♪」

 

 そんな声と一緒に空から降ってきたのは私が最初に呼び出して契約をしたバーサーカーのサーヴァント、源頼光。そして彼女の手にあるのは頼光さんがいつも使っている刀ではなく……。

 

「俺のバルムンク!? いつの間に!?」

 

 頼光さんの手の中にあったのはジークフリートの背中にあったバルムンクで、それを見たジークフリートが驚きの声を上げた。

 

 え? 何? 頼光さんってば私達の誰にも気づかれない程の速さでジークフリートからバルムンクを奪って、ファヴニールの巨体十七分割したってこと? ……な、何だか頼光さんってばいつも以上にメチャクチャじゃない? ついさっきまで落ち込んでいたのにどういうことなの?

 

「う、うう……!」

 

「お久しぶりですね。もう一人のジャンヌ・ダルクさん」

 

「あ、貴女は!?」

 

 ファヴニールの上から地面に叩きつけられた衝撃でほんの少しの間、気を失っていたジャンヌ・オルタだったが頼光さんの声を聞いて表情を強張らせる。

 

「貴女、今おかしな事を言いませんでしたか? 私のマスターの、我が子の体を引き裂いて、煉獄の炎で灰も残さずに念入りに燃やし尽くしてあげる、とか……」

 

 いつ見ても背筋が凍りそうなくらいに恐い目が全く笑っていない笑みを浮かべながら、先程ジャンヌ・オルタが私に言った台詞を口にする頼光さん。あれってもしかして……。

 

「もしかしなくてもそうでしょう。あの黒いジャンヌの言葉に怒りを感じて、魔竜を八裂きにすることで彼女の『マスターの体を引き裂く』という言葉の意趣返しをしたのでしょう」

 

 私の内心を読み取ったアルジュナが解説をしてくれた。

 

 それにしてもやっぱりか。頼光さんの行動力と戦闘力は相変わらず頼もしいけれど、八つ当たりで瞬殺された伝説の魔竜に同情を禁じ得ない。

 

「………!」

 

「あらあら、そんなに恐い顔をしないでください。……実は私、今貴女にとても感謝しているのですよ?」

 

「……はぁ?」

 

 まだ落下のダメージが抜けていないのか、弱々しい動きで立ち上がりながら恐れと怒りが混じった表情で頼光さんを睨み付けるジャンヌ・オルタであったが、頼光さんの突然の言葉に呆けた表情になった。ちなみに呆けた表情になったのは私達も同じだ。

 

 頼光さんがジャンヌ・オルタに感謝? 一体どういうこと?

 

「お恥ずかしい話ですが実は私、つい先日に大きな失態を犯しました。その失態をどうにか償う方法を考えていた矢先にジャンヌ・オルタさん、貴女という敵の大将が現れてくれて本当に助かりました。敵の大将の首級を獲ったとなれば汚名返上には充分のはず。ですから……」

 

 そこまで言うと頼光さんは手に持っていたジークフリートのバルムンクを地面に突き刺し、自分の刀を抜いた。

 

「首、置いていってくださいません。ねえ? 大将首。大将首でしょう? ねえ、大将首でしょう、貴女」

 

「あ、ああ……」

 

 頼光さんの狂気すら感じさせる凄みのある笑みにジャンヌ・オルタが真っ青になって身体を震えさせる。

 

 それはそうだろう。私がもしジャンヌ・オルタの立場だったら今頃恐怖のあまり心臓麻痺でも起こして死んでいるだろう。

 

 それにしても頼光さんのあの台詞……頼光さんってばカルデアにいた頃に貸した「漂流者達」の漫画の影響? 今思い返してみれば読んでる最中に何度も深く頷いていたし、やっぱり気に入っていたんだな。

 

 ……………貸すんじゃなかった。昔の私の馬鹿。

 

「では……御首級、頂戴!」

 

「ヒイッ!?」

 

 私が過去の自分の愚行に後悔をしていると、頼光さんが目尻に涙を浮かべているジャンヌ・オルタの首をめがけて刀を振るった……って、もう!? 何だかこんな展開前にもなかった!?


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