「薬研さん! お久しぶりです」
「ご無事で何よりです」
「フォウ、フォウ!」
ロマン上司に言われた合流ポイントに行くと、そこに待っていた久世君とマシュとフォウが嬉しそうな顔で歓迎してくれた。
よかった。久世君達の方も元気そうだね……って言うか随分と大所帯になったね。
私がそう言って周囲を見回すと、そこには私と久世君が契約しているとは別のサーヴァントが数人いた。
この特異点の中心人物と言ってもフランスの聖処女ジャンヌ・ダルク。
今とは別の時代のオーストリアに生まれ、後世にその名を残すフランス王妃マリー・アントワネットと天才音楽家アマデウス。
それぞれが竜殺しの逸話を持つ英雄ジークフリートと聖人ゲオルギウス。
第一特異点で味方として登場するサーヴァントがほとんど揃っていた。後はエリザベートと清姫がいたら完璧である。
……久世君。よくこの短期間でこれだけのサーヴァントを集めたね?
ゲームでは簡単に移動できたけど、実際に移動するとフランスってとても広いんだよ? それなのにたった十日間でフランス各地にいるサーヴァントを五人も集めるなんて、久世君って人探しの才能とかあるの?
ちなみに私では絶対無理だ。私は医療スタッフだ。そんな探偵みたいな芸当、できるはずがない。
「え? いや、違いますよ? 皆とは旅をしているうちに偶然出会ったんですよ」
私が感心したように見ると久世君は手を振って訂正する。
久世君の話を聞くと彼とマシュにフォウ、そしてクー・フーリンとセイバー・リリィはレイシフトをしてすぐに原作通りにジャンヌ・ダルクと出会って、特異点だと思われるもう一人のジャンヌ・ダルク……つまりはジャンヌ・オルタを一緒に探すことにしたらしい。
そしてジャンヌ・オルタを特異点だと考えてその行方を探すのは他のサーヴァント達も同じだったようだ。その為、ジャンヌ・オルタが現れてワイバーンに襲われた街を訪ねて情報収集をしていた久世君達は、自然と同じく情報を集めていたこの時代に呼ばれたサーヴァント達と出会って行動を共にするようになったそうだ。
……私達はレイシフト直後から酷い目にあったのに、久世君達は順調に旅を出来たみたいだね。本当に羨ましい。
「まあ、順調って言うか何事も無さすぎて逆に退屈なくらいだったぜ。なあ?」
「そうですね。街を襲っていたワイバーン達は私達が近付くとすぐに逃げていきましたし、騎士の皆さんは騒ぎを収めるのに忙しくて、全く旅の邪魔はありませんでした」
私の呟きにクー・フーリンが答え、話をふられたセイバー・リリィもまた同意する。
……そうか。ワイバーンがすぐに逃げていった為に久世君達の方は順調に旅ができて、この時代に呼ばれたサーヴァント達を仲間にできたのか。
それを聞いて少し安心した。私達のせいで街がワイバーンに襲われて、その上久世君達の邪魔をしたとなったら申し訳なくて顔向けできないところだった。
「え? 薬研さん、私達のせいでってどう言うことです?」
『そうだね。ボクも最初はワイバーンをサーヴァント達から逃げていくのを見た時は不思議に思ったけど、薬研クンの話を聞いたときは本当に驚いたよ』
私の呟きに今度は久世君が不思議そうな顔をしてロマン上司の苦笑が混じった声が聞こえてくる。
そこで私は久世君達にレイシフト直後にジャンヌ・オルタ達と出会って戦闘になったこと、その戦闘でジャンヌ・オルタに従っていたサーヴァントを五人も倒したこと、私達から逃れたジャンヌ・オルタが頼光さんに殺されかけたトラウマのせいでサーヴァントとの戦闘を徹底的に避けている事を話した。
すると頼光さんとアルジュナとロマン上司を除く全員が驚いた顔をした。……それはそうだろうな。
とにかく。今、ワイバーンがフランス中でいたずらに暴れまわっているのは私の責任でもある。だから皆、ジャンヌ・オルタを捕まえて彼女を倒すのに協力してくれないか?
「それは……勿論ですけど薬研さん、何か考えがあるのですか?」
ああ、久世君。私に一つ策がある。
……………まあ、これは策、というより勝算が低い賭けみたいなもので、これが上手くいかなかったら最終手段に出るしかないんだけどね?
「最終手段? 何ですか、それは?」
………。
……………。
…………………ジャンヌ・オルタがいそうな場所、例えばワイバーンが集まっている箇所をアルジュナの宝具で一斉に爆破する。
『はぁ!? 本気で言っているのかい薬研クン! そんな事をしたら敵のジャンヌ・ダルク以上の被害が出るよ!』
し、仕方がないじゃないですかロマン上司! 医療だって偶には全体を生かす為に病巣を大体的に切り捨てる必要があるんです!
そ、それに私の策が上手くいったらやらなくて済むのですから! 人理が崩壊するよりマシでしょう!?