「マスター」
怪我人達のところに戻ろうとすると誰かが背後から私に抱きついてきた。
……いや、誰かが、じゃないな。こんな事をするのは一人しかいない。一体どうしたんですか、頼光さん?
「すみません、マスター……。マスターが私の作ったおにぎりを食べてくれた気配がなかったので様子を見に来たら、マスターと久世さん達の会話を聞いてしまいました……」
ああ、そうか。あの会話を聞いてしまったのか。
……いや、ちょっと待って。おにぎりを食べてくれた気配がなかったって何? もしかして頼光さんっていつも私の行動を監視しているの? やだ、ありえそうで怖い。
「マスター。マスターは自分にできることをしただけで何も悪くありません。将というものは時には酷な事もなさなければならないこともあります。ですからどうかお気になさらないでください」
久世君とマシュとの会話で私が若干落ち込んでいると思った頼光さんは、抱きついた状態で慰めの言葉を言ってくれた。
それは嬉しいのだが……将って何よ将って? 私は医療スタッフだ。間違っても将なんかではない。
「ですが先程マスターの決意に満ちた表情を見て思いました。ああ、この人は大局のためならば、どんなに辛い道でも前に進むのだなっと。そんなマスターを今まで以上に支え、力になってあげたいと」
ホワット?
私が内心で頼光さんに抗議の声をあげていると彼女は何やら真剣な声で訳の分からないことを言ってきた。
大局のためならばどんなに辛い道でも前に進む?
大局って何のこと? むしろ私は辛い道を避けたいのですけれど?
私がそう考えていると頼光さんは、私を強引に自分に向き直らせて真剣な表情で口を開いてきた。
「誓いましょう……マスター、私は貴方を我が子のように愛し、貴方を守っていきます。ですから、どうかマスター、貴方も母を頼ってくださいね。私は、母はどんな時でも何が起こっても貴方の側にいますから」
これは……台詞は違うけどもしかして絆Lv.5の会話? 私ってばいつの間に絆Lvを上げていたの?
「言っておきますけど母は本気ですよ? 貴方を苦しめる者はいかなる者でもこの母が切り捨てましょう。例えそれがあの久世君達で……」
ストップ。頼光さんが本気なのは分かりましたけど、そこから先は言ってはいけない。
というか切り捨てましょうって何? 私が苦しむことになったら久世君達も切り捨てるの?
ヤバいな。頼光さんは有言実行でどんなに怖いことでも平気でやるからな。これ以上は本当に洒落にならない。ここはひとつ、何か別の話題で話をそらさないと……ん?
「……………、!」
私が話をそらすための話題を探していた時、遠くから声が聞こえてきた。
一体何だろうかと私と頼光さんが声が聞こえてきた方を見ると、そこには数十騎もの騎兵の大軍がこちらに向かって全速力で駆けており、その戦闘にいたのは……。
「ジャッ! ジャアアアンヌゥゥ! 我が! 希望の聖処女よおおおおおっ!」
眼球が半分くらい飛び出している両目から滝のような涙を流し、顔色を紫色に染めながらも人間とは思えない肺活量で叫んでいるジル・ド・レェであった。……って、ジル・ド・レェ!? 前回はワイバーンに乗って登場して今回は馬に乗って登場?
ジル・ド・レェが来たってことは私の策が成功したのか? でもだったら何でジル・ド・レェだけなの? ジャンヌ・オルタは?
「おのれ! またあの鬼ですか!」
ドシュッ! ズババババァン!
私がいきなりのジル・ド・レェの登場に戸惑っていると、頼光さんがジル・ド・レェとその後ろの騎兵達に向けてバスターアタックの一段目の衝撃波を放ち、それによってジル・ド・レェはまるでボーリングのピンのように吹き飛んだ。おおう、ストライク。
アレ? よく見たらあの吹き飛ばされたジル・ド・レェ、ローブじゃなくて鎧を着てない?
アレ? だとしたらあのジル・ド・レェは、敵のジル・ド・レェ(キャスター)じゃなくて、味方のジル・ド・レェ(セイバー)だったりする?
アレ? そう言えばこの特異点のジル・ド・レェ(セイバー)って、サーヴァントじゃなくて生身の人間じゃなかったっけ?
ドチャ☆
あっ。今、ジル・ド・レェ(セイバー)ってば頭から落ちなかった? しかも何だかジル・ド・レェ(セイバー)そのまま動かないんだけど? これってもし死んだりしたら私と頼光さんのせいになっちゃったりする?
……………………………………ど、どうしよう?
「ジル・ド・レェってばキャスターでもセイバーでも薬研程じゃないけどいい仕事するわね。彼らの活躍を見てるだけでご飯三杯イケそう」by運命(Fate)の女神